「嬉野市 心の架け橋手話言語条例」 |
国際手話の「アイ・ラブ・ユー」を意味する親指、人さし指、小指を立てたポーズで条例制定を祝う県聴覚障害者協会の会員ら=嬉野市役所塩田庁舎 |
手話条例、7月から施行 嬉野市で可決 |
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佐賀県嬉野市の6月定例議会は最終日の2014年6月20日、手話への理解を深め、手話でスムーズに会話がしやすい環境をつくる「市心の架け橋手話言語条例」案を全会一致で可決した。7月1日に施行する。手話言語条例の制定は日本でも、鳥取県(2013年10月)、北海道石狩市や十勝管内新得町、三重県松阪市に次ぐ全国5番目、九州では初めて。
2010年には、国連障害者権利条約(2006年採択)に、手話が言語である旨が明記され、国内では2011年に障害者基本法が改正され、「言語(手話を含む)」と規定されたことを受けた条例の制定で、市はユニバーサルデザインのまちづくりを促進する。
注;ユニバーサルデザイン=障害者・高齢者・健常者の区別なしに、すべての人が使いやすいように製品・建物・環境などをデザインすること。1974年米国ノースカロライナ州立大学の「センター・フォー・ユニバーサル・デザイン」所長のロン・メイス(メース)によって提唱された概念。ユニバーサル(普遍的。一般的)という言葉どおり対象を限定しない考え方。バリアは障壁(障害)を前提とするために、障害を区別しなければならない。区別は差別につながる可能性があるので、「ユニバーサルデザイン」はその区別をなくそうとする発想から生まれたものである。メイスは、ユニバーサルデザインの原則として、「誰でも公平に利用できる」「使用において自由度が高い」「使用方法が簡単にわかる」「必要な情報がすぐに理解できる」「ミスや危険につながらないようなデザイン」「無理のない姿勢で少ない力で楽に使用できる」「使いやすい大きさ」の7つを挙げている。
条例は、手話を言語と認め理解と普及を図ることを基本理念とし、あらゆる場面で手話による意思疎通ができるようにするため、手話を使いやすい環境整備や、手話を必要とする人の自立した日常生活と社会参加に向けた取り組みや手話の普及啓発、手話通訳者の拡充など必要な施策の実施を市の責務と定めた。
市役所塩田庁舎には、県聴覚障害者協会の会員約20人が傍聴に訪れ、手を取り合って喜んだ。条例制定を祝う横断幕を掲げ、国際手話で「アイ・ラブ・ユー」を意味する親指、人さし指、小指を立てたポーズで記念撮影をする静かなセレモニーもあった。
同協会の中村稔理事長は「全員賛成の可決に感激した。今までは、話しかけたのに無視されるなどの誤解を生んできたが、今後、肩を軽くたたいてもらうなど、聴覚障害者への理解が深まっていけばうれしい」と期待する。谷口太一郎市長は「嬉野市の生活の中に手話が根付くよう努力する。手話教室の拡大や、難聴者のための政策に力を入れ、来年度の予算に組み入れたい」と語った。
市内で障害者手帳を持つ聴覚障害者は約100人。条例の制定で、本年度は年間47回の手話講習会を開いて手話奉仕員を育成する。嬉野、塩田両庁舎の福祉課に置く2台のタブレット端末を使って、画面を通して佐賀市の県聴覚障害者サポートセンター(佐賀市)のスタッフが手話通訳し、市民と職員が会話できる仕組みも導入する。
谷口太一郎市長は「ユニバーサルデザインのまちづくりを個別的に実践する第1弾となる。市民だれもが少しでも手話で会話ができるようにしたい」と語った。サポートセンターの伊東康博センター長は「非常に画期的な条例。嬉野市は旅行客が多く、ハードに加えてソフトのユニバーサルデザイン化を打ち出すきっかけになり、観光PRにもつながるのではないか」と評価した。
市議会は6月16日、手話言語条例案を審議し、手話通訳士が議場で同時通訳した。聴覚障害者が傍聴を希望し、市執行部が議会に議場での手話通訳の許可を求め県内で初めて実現した。
県聴覚障害者協会の手話通訳士が、登壇者席の前に立ち、質問者と回答者のやり取りを手話で訳した。傍聴席で聴覚障害者ら関係者約20人が、市長らのやり取りをうなずきながら見守った。同協会の中村理事長は「感動した。20日の採決が待ち遠しい。条例によって、これを当たり前のこととする考え方が広まっていくことを期待している」と目を潤ませた。
兵庫県三田市会6月定例会本会議でも2014年6月17日に、議場内に初めて手話通訳士が立った。三田聴覚障害者協会(嘉田眞典会長)からの要望を、議会運営委員会が承認。一般質問で、手話の普及啓発に向けた取り組みなどについて尋ねた市議の質疑内容などを、傍聴に訪れた聴覚障害者らに伝えた。
なお審議では、条例の理念に賛同する一方、既に手話言語条例を定めている他の自治体と比較して、「もう少し準備が必要では」「現場が混乱しないか」などの指摘や質問が出た。徳永賢治保健福祉部長は「まず基本理念をうたい、その後いろいろな政策を検討する」と答弁した。
2014年年6月6日提出 嬉野市長谷口太一郎
理由;障害者基本法において言語として位置付けられた手話を認知し、手話に対する基本理念を定めるため、条例を制定する必要がある。
(目的) 第1条 この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話を普及させ、地域において手話を使用しやすい環境を構築するために、市の責務及び市民の役割を明らかにするとともに、総合的かつ計画的に施策を推進することで、手話を使用する市民が、手話により自立した日常生活を営み、社会参加をし、及び心豊かに暮らすことができる地域社会の実現に寄与するこどを目的とする。
(基本理念) 第2条 手話を必要とする人は、手話により意思疎通を円滑に図る権利を有し、その権利を尊重することを基本として手話に対する理解及びその普及を図っていかなければならない。
(市の責務) 第3条 市は、基本理念にのっとり、手話を普及し、手話を必要とする人があらゆる場面で手話による意思疎通を行うことができるようにし、自立した日常生活及び地域における社会参加を保障するため、必要な施策を講ずるものとする。
(市民の役割) 第4条 市民は、基本理念に対する理解を深め、市の施策に協力するとともに、地域において手話を使用しやすい環境の構築に努めるものとする。
(施策の策定及び推進) 第5条 市は、次に掲げる施策を総合的かつ計画的に実施するものとする。 (1) 手話に対する理解及び手話の普及を図るための施策 (2) 市民が手話による意思疎通や情報を得る機会の拡大のための施策 (3) 市民が意思疎通の手段として容易に手話を選択することができ、かつ、手話を使用しやすい環境を構築するための施策 (4) 手話通訳者の拡充及び処遇改善等、手話による意思疎通支援者のための施策
(財政措置) 第6条 市は、手話に関する施策を積極的に推進するために必要な財政上の措置を講ずるものとする。
この条例は、平成26年7月1日から施行する。 |