富士宮市(ふじのみやし)=静岡県東部の市。戦国期の富士城城主を務める武家・富士氏の発祥・根拠地。世界文化遺産である富士山を有し、またその構成資産である駿河国一宮の富士山本宮浅間大社や山宮浅間神社、村山浅間神社、白糸ノ滝などの文化的資産がある。名称の由来は、「富士の宮」という浅間大社の旧社号から由来する。人口は、男66,517 女68,095 合計134,612 世帯数54,236(2015年12月1日現在)。
静岡県富士宮市議会は11月定例会最終日の2015年12月14日、手話が言語であるとの認識に基づき、手話を使用する人への理解と手話の広がりをもって、地域で支えあい、安心安全に暮らすことの出来る地域社会の実現を目指す理念を定めた「市手話言語条例案」を全会一致で可決した。施行は2016年4月1日。全国の自治体で25番目。
傍聴した人や須藤秀忠市長、市議は県内初の条例制定を祝う横断幕を議場内で掲げた。
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障害者の権利に関する条約(2006年採択)や障害者基本法(2011年改正)において、手話が言語として位置付けられたことを受けて、手話を使う権利を具体的に保障する手話言語法の制定を求める動きが全国的に広まり、2014(平成26)年9月の富士宮市議会定例会において、手話言語法制定を求める意見書が提出され、全会一致で採択され、須藤秀忠市長が同年11月の定例会で条例制定に向け、前向きな姿勢を示していた。
市では、手話が言語であることに基づき、手話を使用する人への理解と普及及び地域において手話を使用しやすい環境の構築を目指して、「手話言語条例」の策定に向けて作業を進め、2015年9月1日(火)から年9月30日(水)まで、市民から意見(パブリックコメント)を募った(意見)。
意見には、「条例が制定されるだけで終わらないことを切望するとともに、必要に応じて手話を使用することができる環境を整えていくことが大切であると強く訴えます」「多くの人が手話を学ぶことや手話を理解することが必要であることから、まずは環境を整えてほしい。また、ろう者の方々が使いやすいサービスを多く増やしてほしい」等があった。
市は、「制定後においても基本理念に基づいた条例の整備や手話を使用しやすい環境づくりのための施策の推進など、取り組んで参ります」「手話を使用することができる環境づくりなど取り組んでまいります」との考え方を示し、案の修正はしなかった。
市議会環境厚生委員会は2015年12月3日、全会一致で可決。12月14日の11月定例会最終本会議で可決、成立した。市保健福祉部の杉山洋之部長は委員会で「住み慣れた地域で安全安心に暮らせる環境づくりを目指す」と説明した。
手話言語条例案を可決すべきと決めた環境厚生委。手話通訳者(手前左)が傍聴席向けに議事内容を伝えた=3日午後、富士宮市議会 |
条例は、「手話は言語」との理解促進と普及を図ることが目的で、手話は聴覚障害のある「ろう者」が心豊かな社会生活を営むために受け継がれ、人格・個性の尊重と共生社会の実現に必要な言語−とする基本理念を掲げた。
また、手話の理解促進と普及に向けた施策推進を「市の責務」と明文化した。さらに、「市民や事業者の役割」としては、市の関連施策への協力に加え、ろう者が利用しやすいサービス提供や働きやすい環境の整備を求めた。
■条例のポイント 2016年4月1日施行 Ø 手話は、独自の言語体系を有する文化的所産 Ø 手話は、共生社会の実現に必要な言語 Ø 手話の理解促進と施策推進は、市の「責務」 Ø ろう者の利用しやすいサービス提供と働きやすい環境整備は、市民と事業者の「役割」 Ø 市は、手話の普及等に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずる |
同市はこれまで、病院などへの手話通訳者の派遣や、手話通訳養成講習会などを開いてきたが、条例案可決を受け、手話通訳者のさらなる養成やパンフレット制作、手話劇の上演会など具体的な施策を講じる方針。
この日の市議会の傍聴席には、市身体障害者福祉会聴覚障害部に所属する「ろう者」ら約20人が採決の瞬間を見守った。手話通訳者が笑みを浮かべて“可決”を伝えると、皆が両手をひらひらさせる“拍手”の手話で喜びを表し条例制定を歓迎した。
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県富士聴覚障害者協会の富士宮市代表の佐野尚子さん(51)は「耳が聞こえなくても、いろんな人と会話をしたいし、聴覚障害について理解が広がってほしい。私たちも市と一緒に聴覚障害者が働きやすい環境をつくりたい」と話した。
市内唯一の手話通訳士(44)は「手話通訳が仕事として成り立たない現状がある。手話言語の条例PRと一緒に、仕事に対する理解普及も進んでほしい」と語った。
静岡県聴覚障害者協会の小倉健太郎事務局長は、手話通訳を介して「手話という言葉がどんどん広がることにもなり、うれしい。手話を当たり前に学び、使える社会が来ることに期待したい」と語った。
須藤市長は「福祉を大きく前進させる契機になる。計画的に施策を講じる」と述べ、啓発活動や手話通訳者養成に力を入れる考えを強調した。
市手話言語条例推進委員会の実行委員長で、聴覚に障害がある女性は「手話の輪が広がり、生活が豊かになる。『ありがとう』『いらっしゃいませ』の簡単な手話が広がるだけでもうれしい」と話した。
静岡県内に手話を使って生活する人は約2000人。手話通訳者は234人(2015年6月現在)。富士見市内のろう者は440人で、手話通訳者は5人。だが、まだ十分ではないという。
富士宮市と同様に、2016年4月の手話言語条例施行を目指す浜松市では、市民意見を募るパブリックコメントが11月11日に終了した。市は意見に対する考え方をホームページや冊子で1月12日から公表し、2月議会への議案提出を目指す。可決されれば、4月に施行する予定。伊東市も「障害者団体との会合で条例の話題が上がっており、今後、参考にしたい」としている。
静岡県も条例制定を検討する方針。障害福祉課の渡辺加絵課長は「制定に向けたスケジュールは未定」とした上で、「手話を使う方々の要望や市町の意向を踏まえ、意見交換しながら進めていく」との構えを示す。
こうした動きを背景に、静岡県聴覚障害者協会は県に提示するための素案づくりに取り組んでいる。小倉健太郎事務局長は「2016年4月までに素案を完成させ、2017年4月の県条例施行を働きかけていく」としている。
言語は、お互いの感情を分かり合い、知識を蓄え、文化を創造する上で不可欠なものであり、人類の発展に大きく寄与してきた。手話は、音声言語である日本語と異なる言語であり、手指や体の動き、表情を使って視覚的に表現する言語である。ろう者は、物事を考え、コミュニケーションを図り、お互いの気持ちを理解し合うために、また、知識を蓄え、文化を創造するために必要な言語として手話を大切に育んできた。 しかしながら、これまで手話が言語として認められてこなかったことや、手話を使用することができる環境が整えられてこなかった。 さらにろう者は、ろう教育においても口話法を長きにわたって強いられてきた。 その結果、ろう者の言語である手話の使用が事実上禁止され、ろう者の尊厳が深く傷つけられた歴史をもつ。 ろう者は、必要な情報を得ることもコミュニケーシヨンをとることもできず、多くの不便や不安を感じながら生活してきた。 こうした中で、障害者の権利に関する条約や障害者基本法(昭和45年法律第84号)において、手話は言語として位置付けられたが、手話に対する理解の広がりを感じる状況に未だ至っていない。 手話が言語であるとの認識に基づき、手話の理解と広がりをもって地域で支え合い、手話を使って安全安心に暮らすことができる富士宮市を目指し、この条例を制定する。 1 目的 この条例は、手話が言語であることに基づき、手話を使用する人への理解と普及及び地域において手話を使用しやすい環境の構築に関し、基本理念を定め、市の責務及び市民の役割を明らかにするとともに、総合的かつ計画的に手話の普及等に関する施策を推進し、もって全ての人が安全安心に暮らすことができる地域社会を実現することを目的とする。 2 定義 この条例において「ろう者」とは、手話を言語として日常生活又は社会生活を営む者をいう。 3 手話の意義 手話は、独自の言語体系を有する文化的所産であって、ろう者が知的で心豊かな社会生活を営むために大切に受け継いできたものであることを理解しなければならない。 4 基本理念 ろう者が、自立した日常生活を営み、地域における社会参加に務め、全ての市民と相互に人格と個性を尊重しあいながら、心豊かに共生することができる地域社会の実現を目指すものとする。 2 手話は、言語であり、手話を使用する人への理解と手話の普及を図り、手話でコミュニケーションを図りやすい環境づくりに努めなければならない。 3 ろう者は、手話による意思疎通を円滑に図る権利を有し、その権利は尊重されなければならない。 5 市の責務 市は、手話と手話を使用する人に対する理解を市民に広げ、手話を使用しやすい環境にするための施策を推進するものとする。 6 市民の役割 市民は、手話と手話を使用する人への理解を深め、市が推進する施策に協力するよう努めるものとする。 2 事業者は、ろう者が利用しやすいサービスを提供し、ろう者が働きやすい環境を整備するよう努めるものとする。 7 施策の策定及び推進 市は、障害者基本法第11条第3項の規定により策定する障がい者のための施策に関する基本的な計画(以下「障がい者計画」という。)において、次の各号に掲げる施策について定め、これを総合的かつ計画的に推進するものとする。 (1) 手話に対する理解及び手話の普及啓発に関する施策 (2) 手話による情報取得や手話の使用しやすい環境づくりに関する施策 (3) 手話による意思疎通支援の整備と拡充に関する施策 (4) 前3号に掲げるもののほか、市長が必要と認める施策 2 前項の施策の推進方針は、市が別に定める障がい者に関する計画との調和が保たれたものでなければならない。 3 市は、施策の推進方針を定め、又はこれを変更する時は、あらかじめ、手話を使用する市民の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする。 8 財政上の措置 市は、手話の普及等に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。 9 委任 この条例に定めるもののほか、必要な事項は、別に定める。 附 則 (施行期日) 1 この条例は、公布の日から施行する。 2 市は、この条例の施行の日から起算して3年を経過するごとに、この条例の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。 |
(目的)
第1条 この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話への理解の促進及び手話の普及に関する基本理念を定め、市の責務及び市民等の役割を明らかにするとともに、手話に関する施策の基本的事項を定めることにより、ろう者及びろう者以外の者が共生することができる地域社会を実現することを目的とする。 (定義) 第2条 この条例において「ろう者」とは、手話を言語として日常生活又は社会生活を営む者をいう。 (基本理念)
第3条 手話への理解の促進及び手話の普及は、次に掲げる基本理念にのっとり推進されなければならない。 ⑴ 手話は、独自の言語体系を有する文化的所産であって、ろう者が知的で心豊かな社会生活を営むために大切に受け継がれてきたものであること。 ⑵ 手話は、ろう者及びろう者以外の者が、相互にその人格及び個性を尊重し、かつ、共生することができる地域社会の実現のための意思疎通の手段として必要な言語であること。 (市の責務)
第4条 市は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話への理解の促進及び手話の普及を図るための施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。 (市民等の役割)
第5条 市民は、基本理念に対する理解を深め、市が推進する施策に協力するよう努めるものとする。 2 事業者は、基本理念に対する理解を深め、ろう者が利用しやすいサービスを提供し、ろう者が働きやすい環境を整備するよう努めるものとする。 (施策の策定及び推進)
第6条 市は、第4条の規定に基づき、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第3項に規定する富士宮市障がい者計画において、次に掲げる施策を定め、これを総合的かつ計画的に推進するものとする。 ⑴ 手話への理解の促進及び手話の普及に関する施策 ⑵ 手話により情報を取得し、及び手話を使用しやすい環境づくりに関する施策 ⑶ 手話による意思疎通支援の整備及び拡充に関する施策 ⑷ 前3号に掲げるもののほか、市長が必要と認める施策 (委任)
第7条 この条例に定めるもののほか、必要な事項は、別に定める。 附 則
この条例は、平成28年4月1日から施行する。 |