注目のコラム;『障害を生きる』=個性が尊重される社会

 

2017年8月22日付『佐賀新聞』−「有明抄」

 

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菜穂子さん(自宅居間にて)

 

「声なき詩人」と呼ばれる堀江菜穂子さん(22)=東京都=は、寝たきりのベッドで詩を紡ぐ。生まれた時に脳性まひを患い、話せず、わずかしか動かない手で詩を書く。この夏、初の本格詩集『いきていてこそ』(サンマーク出版)が出た

 

◆<いまつらいのも/わたしがいきているしょうこだ>で始まる表題詩は、彼女なりの決意と悩む周囲への励ましに満ちている。<いまのつらさもかんどうも/すべてはいきていてこそ/どんなにつらいげんじつでも/はりついていきる>。彼女は都立の特別支援学校に小学部から通い、自分の可能性を広げてきた

 

◆今夏、佐賀県教委は自力通学が難しい児童生徒の通学を支援するため、県立特別支援学校6校でスクールバスの運行を始めた。保護者の苦労を考えれば、やっととの思いを強くする。委託する外部の乗務員に、障害のある子どもたちへの理解を深める研修をしての開始である

 

◆どうすれば悩みを減らせるか。知恵を出し合うのが同じ社会に暮らす者同士である。「してあげる」でも「してもらっている」でもない。障害があって生きる姿は、誰もが暮らしやすい社会づくりに気づくきっかけになる。それが個性が尊重される社会だ

 

◆<わたしはわたしのじんせいを/どうどうといきる>。そう綴(つづ)る堀江さん。障害とともに一歩、一歩である

 

詩集『いきていてこそ』はサンマーク出版のHPから無料で読むことできる。

 

検察サンマーク出版いきていてこそ立ち読みor電子版の立ち読みをクリック。

 

 

脳性まひとたたかう22歳の“声なき詩人”、堀江菜穂子さん。

寝たきりの生活を送りながら、わずかに動くゆびさきを使って「筆談」で紡がれる彼女の言葉にいま、心励まされ、勇気づけられる人があとをたたないという。

 

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堀江菜穂子(ほりえ・なおこ)さん

1994年生まれ。出産時のトラブルから、重度の脳性まひを患う。体はほとんど動かせず、言葉も話せない。自宅の居間に据えたベッドで両親の介助を受けて暮らす。

都立の特別支援学校に小学部から通いはじめ、中学部のころに筆談などを練習して生活力を身につける自主スクールに参加。

幼少時から母が読み聞かせてくれていた詩を「心をかいほうするためのしゅだん」として自ら書くようになり、これまで紡いだ作品はおよそ2000編にのぼる。

現在は、民間の障害者施設に通う。大好物のプリンは、いくら食べても飽きない。小学生のころからずっと、香取慎吾くんの大ファン。

 

「いきていてこそ」は全54編。命の尊さを訴える詩のほか、言葉遊びのようなリズミカルな作品もある。

 

 詩人の谷川俊太郎さんは「菜穂子さんが書いたものは、詩なのに詩を超えて、生と言葉の深い結びつきに迫っている」と、詩集の感想を寄せている。

 朝日新聞の取材に対し堀江さんは、「わたしのこのいのちがだれかの心をあったかくできたらうれしい」と筆談で答えている。

 

                  

「声なき詩人」と呼ばれているそ…(2017年9月10日配信『山陽新聞』−「滴一滴」)

  

 「声なき詩人」と呼ばれているそうだ。初の本格詩集「いきていてこそ」を出版した堀江菜穂子さん(22)=東京=は脳性まひで体がほとんど動かせず、言葉も話せない

▼わずかに動く指先で詩を書く。声にならないが、心には多くの言葉があるに違いない。〈いまつらいのも/わたしがいきているしょうこだ〉〈どんなにつらいげんじつでも/はりついていきる〉。詩集の題名になった詩からは強い決意が伝わる

▼両親の介助を受けて暮らし、障害者施設に通っているという。特別支援学校中学部のころに筆談を習い、周囲の勧めで詩を書き始めた。多くの人との関わりが、詩人への可能性を広げたのだろう

▼そんな機会が失われていないか。人工呼吸器をつけるなど医療的なケアが必要な子どもの多くが保育所に通えずにいる

▼昨年度の受け入れは全国で337人にとどまることが共同通信の調査で分かった。ケアが必要な子は4歳以下だけで6千人いるとされ、その支援は昨年、自治体の努力義務になった。保護者の負担を減らすためにも体制整備を求めたい

▼堀江さんには、こんな軽快な詩もある。〈まいむまいむ/とてもたのしい/まいむまいむ/じぶんのからだが/うごいていないこともわすれる〉。たとえ踊りの輪に加われなくても、ほかの子どもたちとの触れ合いは成長につながろう。

 

堀江菜穂子さん(2017年8月31日配信『信濃毎日新聞』−「斜面」)

 

 人さし指にペンを結び付ける。介助者が手を添え、指先の小さな動きを感じ取ってノートに平仮名をつづる。息を合わせた共同作業がよどみなく詩を生み出す。東京都の堀江菜穂子さん、22歳。生まれて間もなく重い脳性まひを患った

   ◆

 手足が動かず寝たきりの生活。言葉も話せない。特別支援学校の中学部のときに自主スクールで筆談の練習を始める。最初はパソコン画面から文字を拾う方法だった。〈なおこかわいーよ、きれいな、ままですよ、えらいぱぱ〉。初めて表現した言葉だ

   ◆

 しばらく後「詩を書いたことありますか」と先生に聞かれた。文字を拾いパソコン画面に紡いだのは一編の詩。〈きたのそらからきこえている こえにむかって/わたしは さけぶ/すてきなくには どこにありますか〉。今夏発刊した詩集「いきていてこそ」につづられている

   ◆

 編集者の平沢拓さん(33)は新聞で堀江さんのことを知った。平仮名の限られた文字が表現する命の重さや生きる意味。その言葉の力に心が救われるほどの感動を味わい、出版にこぎつけた。詩集にはこれまでに書いた約2千編から、54編を選んで収めた

   ◆

〈いまつらいのも/わたしがいきているしょうこだ/いきているから つらさがわかる……どんなにつらいげんじつでも/はりついていきる〉=「いきていてこそ」。堀江さんにとって詩作は〈わたしじしんをかいほうするこうい〉=「はたちのひに」。その言葉からは勇気さえもらえる。

 

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