十和田市手話言語条例
2019年12月13日、青森県十和田市議会は、手話は言語であるという認識に基づき、市民の皆さんにも手話を理解してもらい、手話の普及をするための基本理念を定めたうえで、市の責務はもちろん、市民の皆さん、事業者それぞれの役割も明らかにし、ろう者とろう者以外の者が共生することができる地域社会を実現することを目的とした「十和田市手話言語条例」案を可決し、即日施行した。
同種の条例は、青森県では、黒石市、弘前市、八戸市、青森市に次いで5例目、全国では、全国で294例目。
十和田市ろうあ協会の小沢千枝子会長は、「条例が成立されたときは、大変うれしく感動しました。ろうあ協会では、昭和40年ごろから手話講習会を市民に継続して行ってきました。当時は、手話や聴覚障害に対する理解がなく、手話を使うとジロジロ見られたり、また、就職できないこともありました。ろう者が手話でコミュニケーションをとるのが当たり前であるということに、周りの理解がなかったからです。近年は、世界的にも手話は言語であると認められてきています。皆さんも手話が分からないからと悲観的になるのではなく、身振りや筆談などでも良いので、ろう者といろいろコミュニケーションをとっていただきたいと思います。聞こえない人に情報を伝えるということはとても大切です。皆さんから情報を伝えていただけると安心できます。聞こえる人も聞こえない人も、お互いに暮らしやすい十和田市をつくっていけたらと思います」「聞こえる、聞こえないにかかわらず、共に支え合いながら生活することができる社会の実現を目指すためにも、皆さんのご協力をお願いします」と語った。
市は、条例骨子案に対するパブリックコメントを2019年10月21日から11月14日まで行い、2人から7件の意見が出された。
番号 |
提出方法 |
意見等 |
市の意見 |
1 |
メール |
手話奉仕員の養成講座が全課程終了するのに最長で2年かかるので、せめて前期に入門、後期に基礎にして1年で終了出来る様にして欲しい。もしくは1つの講義時間を長くして早く終われるようにする、とか出れなかった分の講義の補講を行うなど仕事をしながら受講する人に少 し配慮が欲しい。また、受講が18歳以上と制限があるので若くても学びたい人も居るので長期休みに高校生講座とかあっても良いのでは無いか。 |
手話奉仕員の養成につきましては、意思疎通支援者の確保に関して重要な施策と認識しております。いただいたご意見につきましては、今後の参考とさせていただきます。 |
手話通訳者の講習が十和田市ではやってないので広めたいと言う割には受講が難しい状態を改善して欲しい。 |
いただいたご意見につきましては、手話通訳者の 養成・確保の施策の推進のため、今後の参考とさせていただきます |
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手話奉仕員や通訳者が居る事業所や、ろう者の為に筆談用具などを備 え付けている事業所に市から店の入り口に貼れる可愛いステッカーや旗 などを提供してろう者の方が入りやすいようにしてはどうか。 |
いただいたご意見につきましては、ろう者が情報を得る機会の拡大のための施策の推進のため、今後の参考とさせていただきます。 |
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2 |
FAX |
手話言語条例の第一義として、ろう者が暮らしやすい社会に変えていくことを大前提としていただきたい。全国で手話言語条例の制定が加速しているが、形だけの制定ではなく実質的な内容を盛り込み、ろう者を取り巻く厳しい現状を改善していく施策につなげていってほしい |
この条例は、ろう者とろう者以外の者が共生することができる地域社会の実現を目標に掲げており、ご意見のろう者が暮らしやすい社会に変えていくことを内包していると考えております。また、この条例は、基本的な理念を定めるものと整理しており、そのため、本文はできるだけ簡潔に規定しています。いただいたご意見につきましては、施策の推進のため、今後の参考とさせていただきます。 |
骨子案の第4条(市の責務)で、「・・・合理的配慮により・・・」とありますが、障害者差別解消法により合理的配慮はすでに提供義務となっており、この表現方法であえて条文に明記することは手話言語条例制定の意味を軽んじることになります。手話言語条例では単に合理的配慮としての手話の提供ではなく、言語としての手話の普及運用を謳うべきと思います。 |
ご意見のとおり、合理的配慮は障害者差別解消法により提供義務となっております。しかしながら、ろう者の自立した生活や社会参加は未だ十分とは言えない状況であることから、あえて明示しております。また、この条例では、単に合理的配慮としての手話の提供ということとは考えておらず、手話が言語であることを認めたうえで、手話への理解促進及び手話の普及を基本理念に掲げているところです |
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同第4条において、⑴〜⑷の施策は現在でも地域生活支援事業において施行されていますが、条例制定によって一層の事業の推進を望みます。例えば、幼稚園〜小・中・高等学校での手話(体験)教室への予算確保や、意思疎通支援者の養成事業となる「手話奉仕員」の養成事業にとどまらず、「手話通訳者養成講座」を開催し、手話通訳者の確保に努めていただきたい。 |
ご意見のとおり、手話教育は手話への理解促進及び手話の普及に関して重要な施策と認識しております。また、手話通訳者養成講座に関しましても、意思疎通支援者の確保に関して重要な施策と認識しております。いただいたご意見につきましては、施策の推進のため、今後の参考とさせていただきます。 |
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条例の運用、施策の推進にあたっては、聴覚障害者や情報保障を担う意思疎通支援者等の意見を取り入れ、効率的な運営ができるように運営委員会等の設置が必要と思います。 |
施策の推進に当たっては、ろう者及びその関係者の意見を聴くこととしており、運営委員会の設置は予定しておりませんが、いただいたご意見につきましては、今後の参考とさせていただきます。 |
十和田市手話言語条例の概要
基本理念
手話への理解の促進や手話の普及は、手話が言語であること、ろう者(聴覚に障害がある人で、手話を必要とする人)が手話により意思疎通を図る権利を有することを踏まえ、ろう者とろう者以外の者が互いに人格や個性を尊重することを基本として推進されなければならない。
市の責務
市は、基本理念にのっとり、必要かつ合理的な配慮などによりろう者の自立した生活や地域における社会参加が促進されるよう、手話に関する施策を推進するものとする。
・手話への理解の促進や手話の普及を図るための施策
・手話による意思疎通や情報を得る機会の拡大のための施策
・手話通訳者、手話奉仕員などの確保、養成、支援のための施策
市民・事業者の役割
・市民や事業者は、基本理念に対する理解を深め、手話に関する市の施策に協力するよう努めるものとする。
・ろう者とその支援者は、市民、事業者の手話に対する理解の促進や手話の普及に努めるものとする。
・事業者は、ろう者が利用しやすいサービスの提供と働きやすい環境の整備に努めるものとする。
十和田市手話言語条例骨子
【構 成】
前文 第1条目的 第2条定義 第3条基本理念 第4条市の責務 第5条市民の役割 第6条事業者の役割
【条例の内容】
前 文
・言語は、お互いの感情を分かり合い、知識を蓄え、文化を創造する上で不可欠なものであり、人類の発展に大きく寄与してきました。
・手話は、手指や体の動き、表情を使って視覚的に表現する言語です。
・ろう者は、物事を考え、意思疎通を図り、お互いの気持ちを理解し合うために、また、知識を蓄え、文化を創造するために必要な言語として手話を大切に育んできました。
・こうした中、障がい者の権利に関する条約や障害者基本法において手話が言語として位置付けられていることを踏まえ、手話が言語であるとの認識を深め、手話の理解と広がりをもって地域で支え合い、手話を使って安心して暮らすことができる十和田市を目指し、この条例を制定するものです。
第1条 目的
・この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話への理解の促進及び手話の普及に関し、基本理念を定め、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにし、もってろう者とろう者以外の者が共生することができる地域社会を実現することを目的とします。
第2条 定義
・この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによります。
⑴ 市民 市内に居住し、又は通勤し、若しくは通学する者をいいます。
⑵ 事業者 市内において事業を行う個人又は法人その他の団体をいいます。
⑶ ろう者 手話を言語として日常生活又は社会生活を営む者をいいます。
第3条 基本理念
・手話への理解の促進及び手話の普及は、手話が言語であること及びろう者が手話により意思疎通を図る権利を有することを踏まえ、ろう者とろう者以外の者が互いに人格及び個性を尊重することを基本として推進されなければなりません。
第4条 市の責務
・市は、前条の基本理念にのっとり、合理的配慮等によりろう者の自立した生活や地域における社会参加が促進されるよう、手話に関する次に掲げる施策を推進するものとします。
⑴ 手話への理解の促進及び手話の普及を図るための施策
⑵ 手話による意思疎通や情報を得る機会の拡大のための施策
⑶ 手話通訳者その他のろう者の意思疎通を支援する者の確保、養成及び支援のための施策
⑷ 前3号に掲げるもののほか、市長が必要と認める施策
・市は、施策の推進に当たっては、ろう者その他の関係者の意見を聴き、その意見を尊重するよう努めるものとします。
第5条 市民の役割
・市民は、基本理念に対する理解を深め、手話に関する市の施策に協力するよう努めるものとします。
・ろう者及びその支援者は、市民及び事業者の手話に対する理解の促進及び手話の普及に努めるものとします。
第6条 事業者の役割
・事業者は、基本理念に対する理解を深め、手話に関する市の施策に協力するよう努めるものとします。
・事業者は、ろう者が利用しやすいサービスの提供及び働きやすい環境の整備に努めるものとします。
四季を織りなす十和田湖、奥入瀬渓流、八甲田の自然と、十和田市現代美術館を中心に、全体をひとつの美術館に見立てた官庁街通りなど、豊かな自然とアートが融合した美しいまちの十和田市は、1859(安政6)年に新渡戸傳(伝。にとべつとう=新渡戸稲造(いなぞう)は戸傳のひ孫)によって拓かれた「若いまち」で、青森県東南部、八甲田の裾野に拓けた緑の三本木原台地(さんぼんぎはらだいち=洪積台地。1855(安政2)年新渡戸伝が開拓に着手。酪農をはじめとする農業地帯)の中央部に位置し、国立公園「十和田湖」の東玄関として知られている。
青森県の南部地方一帯は、遠く平安・鎌倉時代から多くの名馬を輩出しており、藩政時代の1863(文久3)年に馬市が開催されて以来馬セリで賑わい、1885(明治17)年には陸軍軍馬局出張所(後の軍馬補充部三本木支部)も開設され、馬産地としても知られていた(終戦後の解体により、十和田市はここを基礎として新たな都市計画づくりを促進してきた)。
また、十和田市の市街地は、「碁盤の目」に整然と区画された「美しいまち並み」が特徴で、「平等と民主の精神」の元に形成された「格子構造」のこの都市計画こそ「近代」都市計画であり、十和田市がそのルーツと言われている(「格子構造」を持つまちとしては札幌市が有名だが、十和田市の建設は札幌のそれよりも14年早い)。
同市の人口は、61,158人(男;29,335人/女;31,823人)、27,667世帯(2019年9月30日現在)。
同市の身体障害者の状況は以下の通り。