北海道新得町;手話に関する基本条例

 

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北海道のど真ん中の上川郡新得(しんとく)町(人口6,457人/牛は33,000頭以上=2013年3月末)議会で2014年3月5日可決された町村レベルでは全国初の「手話に関する基本条例」が2014年4月1日より、施行された。

 

聴覚障がい者の社会参加を目的に設立された「社会福祉法人厚生協会」が60周年を迎えた2013年年8月30日から9月1日まで「第54回全道ろうあ者大会」が新得町で開催され、その際、北海道ろうあ連盟理事長より「手話言語条例」の策定について要請があり、実現した。

 

手話は改正された障害者基本法により、言語であることを認められているが、聴覚障がい者を中心とした福祉事業を進めてきた新得町においては、「ろう者と共に生きる」町づくりを進めるため、手話が言語であるとの認識に基づき、「手話に関する基本条例」の制定に向けて町民による研究会を、福祉団体・福祉施設・手話に関係する団体・商工会・教育関係者等により2013年11月に発足し検討し、成立の運びとなった。

 

 議場では道ろうあ連盟の佐藤英治副理事長、十勝聴力障害者協会の川口豊会長ら管内外から訪れた関係者10人が傍聴、渡辺裕之保健福祉課長が手話で条例案の内容を説明し、全会一致で可決されると、拍手を表す手話で喜びを示した。

 

 佐藤副理事長は「手話が言語である認識はまだ広まっていないが、新得での条例制定が全国的に影響を与えることを期待している」と語った。浜田正利町長は「多くのろうあ者が暮らす新得で、さらに手話を普及させる具体的施策を行いたい」とした。

 

なお、全国的には、鳥取県で「手話言語条例」を2013年10月に可決され施行、北海道内では石狩市の「手話に関する基本条例」が2013年12月に可決されており、三重県松阪市でも2014年3月24日、東海地域では初めて、手話を言語と認め、聴覚障害者が暮らしやすい環境の創設を目指す「手と手でハートをつなぐ手話条例」を可決、それぞれ4月1日に施行した。

 

障害者基本法

 

(地域社会における共生等)

第3条

  第1条に規定する社会の実現は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを前提としつつ、次に掲げる事項を旨として図られなければならない。

一  全て障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること。

二  全て障害者は、可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。

三  全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。

 

手話に関する基本条例

 

 

 

 「ろう者と共に生きる」町づくりを進めるため、手話が言語であるとの認識に基づき、手話の理解と広がりをもって地域で支え合う住みよい町を目指し、ここにこの条例を制定するものです。

 町とろう者との関係は、まだ戦後の混乱期であった昭和28年にろう学校の生徒たちが卒業後も自立して安定した生活を送れるよう、聴覚障がい者の自立と職業訓練のために身体障害者授産所わかふじ寮が創設されたのが始まりです。

 以来、聴覚障がい者を中心とした福祉事業を町民と一体となって作り上げ、新得町が「福祉の町」「手話の町」といわれるようになりました。

 「手話」は、ろう者の日常生活にとって大切なコミュニケーション手段です。手話を使い安心して暮らすことができる町づくりに向け、全力を挙げて取り組みます。

 

 (目的)

第1条  この条例は、手話を言語であるとの認識に基づき、手話の理解と普及に関して基本理念を定め、町、町民及びろう者を支援している事業者の責務及び役割を明らかにするとともに、町が実施する施策の基本的事項を定めることにより、全ての町民がろう者と共に生きる地域社会を実現することを目的とする。

 

 (手話の意義)

第2条  手話は、ろう者がコミュニケーションを取るときや物事を考えたりするときに使うことばで、手指の動きや表情などを使って概念や意見を視覚的に表現する視覚言語であることを理解しなければならない。

 

 (基本理念)

第3条  町民の手話への理解の促進を図ることにより、手話でコミュニケーションを図りやすい環境を構築するものとする。

2 手話を使用する町民が、自立した日常生活を営み、地域における社会参加に務め、安心して暮らすことができる地域社会の実現を目指すものとする。

3 手話を使用する町民は、手話による意思疎通を円滑に図る権利を有し、その権利は尊重されなければならない。

 

 (町の責務)

第4条 町は、手話を使い安心して暮らすことができる地域社会の実現を図るための施策を推進するものとする。

 

 (町民の役割)

第5条 町民は、地域社会で共に暮らす一員として、手話を使い安心して暮らすことができる地域社会の実現に寄与するよう努めるものとする。

2 手話を使用する町民は、町の施策に協力するとともに、手話の意義及び基本理念に対する理解の促進並びに手話の普及に努めるものとする。

3 事業者は、ろう者が利用しやすいサービスを提供し、ろう者が働きやすい環境を整備するよう努めるものとする。

  (ろう者を支援している福祉事業者の役割)

 

第6条  ろう者を支援している福祉事業者は、町の施策に協力するとともに、手話に対する町民の理解の促進並びに手話の普及に努めるものとする。

 (施策の策定及び推進の評価)

 

第7条 町は、町民が手話を使い安心して暮らすことができる地域社会の実現を図るために必要な施策を策定するものとする。

2 施策には、次の事項を定めるものとする。

 () 手話の普及及び理解の促進に関する事項

 () 手話による情報取得に関する事項

 () 手話による意思疎通支援に関する事項

3 町は、施策の策定又は変更、及び推進の評価を必要とするときは、手話を使用する町民や関係する町民の意見を反映するために必要な措置を講ずるものとする。

 (財政上の措置)

 

第8条 町は、手話に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。

 

  (委任)

第9条  この条例の施行について必要な事項は、町長が別に定める。

 

 

 

 平成25年4月、聴覚障がい者の社会参加を目的に設立された「社会福祉法人厚生協会」が60周年を迎えました。また、同年8月30日から9月1日には「第54回全道ろうあ者大会」が本町で開催され、その際、北海道ろうあ連盟理事長より「手話言語条例」の策定について要請がありました。

 全国的には、鳥取県が「手話言語条例」を平成25年10月に可決され施行されています。また、北海道内では石狩市の「手話に関する基本条例」が12月に可決されています。

  手話は改正された障害者基本法により、言語であることを認められています。聴覚障がい者を中心とした福祉事業を進めてきた本町において、「ろう者と共に生きる」町づくりを進めるため、手話が言語であるとの認識に基づき、「手話に関する基本条例」の制定に向けて町民による研究会を、福祉団体・福祉施設・手話に関係する団体・商工会・教育関係者等により平成25年11月に発足し検討してきました。

 

  (研究会の開催状況)

  ○平成25年11月 8日 第1回研究会

   ・条例制定に向けた背景、検討事項・問題点の抽出

  ○平成25年11月28日  第2回研究会

   ・手話に関する基本条例勉強会

     講師:北海道ろうあ連盟 副理事長 佐藤英治 氏

  ○平成25年12月28日  第3回研究会

   ・手話に関する基本条例の素案、施策に関する検討

  ○平成26年 1月 9日  第4回研究会

   ・施策の策定及び推進評価に係る検討

  ○平成26年 2月 5日  第5回研究会

 

広報紙「しんとく」平成25年度 3月号(PDFファイル)

 

 ・特集 ささえ 愛(あい) 共に生きる 手話条例(1)(812KB) 

 ・特集 ささえ 愛(あい) 共に生きる 手話条例(2)(696KB)

 ・特集 ささえ 愛(あい) 共に生きる 手話条例(3)、連載「つながり」(1MB)

 

新得町は2015年1月24日、2014年3月に制定した「新得町手話に関する基本条例」を記念し、町公民館にて2部構成の「新得町手話の輪!フェスタ」を開催し、350人が参加した。

第1部では「NHK みんなの手話」でお馴染みの早P憲太郎氏が「手話からはじまる新たな出会い」をテーマに講演を行い、「ろう者から“手話”で話しかけてみることで、手話が分からない人は手話に興味を持つようになる。そのようにして新得から手話の輪が全国に広がってほしい」と話した。

 第2部では「ろう者の実体験や手話言語条例に思うこと」をテーマにしたパネルディスカッションを行い、3人のろう者が自身の体験を話した。

 また、手話に取り組む新得町内のサークルや小中学校が手話コーラスを披露したほか、2014年の全国高校生第1回手話パフォーマンス甲子園に出場した新得高生たちが手話による歌や寸劇を演じた。

 

 なお同町は、ろう者と共に生きる町づくりを掲げて、町内全戸に「手話ポスター」を配布した。

 

 

 

 

掲載した手話は49単語。「ありがとう」「お疲れさま・ご苦労さま」「よろしくお願いします」など日常的に使用する頻度の高い単語をはじめ、地名の「新得」や社会福祉法人厚生協会(鈴木政輝理事長)が運営する聴覚障害者のための授産施設の「わかふじ寮」、聴覚障害者養護老人ホーム「やすらぎ荘」も紹介。

 また、全国共通の標準手話ではなく、町内のろう者がよく使う手話を覚えてもらおうと、同研究会のろう者のメンバーの手話をビデオ撮影した映像を基にイラストを描き起こした。

 「あなたの家はどこですか?」「すみませんが、電話をお願いします」など、幾つかの手話で構成する例文も紹介。他に、指文字の五十音順と数字も掲載している。

 A2判で、4000枚を製作した。広報紙と一緒に町内約3300世帯に配布し、各公共施設などにも掲示した。

 

 

小学校全学年で手話授業 新得で道内初 会話目指し30コマ(2017年6月23日配信『北海道新聞』)

 

講師の手話を見よう見まねで学ぶ新得小の子供たち

 

 全国自治体で3番目、町村としては初めて手話条例を2014年に制定した町は、町内三つの小学校の全学年を対象に手話学習の授業を始めた。1年生から6年生まで段階を踏んだカリキュラムを組み、卒業まで一貫した体制で手話を学ぶ。道教委によると、道内初の取り組みだという。

 手話授業は総合的学習に位置づけて新得小、屈足南小、富村牛小で実施。町が手話通訳士を派遣し、各学年1コマ45分間の年間5コマで、新1年生は小学校卒業まで計30コマを学ぶ。低学年ではあいさつや自己紹介、3年生は手話コーラス、高学年では町紹介のほか、ろう者との簡単な会話までできるようにする。

 

ひと交差点;ろう者に寄り添う 是井里智子さん(2016年9月4日配信『毎日新聞』−「北海道版」)

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是井里智子さん

 

 手話の普及を推進する新得町の手話専任通訳者として、8月から活躍する是井(ぜい)里智子さん(46)。兵庫県明石市生まれで、神戸市育ちの生粋の関西人。「手話を通じて、ろう者や多くの人と関われることが魅力」と歯切れ良い。
 経理系の専門学校を卒業し、民間企業で事務職に就く傍ら、興味のあった手話のサークル活動に参加。当初は趣味程度だったが、兵庫県洲本市で聴覚障害者に対応できる特別養護老人ホーム建設の市民運動に関わり、ろう者に寄り添う人生が始まった。
 会社を辞めて福祉施設で働きながら、日本福祉大の通信課程を卒業し、手話通訳士の資格も取得した。資格を生かす仕事に就こうと、インターネットで新得町の募集を見つけて応募した。
 新得町は「手話に関する基本条例」を制定するなど手話の普及に積極的。「ろう者が生き生きできる手伝いをしたい」。古里から遠く離れた地で、夢を膨らませる。

 

 

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