要約筆記派遣の現状 愛媛県 (『愛媛新聞』2015年6月22〜25日付)

 

 

要約筆記派遣8市のみ(2015年6月22日付『愛媛新聞』)

 

14年度県内実施 制度浸透不十分

 中途失聴者や難聴者の意思疎通を手助けするため、相手の話の要点をその場で文字にして伝える「要約筆記」。個人や団体の依頼に応じ、筆記者の無料派遣が市町村に義務付けられて今年で10年目を迎えるが、県内20市町で2O4年度に派遣実績があったのは8市にとどまることが、21日までの愛媛新聞の調べで分かった。派遣制度が浸透していない実態が浮き彫りとなり、自治体は担い手育成と会わせ、潜在的ニーズを掘り起こし幅広く利用を促す努力が求められそうだ。
 要約筆記の派遣は06年施行の障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)が市町村に義務付けた。筆記者は聴覚障害者が病院を受診したり、会合に参加したりする時、横で話の内容をノートに書き、団体が主催する研修会などでは、参加者全員に分かるようにスクリーンに映し出す。県内自治体は社会福祉協議会やNPO法人に事業委託しているケースが多い。
 愛媛新聞が県内市町に14年度実績を聞き取り調査したところ、松山市539件、▽今治市71件▽東温市19件▽四国中央市▽宇和島市18件▽新居浜市9件―などだった。手話通訳派遣は16市町で計7874件あった。
 要約筆記派遇で松山、今治両市などは個人からの依頼が大半を占めるのに対し、四国中央、新居浜、大洲市はすべて団体からだった。個人利用が進まない理由に自治体担当者は「通院などに家族が付き添っている」 「個人情報を知られたくない」ことなどを挙げた。
 一方、実績ゼロは12市町で、担当者は「制度の周知不足かもしれないが、手話通訳に比べ、要望がほとんどない」と口のそろえる。担い手育成も大きな課題で、八幡浜市は「市内に要約筆記の資格者がいない。県の養成講座の受講者もこの数年ゼロが続いている。
 愛媛難聴者協会の河野啓一事務局長は「難聴の高齢者は手話を覚えるのは難しく、要約筆記のニーズは大きい。当事者は積極的に活用し、行政側も意欲的に取り組んでほしい」と要望している。

要約筆記最前線 1 生活に寄り添う 難聴者のいる職場全体支援


 中途失聴者や難聴者のコミュニケーション手段の一つ「要約筆記」は、手話に比べ、まだまだ一般に知られていない。社会の高齢化で今後、ニーズが増すことが予測され、全国障害者スポーツ大会の愛媛開催を2O17年に控えていることもあり、担い手の育成が急がれる。要約筆記に取り組む県内現場を取材した。
 「要約筆記者の存在は大きい。日常生活の身近な所で寄り添ってくれる」。聴覚障害のある中城尚子さん(56)=松山市=は市役所での手続きや地域の会合などで、市の要約筆記の無料派遣制度を利用している。
 9歳の時、薬の副作用で重度の難聴になった。当時の補聴器は今ほど聞こえが良くなく、ふさぎ込んだこともある。39歳のころ、人工内耳を装着し、対面での会話はある程度理解できるが、複数の人が同時に話すと、いろんな声が混ざり合って聞き取りは難しくなる。
 話ができるから、聞こえていると誤解されることもある。「要約筆記の助けがあるので、再び生活が楽しめるようになった」

情報3、4倍

 要約筆記は難聴者だけでなく、難聴者がいる場全体への支援につながる。
 例えば、診察の場面。松山赤十字病院の藤崎智明内科部長は「患者と筆談したことがあるが、説明内容が単調になってしまう。筆記者がいれば、患者に伝える情報量は3、4倍に増える」と話す。
  藤崎医師自身、筆記者同席で診察をした経験はないが、5月中旬、市社会福祉協議会主催の筆記者向け研修会に招かれ、模擬通訳を体験。「医療現場にとって大きな手助けになる」と実感した。
 派遣制度を使わず、家族が付き添うことも多いが、県内最古参の要約筆記サークル「オリーブの会」(松山市)の渡部美佐子会長(70)は「医師は家族に向かって話してしまい、難聴者は帰宅後に家族から聞く。これでは情報保障にならない。その場で伝える要約筆記が必要だ」と話す。
 口元の動きで言葉を読み取る難聴者もいるが、医師の言葉を誤解してしまうこともある。「たばこは吸いますか」と「卵は好きですか」の動きはほぼ一緒。 「医療現場では命に関ねる場面もある」と指摘する。

手話は2割

 

 厚生労働省の2OO6年調査によると、聴覚障害者のうち、手話を日常的に使うのは約2割とされる。病気や事故で聴力を失った人や難聴の高齢者は手話を覚えるのは容易ではなく、文字情報に頼る人は多い。
 松山市では要約筆記の派遣依頼が毎月4050件程度あり、市が事業委託する市社協には「講演会に行っても聞こえない」「子どもの保護者会や進路相談などに行く気になれない」といった相談がある。
 市社協は今春、派遣依頼の窓ロとなる「手話生活相談室」を「聴覚総合支暖室」に名称変更した。
 支援室の吉田由香里課長補佐は「聴覚障害全般を支援することをあらためて明確にした。手話を使わない中途失聴・難聴者の相談が増えている。高齢の難聴者が引きこもり、認知症になる事例もある。要約筆記の派遣制度を活用してほしい」と呼びかけている。
 

要約筆記の派遣に関する問い合わせは、各市町の障害福祉担当窓口へ。

 

 

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