三重県;名張市手話その他コミュニケーション手段に関する施策の推進に関する条例

 

関連記事

 

s-キャプチャ

亀井市長や市議とともに手話で条例制定を祝う障害者関係団体のメンバーら

((2017年6月27日配信『伊賀タウンニュース』) )

 

 

 手話言語条例の制定が全国で広まっている中、三重県名張(なばり)市議会は、2017年6月定例会最終日の6月27日、全ての障害者が円滑な意志疎通を図れるよう施策を展開する「名張市手話その他コミュニケーション手段に関する施策の推進に関する条例」を可決・公布した(即日施行)全国で101番目

 

三重県では、三重県松阪市伊勢市で聴覚障害者のみを対象にした「手話言語条例」が制定されている。

 

条例で、手話に特化することなく、要約筆記、触手話、指点字、筆談その他の聴覚障害者が日常生活又は社会生活を営む上で使用する意思疎通のためのコミュニケーション手段を規定したのは、兵庫県明石市の条例が初めてで、他に千葉県愛知県秋田県千葉県習志野市大阪府堺市兵庫県小野市兵庫県加古川沖縄県浦添市などの9の条例があるが、三重県内では初めて(合計10条例)

 

条例は、障害のある人もない人も互いを尊重し合った共生社会の実現に寄与することを目的とするもの。手話だけでなく、要約筆記や筆談、点字、音訳、身振り手振りなどの非音声言語も言語として、それらを使って情報を得る機会を増やすことや、円滑なコミュニケーションが図れるような施策を市が講じることなどを務として盛り込んだ。

 

名張市では、2016年9月から市内の障害者、医師、有識者ら21人で構成する「障害者施策推進協議会」で手話言語条例制定に向けた協議を進める中、どのような障害を持っていても意志疎通を図れるようにと、方針を変更した。

 

閉会後には傍聴していた関係団体のメンバーら約30人が亀井利克市長や市議らとともに手話で「条例ができました、拍手」と表し、祝った。市聴覚障害者協会の南恵美子会長(61)は「いろいろな障害を持つ人たちが暮らしやすい生活ができるよう、条例を作っていただきありがとうございました。当事者と一緒に、引き続き考えて頂きたい」と話した。

 市では今後、手話通訳者の育成など、障害者の誘導システムの整備などを進める。

 

名張市は三重県西部、伊賀地方に位置する近鉄大阪線の沿線で、大阪都市圏へ約60分の市で、大阪府や奈良県のベッドタウンとして発展している。

 

伊賀盆地南部に位置し、季節が赤目に彩りを添える「赤目四十八滝」や、まるで斧で断ち割ったかのような柱状節理の岩肌が約8キロメートルに渡って続いている「香落渓(かおちだに)」といった渓谷を含めた美しい自然に囲まれ、四季折々の鳥の鳴き声などの自然の音を感じながら暮らすことができる。

 

人口は、79,515人(男;38,397/女;41,118)、33,680世帯(2017年6月1日現在)

 

名張市の聴力に関する障害者手帳保持者は318人(2017年6月27日現在)。

名張市の登録手話通訳者は14人(同上)。

 

 

 

 

名張市手話その他コミュニケーション手段に関する施策の推進に関する条例

 

2017年6月27日公布・施行

 

言語は、お互いの考えや気持ちを伝え合い、理解し合う上で欠かすことのできないものです。

さらに言語は、知識の蓄積を可能にし、文化の創造を促し、人類の発展に大きく寄与してきました。

手話は、視覚的に表現されるろう者の言語であり、ろう者のコミュニケーションにとって必要不可欠なものでありますが、かつては言語として認められておらず、手話を使用することができる環境が整えられていませんでした。そのため、多くのろう者は、必要な情報を得ることも十分なコミュニケーションをとることもできず、不便や不安を感じながら生活してきました。

障害者の権利に関する条約(平成26年条約第1号)は、「言語」を「音声言語及び手話その他の形態の非音声言語」と定義し、手話その他の形態の非音声言語が言語として国際的に認められました。また、障害者基本法(昭和45年法律第84号)は、全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られるよう規定

しています。

しかしながら、現状は、依然として、障害のある人にとって、障害の特性に応じたコミュニケーション手段の選択の機会が十分に確保されていない状況にあり、地域社会において、日常的に不便や不安を感じている人も少なくありません。

ここに本市は、このような状況を踏まえ、音声言語のみならず手話その他の形態の非音声言語も言語であるとの認識に基づき、手話その他コミュニケーション手段に関する施策の基本となる事項を定め、手話その他コミュニケーション手段に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって、障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に寄与するために、この条例を制定します。

 

(目的)

第1条 この条例は、音声言語のみならず手話その他の形態の非音声言語も言語であるとの認識に基づき、手話その他コミュニケーション手段についての基本理念を定め、市の責務及び市民等の役割を明らかにするとともに、手話その他コミュニケーション手段に関する施策の基本となる事項を定めることにより、手話その他コミュニケーション手段に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって障害のある人がその障害の特性に応じたコミュニケーションの手段を利用しやすい生活環境を構築し、障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に寄与することを目的とする。

 

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1)コミュニケーション 人々が相互に情報を伝達し、意思疎通を行い、気持ちや心を通わせて理解し合うことをいう。

(2)障害のある人 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある人であって、障害及び社会的障壁(障害のある人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。)により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。

(3)手話その他コミュニケーション手段 手話、音訳、要約筆記、筆談、字幕、点字、触手話、指点字、平易な表現、絵図、記号、身振り、手振り、重度障害者用意思伝達装置、パーソナルコンピュータ等の情報機器その他の障害のある人が情報を取得し、及びコミュニケーションを行う際に必要な手段として利用されるものをいう。

(4)市民等 市内で住み、働き、学ぶ者等並びに市内で活動する事業者及び団体をいう。 

(5)コミュニケーション支援者 手話通訳者、手話奉仕員、要約筆記者、要約筆記奉仕員、点訳者、音訳者(朗読者を含む。)及び盲ろう者通訳・介助員並びに知的障害者、発達障害者等への伝達補助等を行う支援者をいう。

 

(基本理念)

第3条 手話の普及は、手話が独自の言語体系と歴史的背景を有する文化的所産であると理解されることを基本として行われなければならない。

2 全ての手話その他コミュニケーション手段の選択と利用の機会の確保は、障害の有無にかかわらず、相互の違いを理解し、その個性と人格とを互いに尊重することを基本として行われなければならない。

3 手話その他コミュニケーション手段を利用する人が有している、障害の特性に応じてコミュニケーションを円滑に図る権利は、最大限尊重されなければならない。

 

(市の責務)

第4条 市は、前条に規定する基本理念にのっとり、手話への理解の促進及び手話の普及を図るとともに、障害のある人における手話その他コミュニケーション手段による情報の取得及びコミュニケーションの円滑化に関する施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。

 

(市民等の役割)

第5条 市民等は、第3条に規定する基本理念にのっとり、社会において音声言語のみならず手話その他の形態の非音声言語も言語であると認識されていること並びに障害のある人が情報を取得し、及びコミュニケーションの手段を選択して利用する機会の確保が、障害のある人の日常生活及び社会生活にとって必要不可欠であることを理解し、前条の規定に基づく市の施策に協力するよう努めるとともに、コミュニケーション支援者と連携して障害のある人が必要な手話その他コミュニケーション手段を利用できるよう、合理的配慮(障害のある人が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。)に努めるものとする。

 

(施策の推進方針等)

第6条 市は、第4条の規定に基づき、次に掲げる事項に係る施策を推進するための方針を定めるよう努めるものとする。

(1)手話その他コミュニケーション手段に対する理解及び手話その他コミュニケーション

手段に関する普及啓発を図るための施策(次号に掲げる施策を除く。)

(2)学校教育における手話その他コミュニケーション手段に対する理解及び手話その他コ

ミュニケーション手段に関する普及啓発を図るための施策

(3)市民等が手話その他コミュニケーション手段による意思疎通や情報を得る機会の拡大のための施策

(4)市民等が意思疎通の手段として手話その他コミュニケーション手段を選択することが容易にでき、かつ、利用しやすい生活環境の構築のための施策

(5)コミュニケーション支援者の配置の拡充及び処遇改善など、コミュニケーション支援者のための施策 

(6)前各号に掲げるもののほか、この条例の目的を達成するために必要な施策

2 市長は、手話その他コミュニケーション手段に関する施策の実施状況を公表するとともに、不断の見直しをしなければならない。

 

(財政措置)

第7条 市は、手話その他コミュニケーション手段に関する施策を積極的に推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

 

(委任)

第8条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定める。

 

附 則

この条例は、公布の日から施行する。

 

 

 

パブリックコメント時の素案

 

意見の取扱い

 

名張市手話その他コミュニケーション手段に関する施策の推進に関する条例(素案)

 

言語は、お互いの考えや気持ちを伝え合い理解し合う上で欠かすことのできないものです。

さらに言語は、知識の蓄積を可能にし、文化の創造を促し、人類の発展に大きく寄与してきました。

手話は、視覚的に表現されるろう者の言語であり、ろう者のコミュニケーションにとって必要不可欠なものでありますが、かつては言語として認められておらず、手話を使用することができる環境が整えられていませんでした。そのため、多くのろう者は、必要な情報を得ることも十分なコミュニケーションをとることもできず、不便や不安を感じながら生活してきました。

障害者の権利に関する条約(平成26年条約第1号)は、「言語」を「音声言語及び手話その他の形態の非音声言語」と定義し、手話その他の形態の非音声言語が言語として国際的に認められました。また、障害者基本法(昭和45年法律第84号)は、全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られるよう規定しています。

しかしながら、現状は、依然として、障害のある人にとって、障害の特性に応じたコミュニケーション手段の選択の機会が十分に確保されていない状況にあり、地域社会において、日常的に不便や不安を感じている人も少なくありません。

ここに本市は、このような状況を踏まえ、音声言語のみならず手話その他の形態の非音声言語も言語であるとの認識に基づき、手話その他コミュニケーション手段に関する施策の基本となる事項を定め、手話その他コミュニケーション手段に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって、障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に寄与するために、この条例を制定します。

 

(目的)

第1条 この条例は、音声言語のみならず手話その他の形態の非音声言語も言語であるとの認識に基づき、手話その他コミュニケーション手段についての基本理念を定め、市の責務及び市民等の役割を明らかにするとともに、手話その他コミュニケーション手段に関する施策の基本となる事項を定めることにより、手話その他コミュニケーション手段に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって障害のある人がその障害の特性に応じたコミュニケーションの手段を利用しやすい生活環境を構築し、障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に寄与することを目的とする。

 

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

(1)コミュニケーション 人々が相互に情報を伝達し、意思疎通を行い、気持ちや心を通わせて理解し合うことをいう。

(2)障害のある人 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある人であって、障害及び社会的障壁(障害のある人にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。)により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。

(3)手話その他コミュニケーション手段 手話、音訳、要約筆記、筆談、字幕、点字、触手話、指点字、平易な表現、絵図、記号、身振り、手振り、重度障害者用意思伝達装置、パーソナルコンピュータ等の情報機器その他の障害のある人が情報を取得し、及びコミュニケーションを行う際に必要な手段として利用されるものをいう。

(4)市民等 市内で住み、働き、学ぶ者等並びに市内で活動する事業者及び団体をいう。

(5)コミュニケーション支援者 手話通訳者、手話奉仕員、要約筆記者、要約筆記奉仕員、点訳者、音訳者(朗読者を含む。)及び盲ろう者通訳・介助員並びに知的障害者、発達障害者等への伝達補助等を行う支援者をいう。

 

(基本理念)

第3条 手話の普及は、手話が独自の言語体系と歴史的背景を有する文化的所産であると理解されることを基本として行われなければならない。

2 全ての手話その他コミュニケーション手段の選択と利用の機会の確保は、障害の有無にかかわらず、相互の違いを理解し、その個性と人格とを互いに尊重することを基本として行われなければならない。

3 手話その他コミュニケーション手段を利用する人が有している、障害の特性に応じてコミュニケーションを円滑に図る権利は、最大限尊重されなければならない。

 

(市の責務)

第4条 市は、前条に規定する基本理念にのっとり、手話への理解の促進及び手話の普及を図るとともに、障害のある人における手話その他コミュニケーション手段による情報の取得及びコミュニケーションの円滑化に関する施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。

 

(市民等の役割)

第5条 市民等は、第3条に規定する基本理念にのっとり、社会において音声言語のみならず手話その他の形態の非音声言語も言語であると認識されていること並びに障害のある人が情報を取得し、及びコミュニケーションの手段を選択して利用する機会の確保が、障害のある人の日常生活及び社会生活にとって必要不可欠であることを理解し、前条の規定に基づく市の施策に協力するよう努めるとともに、コミュニケーション支援者と連携して障害のある人が必要な手話その他コミュニケーション手段を利用できるよう、合理的配慮(障害のある人が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。)に努めるものとする。

 

(施策の推進方針等)

第6条 市は、第4条の規定に基づき、次に掲げる事項に係る施策を推進するための方針を定めるよう努めるものとする。

(1)手話その他コミュニケーション手段に対する理解及び手話その他コミュニケーション手段に関する普及啓発を図るための施策(次号に掲げる施策を除く。)

(2)学校教育における手話その他コミュニケーション手段に対する理解及び手話その他コミュニケーション手段に関する普及啓発を図るための施策

(3)市民等が手話その他コミュニケーション手段による意思疎通や情報を得る機会の拡大のための施策

(4)市民等が意思疎通の手段として手話その他コミュニケーション手段を選択することが容易にでき、かつ、利用しやすい生活環境の構築のための施策

(5)コミュニケーション支援者の配置の拡充及び処遇改善など、コミュニケーション支援者のための施策

(6)前各号に掲げるもののほか、この条例の目的を達成するために必要な施策

2 市長は、手話その他コミュニケーション手段に関する施策の実施状況を公表するとともに、不断の見直しをしなければならない。

 

(財政措置)

第7条 市は、手話その他コミュニケーション手段に関する施策を積極的に推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

 

(委任)

第8条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、市長が別に定め

る。

 

附 則

この条例は、公布の日から施行する。

 

 

筆談器 26個に増設 病院、救急車にも配置 三重・名張(2018年5月25日配信『毎日新聞』)

 

キャプチャ
救急車に配置された筆談器を持つ名張消防署員=同署で2018年5月24日


 三重県名張市は6月から、聴覚障害者など音声でのコミュニケーションが難しい人向けに配置している筆談器を4個から26個に増やし、市立病院や救急車にも配置する。市によると、聴覚障害手帳を持つ市民は337人(昨年4月1日現在)。病気などで音声でのコミュニケーションが難しく、窓口で筆談を希望する人も少なくないという。市障害福祉室は「何度も描いて消すことができるので気兼ねなく利用してほしい」と話している。
 筆談器は磁気を利用した特殊なホワイトボードで、専用ペンで書くことで、繰り返し利用することが可能だ。
 2016年12月に同市西田原出身で、大阪府八尾市の男性が障害者福祉のために500万円を寄付。市は昨年、筆談器や手話通訳サービス用のタブレット端末、要約筆記のためのプロジェクターを購入するなどし、今回の筆談器増設も寄付金の一部を充てた。
 昨年、筆談器を同室や案内窓口など4カ所に配置したところ、他の部署からも配置を希望する声が上がった。今回は、市役所内の住民票などを扱う総合窓口センターやゴミ問題を担当する環境対策室など5カ所に設置。さらに市所有の救急車全5台、市立病院10カ所などに新たに置くという。
 市消防本部の救急車にはこれまで通常のペンで書くホワイトボードが搭載されていたが、雨天時には使用できないほか、患者の状態を記録するためにも使っていたことから、筆談に使いづらかったという。
 名張消防署の山口晃救急室長は「雨でも使えるので大変ありがたい」と話していた。

 

名張市、端末で手話対応…11月開始(2017年10月11日配信『読売新聞』)

 

自宅でやりとり可能に

キャプチャ
名張市が11月から試験運用を始める手話通訳サービスのデモを行う善田さん(左)と森下さん(名張市役所で)

 名張市は、聴覚障害者向けにタブレット端末を使った手話通訳サービスを始めると発表した。市役所などに行かなくても、自分のスマートフォンなどの画面に市の手話通訳者を呼び出し、担当課の職員とやりとりできる仕組み。11月1日から試験運用し、使い勝手などを検証後、来年4月1日の本格運用を目指す。市によると、同様のサービス導入は県内では初めて。
 同市は今年6月、全障害者が容易に意思疎通できる「手話その他コミュニケーション条例」を制定しており、今回のサービスはその実践の一つ。
 市によると、市内には約300人の聴覚障害者がいるが、▽市役所に電話でうまく問い合わせができない▽市の担当者とメールやファクスでは意思疎通がうまくいかない▽市役所の窓口で担当者と筆談すると、時間がかかったり、伝わりにくかったりする――などの声があったため、手話通訳用のタブレット端末を備えることにした。
 市障害福祉室にタブレット端末1台を置き、同室に常駐する市の手話通訳者・善田真美さん(45)が操作を担当。市の端末と、聴覚障害者が利用しているスマホやタブレット端末にテレビ電話機能を備えたアプリ「スカイプ」や「LINE(ライン)」などを組み込み、画面を見ながら対話できるようにする。
 例えば、聴覚障害者が自宅からがん検診の予約や確定申告の日時や持参品など市の業務について問い合わせたい場合、市の端末にアクセスすると、手元のスマホなどの画面越しに善田さんが手話で対応。善田さんは端末を持って担当者がいる部署まで移動して内容を伝え、聞き取った内容を手話で聴覚障害者に伝える。
 また、聴覚障害者が市の施設に出向き、会議室の利用を申し込む場合などでも、聴覚障害者が市の端末につないで手話で希望を伝え、善田さんが担当職員に“伝言”することなどを想定している。
 同市西田原出身の会社役員森下和美さん(81)(大阪府八尾市)から昨年12月、市に「福祉に役立ててほしい」と500万円の寄付があり、市はその一部を今回のサービス導入に充てた。
 4日、市役所でこの端末が披露され、立ち会った森下さんは「有意義に使ってもらい、大変ありがたい」と喜んでいた。
 11月から始まる同サービスの利用時間は、平日午前8時半〜正午、午後1時〜5時。問い合わせは市障害福祉室(0595・63・7591、ファクス0595・63・4629、メールはchokaku@city.nabari.mie.jp

 

手話通訳 スマホやタブレットで 名張市が三重県内初導入(2017年10月10日配信『伊賀情報タウンニュース』)

 

障害者の円滑なコミュニケーション手段整備に取り組む名張市は、スマートフォンやタブレット端末のビデオ通話機能を使った聴覚障害者向けの遠隔手話通訳サービスを11月から試用運用する。市によると、県内初めての取り組み。

キャプチャ
タブレット端末ごしに手話を見る森下さん=名張市で

 今年6月、名張市で「手話その他コミュニケーション条例」が制定されたのがきっかけ。市障害福祉室に市の設置手話通訳者とビデオ通話ができるタブレット端末を配置し、対応するスマートフォンアプリを導入した利用者のスマホや端末から接続することで、画面ごしに手話で対話できる。
 サービスの対象は、市の業務や公共施設の利用に関すること。設置手話通訳者が利用者と市や公共施設の職員を仲介し、対話を補助する。これまで視覚障害者からの問い合わせは、来庁しての筆談や手話、もしくはファクスやメールが主だったといい、市の設置手話通訳者の善田真美さんは「来庁の手間もなく、迅速な対応ができるようになる」と期待を寄せる。
 事業に向け、市では予備を含むタブレット端末2台を購入。購入代金や使用料などの費用は昨年12月、同市西田原出身で大阪府八尾市の会社役員、森下和美さん(81)が障害者福祉増進のために寄付した500万円から充てた。10月4日、市役所であったデモンストレーションの場では、森下さんも参加し、タブレット端末ごしの手話を眺め、「障害者に向けた新しい事業に役立ててもらえてうれしい」と喜んだ。
 試用運用を経て、業務対象範囲や運用法を検討し、2018年4月1日には本格運用を目指す。利用可能時間は平日の午前8時30分から正午、午後1時から同5時まで。通信料は利用者の自己負担。今後、市報やホームページ、障害者団体を通じて告知する。
 問い合わせは市障害者福祉室(0595・63・7591)へ。

 

伝えて支えて;名張市コミュニケーション条例/1 手話通訳者 ろう者の権利、守れる喜び(2017年7月11日配信『毎日新聞』−「三重版」)

 

キャプチャ

若竹会の例会で指導する南さん(左)と倉田さん(左から2人目)

 

 全ての障害者にとって意思疎通が図りやすい環境の整備を目指す名張市の「手話その他コミュニケーション条例」が6月に施行された。障害者が手話や点字など障害の特性に応じたコミュニケーション手段で社会参加し、障害の有無を問わず、互いを尊重し合う共生社会の実現をうたう。長年にわたり、障害者の情報支援に取り組んできた人たちの思いを、名張市を中心に紹介する。

 「下を向かないで。表情が見えないよ」。講師役の倉田利江子さん(64)の指摘が飛ぶ。10〜70代の男女が言葉ごとに表情を変え、手の振り方に強弱を付ける。時には2役、3役と演じ分け、まるで一人芝居のようだ。そこでもう一人の講師、南恵美子さん(62)が指で「OK」と示した。

 6月、名張市総合福祉センター(丸之内)であった同市の手話サークル「若竹会」の例会。同市や伊賀市などの22人が所属し、倉田さんは35年前の発足時からのメンバーだ。一方、南さんは重度の聴覚障害があり、市聴覚障害者協会会長を務める。若竹会の会員ではないが、会員の技術向上に長年協力している。

 倉田さんは両親が聴覚障害者(ろう者)で幼児期から自然に手話を覚えた。そんな生い立ちから「支援するのは当たり前」と、さまざまな場面で障害者の手話通訳を務めてきた。

 事故を起こした人に依頼され、警察の現場検証で通訳をしたこともあるし、南さんの出産時には病院で立ち会った。「ろう者の権利や生命を守れた喜びが活動の原動力」と話し、現在も名張市が利用無料の福祉サービスとして派遣する「登録手話通訳者」として病院の受診や学校の保護者面談などに同行し、障害者の生活を支えている。

 一方で、手話奉仕員養成講座の講師などを務め、手話の普及に取り組む。通訳のポイントは、伝える内容を的確につかみ、短く、分かりやすく表現すること。手話の知識や技術だけではなく、国語力が重要になる。会では小学生の国語の教材を使って平易な文章を学ぶ工夫もしている。

 「人それぞれ手話に癖があり、方言もある。上達するには多くの手話と出合うことが大切」と話すのは同会代表の石川広子さん(66)。県内や奈良の手話サークルの集まりや全国の福祉大会に参加し、経験を積んでいる。

 他の会員も毎週木曜の例会で技術を磨く。街中や旅先で聴覚障害者を手助けしたり、交流したのをきっかけに、付き合いが続いている人も多い。そんな喜びを重ね、少しずつ会員は増えている。

条例制定に南さんは「手話は私の命。市民に広がってほしい」と話し、公的施設での手話が分かる人の配置や市民向けの学習会が増えることを期待する。

 それと共に会員が願うのは、手話を取り入れた小中学校での学習の実施だ。会では月2回、桔梗が丘中の手話クラブを指導するほか、求めに応じて小学校での講師も務めている。授業では「耳の不自由な人ともっと話がしたい。それには何が大事ですか」などと多くの質問が寄せられる。

 「私の一番幸せな時間。彼らが福祉に夢を持ち、障害者を支えるきっかけになればどんなにうれしいか」。倉田さんは自身の夢を託す子どもらの姿を思い、ほほ笑んだ。

 ◆二つの手話

 手話は大別して二通りの方法がある。一つは日本語の語順通りに手話の単語を並べていく「日本語対応手話」。中途失聴者や難聴者、健聴者にとって学びやすく、手話サークルの多くはこちらを使っているという。もう一つの「日本手話」は、ろう者の間で独自に発達した言語で語順など日本語と異なる文法を持つ。

 

伝えて支えて;名張市コミュニケーション条例/2 要約筆記奉仕員 書く手助け、社会参加後押し(2017年7月12日配信『毎日新聞』−「三重版」)

 

常木春枝さん(左)の要約筆記を読む山本篤子さん=三重県名張市で

 

 名張市の手書き要約筆記サークル「カワン」代表の常木春枝さん(68)は昨秋、忘れられない言葉をもらった。月1回、古典サークルの勉強会に参加するため、要約筆記を利用する市内の聴覚障害者、山本篤子さん(84)が「この支援がなければ、私の老後は暗くて寂しいものだっただろう。元気でいられるのは皆さんのお陰」と言ってくれた。長年の苦労が報われた瞬間だった。

 2人の出会いは21年前。ある会合で話を聞き取れずにいた山本さんに常木さんが気付き、手帳に書いて教えてあげた。薬の副作用で難聴になった山本さんに「手助けできるよう努力する」と約束し、その年に設立したのがカワンだ。

 常木さんが要約筆記を始めたのは23年前。大阪で手話サークルの代表をしていたが、手話を学びに来た難聴者に指導しようにも相手が聞き取れず、書いて教えることに。手話を使えない難聴者や中途失聴者に対し、書いて伝えることの重要性を知り、要約筆記の世界に飛び込んだ。

 会員は伊賀、名張市の60〜70代女性6人。多くは要約筆記奉仕員として両市に登録され、手話通訳者と同様、利用無料の福祉サービスとして派遣される。山本さんの勉強会は市の派遣対象外だが、そんな要望にも相談に乗る。「聞こえないことで社会参加に踏み出せない人を後押ししたい」(常木さん)からだ。

 要約筆記のポイントは早く、正しく、読みやすく。話の趣旨を正確につかみ、短く的確な言葉で表し、明瞭な字で書く。実際の内容の6分の1程度にまとめるという。月2回の例会では会員の要約文を批評し合いながら技術向上に努めている。

 要約は理解力や表現力に加え、「担当する人の知識や教養などにも大きく左右される」と常木さんは話す。

 苦い思い出がある。以前、あるミステリー作家の講演会に派遣された際、作家の言葉をメンバーが誤った同音異義語で書いてしまい、来場者アンケートで「要約筆記の用をなしていない」と指摘された。会員が1冊ずつ、その作家の著書を読んだうえで臨んだが、「教養の浅さを思い知らされた」と振り返る。

 自分たちの助力で障害者が社会参加を楽しむ姿は、活動を続ける大きな力になっている。「でも要約筆記が面白くて勉強している。それが人のためになればいいという感じ」と話すのはメンバーの町野和子さん(62)。さらに「友達が聞き逃したと言ったら、ちょっと書いてあげるやん。その延長でやっています」と気負いはない。

 常木さんも条例制定を機に、そんな自然体の支援の広がりを期待する。書いて知らせるという意識が浸透し、若者が携帯メールの画面を使って障害者に教える光景を思う。「要約筆記サービスがなくても成り立つ社会、それが私たちの目標」と言葉に力を込めた。

 

◆要約筆記と手話

 厚生労働省の2006年度の調査によると、聴覚障害者のうち、主に文字(筆談・要約筆記)で意思疎通を図っている人は全体の30.2%で、手話の18.9%を上回った。中途失聴者や難聴の高齢者は手話を覚えるのが難しく、文字に頼る人は多い。要約筆記には手書きのほか、パソコンを使うものもある。

 

伝えて支えて;名張市コミュニケーション条例/3 点訳奉仕員 読書の喜び、点字で届けたい(2017年7月15日配信『毎日新聞』−「三重版」)

 

https://cdn.mainichi.jp/vol1/2017/07/16/20170716oog00m010076000p/6.jpg?1

パソコンで点字データの校正をする北村弥寿子さん(後列左)ら=三重県名張市で

 

 ボランティア活動で支えられるのは障害者だけではない。名張市の点訳グループ「あかり」の榎本智子さん(76)は心からそう思う。昨年5月に夫を亡くした。半年以上続いたぼう然自失の日々から立ち直れたのは、仲間の励ましと点訳作業があったから。「何かをさせてもらえるのはありがたいこと。点訳は生きる支え。どこかで役立っていると思えるのはうれしい」と話す。

 あかりは上野点字図書館(伊賀市)の点訳奉仕員養成講習会の修了生らが1983年に結成し、現会員は名張市内の40〜70代女性11人。視覚障害者向けに名張市から委託される「広報なばり」点字版の製作と同館から依頼される本の点訳を中心に活動している。月2回行う広報の校正・印刷・発送作業の日以外は自宅のパソコンで点字データを入力する。

 点訳の原則は原文に忠実で正確な情報の伝達。図表や写真の内容も文字で表さなければならない。そのために不可欠で、多大な労力を伴うのが固有名詞や人名、地名、難読漢字などの読み方調査だ。

 例えば、地名に付く「町」は「まち」か「ちょう」か、会社や組織名などに使われる「日本」は「にほん」か「にっぽん」か。インターネットや図書館で逐一調べる。地名では茨城(いばらき)県や滋賀県甲賀(こうか)市などのように注意すべき読みも。人名は分からない場合も多いという。

 更に点字には単語などの間隔を空ける「分かち書き」の専門知識が必要で、表記の判断に迷う場合も多い。また、原文に忠実が原則だが、日本語の点字には漢字がなく、仮名しかないため、同音異義語や造語など意味が通じにくい場合は注釈をつける配慮も必要だ。

 広報の製作は5日程度で終わるが、本は下調べやデータ入力、2回の校正を経て3〜6カ月、長ければ1年かかることも。300ページの文庫本は点字化すると、1000ページほどになる。データは全国的なネットワークシステム「サピエ図書館」に登録され、日本中の視覚障害者が利用する。登録は1冊につき、1データだけとされ、間違いは許されない。

 そんな苦労に、市視覚障害者協会の山森克彦会長(62)は「広報の端から端まで読んでいます」と感謝する。会議資料の点訳をあかりに依頼することもあり、「点字には1字1字確認できるという録音データにない利点がある。私の活動に点訳支援は不可欠」と話す。

 ボランティアは自分のためでもある、というのは、あかりのメンバー共通の思い。「日本で1冊、自分が書いた点字本が残るのはうれしい。普段選ばない本を作業を通じて読めるのも楽しい」と市川幸子さん(74)は語る。

 そして年間10冊前後にとどまる点訳本の製作数増加も全員の願いだ。「私たちが書店で好きな本を選べるように、視覚障害者の読書環境も近づけたい。1冊ずつ増えることに喜びを感じて取り組む」と代表の北村弥寿子さん(65)は思いを新たにした。

 

◆サピエ図書館

 視覚障害者向けのインターネット上の図書館。個人会員になると、無料で約19万タイトルの点字データ、約9万タイトルの音声データがパソコンやスマートフォンでダウンロードできる。また、全国の点字図書館や公共図書館などが所蔵する図書約68万タイトルの貸し出し依頼もできる。個人会員は約1万5500人。

 

伝えて支えて;名張市コミュニケーション条例/4 音訳奉仕員 正しい情報、声に乗せて(2017年7月20日配信『毎日新聞』−「三重版」)

 

https://cdn.mainichi.jp/vol1/2017/07/20/20170720oog00m010086000p/6.jpg?1

マイクに向かって練習する神前ひろ子さん(手前)と湊美城子さん=三重県名張市で

 

 名張市の音訳グループ「こだま」の会員、湊美城子さん(67)の録音室は自宅の押し入れ。中板にマイクと録音機を置き、周りを布団や座布団で囲う。音が吸収され、穏やかな声に聞こえるという。音訳歴30年の知恵だ。

 雑音を排除するための苦心も涙ぐましい。音を立てるエアコンや扇風機はNG。フリースの服も静電気で音がするからダメ。「夏は汗だくで大変」と湊さん。そんな苦労も電話の音や犬の鳴き声が入れば水の泡。撮り直しを余儀なくされる。

 こだまは1993年、上野点字図書館(伊賀市)の音訳奉仕員養成講習会の修了者で結成し、現在、名張市の50〜80代男女約20人が所属。視覚障害者向けに同市から委託される「広報なばり」の音訳版や同館から依頼される録音図書を製作する。市総合福祉センター(丸之内)の録音室を使う会員もいるが、多くは自宅で作業をする。月1回の例会では、音訳の基礎練習や音訳作業での疑問点の情報交換を行う。

 朗読に憧れて音訳講習を受ける人は多い。会長の神前ひろ子さん(67)もそうだったが、夢はすぐ破れた。情報を正しく伝えるために感情は込めず、一定の速度と音量で読むのが音訳の原則。同音異義語を区別するため、アクセント辞典は必携。写真や図表を言葉で表すのに頭を悩ませる。

 広報は原稿入手からCD発送まで10日余りで終わらせるスピードが重要だが、録音図書は早くて4カ月程度、長ければ1年かかることもある。年間の製作数は20冊前後になる。

 原則、1人で録音した後、人を代えて読み間違いや読み飛ばしなどを点検する校正を2回行う。300ページの文庫本を音訳すると約8時間になるという。長期の作業になるため、声が変わらないよう体調管理には気を使う。

 苦労話は尽きない。「『わたし』と読んでいるのに『あたし』に聞こえると指摘されてね」と神前さん。初めて手掛けた録音図書は校正者から多数のダメ出しを受けて、完成まで1年かかった。点訳と同様、本の中の漢字や固有名詞の読み方を調べる苦労は多くの会員が経験している。

 図書は同館に納められるほか、「サピエ図書館」を通して全国の視覚障害者が利用できる。貸し出しがあったと聞くのが何よりの励みで、「納得できた図書は一つもない。でも誰もが情報を共有できる社会づくりにお手伝いできるやりがいを感じる」と2人は言う。

 悩みは会の高齢化と後継者不足だ。15年前に50人いた会員は半減。奉仕員の養成講習会が上野点字図書館で開かれるため、名張から参加しにくいという。会は昨年末、市が同館の講師を招いて市内で講習会を開くように要望した。「声が基本のこの活動は体力勝負。多くの人に参加してほしい」と神前さん。条例制定を機に、要望の実現を期待している。

 

◆点字図書と録音図書

 全国視覚障害者情報提供施設協会の調査によると、全国の点字図書館などで点字図書の貸し出しは30年前の約4割に落ち込む一方、録音図書の貸し出しは3倍以上に増えた。パソコンの音声再生ソフトの普及が進む一方で、点字使用者は視覚障害者全体の1割程度とされ、高齢化も進んでいることが背景にある。

 

伝えて支えて;名張市コミュニケーション条例/5止 盲ろう者通訳・介助員 自立と社会参加、手を携えて(2017年7月22日配信『毎日新聞』−「三重版」)

 

https://cdn.mainichi.jp/vol1/2017/07/22/20170722oog00m010084000p/6.jpg?1

触手話で伊倉睦美さん(右)や山本啓子さん(右から2人目)と話す福山佳代さん=三重県伊賀市で

 

 6年前、今は19歳になった長女の小学校卒業式。伊賀市の主婦で、目と耳に障害がある「盲ろう」の福山佳代さん(47)は、通訳・介助員の伊倉睦美さん(60)が示す手話を触りながら読んでいた。見えなくとも手話が伝える説明で卒業証書を受け取る娘の姿は、はっきりと思い描け、感動の涙があふれ出た。

 盲ろうは障害の状態で4タイプに分かれる。全く聞こえず、見えにくい福山さんは「弱視ろう」。全く聞こえず、見えない人は「全盲ろう」で、ヘレンケラーがそれに当たる。盲ろう者は二重障害のために支援情報から最も遠い立場にあり、家に引きこもる人が多い。

 福山さんは生まれつき聞こえず、元々悪かった視覚も30歳の頃に強度の弱視になった。4人家族の家事を全てこなし、フルマラソンの完走経験もある福山さんだが、視覚障害が進んで外出できなくなった。それを補うのが県の派遣制度で活動する伊倉さんら盲ろう者向け通訳・介助員だ。

 盲ろう者は聴覚と視覚に障害があるため、触覚を頼りに情報を得る。手話を触って読む「触手話」は基本的には手話と同じだが、分かりやすいように相手の手に当たる角度を調整したり、触って読むため時間がかかるので手話以上に内容を要約しなければならない。

 さらに通訳・介助員が手話通訳者や要約筆記者ら情報支援者と違うのは、「介助」という移動支援も担うことだ。触手話などで情報を伝えながら障害物に気を配る。「全身がセンサーになった感じ。でも小さな段差でつまずかせたことも」と伊倉さんは苦笑する。

 そんな支援で福山さんは買い物や授業参観に行けるようになったし、ランニングの練習会に参加したこともある。「通訳・介助がなければ娘の卒業式で感動することもなかった。私の自立と社会参加を進めてくれてありがたい」と手話で語る。

 もう一つ福山さんが力を注ぐのは、県内の盲ろう者でつくる「三重盲ろう者きらりの会」の活動だ。事務局長を務め、通訳・介助員の山本啓子さん(56)らの支援を受けながら、学習会や交流会などを開いている。会員は10人と少なく、盲ろう者の掘り起こしが課題だが、個人情報保護の関係で行政の協力を得にくいという。「当事者を見つけ、福祉や支援の制度があることを教えてあげたい。地域に盲ろう者がいたら知らせて」と訴える。

 「盲ろう者はかわいそうだけの人ではない。手話や点字などの意思伝達手段を獲得し、社会の支援があれば、自由に活動できる」と伊倉さん、山本さんは声をそろえる。福山さんは弱視が進んでから点字を覚え、パソコンを使えるようになった。今後の目標を問われ、「きらりの仲間と楽しいことをもっとしたい。少しでもできることが増えるといいな」と笑った。

 

◆多様な意思伝達手段

 全国盲ろう者協会によると、2012年度の調査で国内には約1万4300人の盲ろう者がいるとされる。意思伝達方法は個々の特性で異なる。触手話のほか、手のひらに指で文字を書く「手書き文字」▽相手の指を点字の六つの点に見立てて触る「指点字」▽指の形で50音を表現する「指文字」などがある。

 

 

inserted by FC2 system