高松手話通訳派遣拒否違憲訴訟

 

池川事件(高松市手話派遣要請却下処分不服に対する行政訴訟)

 

要綱の改定 訴訟の経緯 和解成立

 

T.高松市在住の聴覚障害者(2歳のとき高熱にかかり耳が聞こえなくなり、身体障害者福祉法に基づく第2級の障害等級を有するろう者)の池川洋子(改姓前:羽地洋子)さんが、健聴者の香川県立高校2年生の長女(母親との間の日常会話の意思疎通程度の手話はできるがそれを超える用語は指文字で表現するため重要な説明会での通訳が可能な技術水準を持っていなかった)が進学を希望する専門学校のオープンキャンパス時に開催される保護者説明会に母親として参加しようと手話通訳者の派遣申請をしたところ、大西秀人高松市長に市外であることや保護者説明会は客観的に見て参加する必要性が乏しいとの理由で派遣申請が却下された。

 

なお、高松市以外でも手話通訳者派遣の依頼に対して、対象外として却下する市町村は少なくない。その一方で依頼に応じる市町村もあり、居住地により対応が異なる状況が生じている。例えば、市外(例:県立病院への通院)、葬式、商取引、職場等への派遣依頼については自治体により派遣の可否の判断が異なり、また夜間や休日の緊急の依頼への対応についても自治体により差異があり、急病人に手話通訳者が配置されない例もある。

 

概要

 

1.手話通訳者派遣要請の経緯

池川さんは2011年6月17日、高松市身体障害者協会に対し、7月24日午前11時から専門学校で開催される保護者説明会に手話通訳者の派遣を求めるFAXを送った。

協会は、高松市障がい福祉課に対し、池川さんの申請書をFAXにて送信した。

FAXを受信した同福祉課は同日、池川さんに対し、「専門学校の案内状をFAXで頂きたい」旨のFAXを送り、池川さんは同日、依頼に応じて、福祉課の宛てに同校の2012年度生オープンキャンパス日程一覧表をFAXで送った。

6月23日福祉課は、池川さんに対し、高松市の手話通訳者派遣要綱において、派遣範囲は原則として同市の区域内とすること、派遣対象は社会生活上必要不可欠な用務であることなどが定められており、オープンキャンパス日程一覧表のみでは手話通訳の派遣対象となるか判断できないので、保護者説明会出席と手話通訳者派遣の必要性について説明する書面を提出するよう求め、その上で手話通訳の派遣の可否について検討するという内容のFAXを送った。

6月28日池川さんは、福祉課に対し、手話通訳の派遣がなければ池川さんには、何の情報もなく、子どもに対して適切に助言したり支援したりすることも困難になるのだと訴え、手話通訳の派遣を強希望する旨のFAXを送った。

6月30日福祉課は、池川さんに対し、長女が記専門学校に入学が決定しているかを問い合わせるFAXを送った。

7月5日池川さんが同福祉課宛に反論のFAXを送ったところ、福祉課は、池川さんに対し、翌6日、要綱の対象となるかを判断するためのものであり、ご理解を賜りたいとのFAXを送った。

7月8日池川さんは、福祉課に対し、手話通訳はろう者にとって生活上必要不可欠であり、派遣場所が高松市内か否かで許可がいることは矛盾がある、通訳派遣を希望する旨のFAXを送った。

 

2.却下処分

大西秀人高松市長は、7月12日、池川さんの申請に対して、@派遣場所が高松市地域生活支援事業(手話奉仕員派遣事業・要約筆記奉仕員派遣事業)実施要綱第5条にて定める本市の区域内でなく、かつ通訳内容が、市長が特に必要であると認める程度の客観的な重要性に乏しいこと、A派遣対象について、専門学校のオープンキャンパスに伴う保護者説明会は、義務教育とそれに準ずる高校等に関する以外のものであり、運用基準第1条区分(5)「教育に関すること」で定めた派遣対象事項に該当しないことを理由として、派遣要請に対する却下処分を行った。

すなわち高松市長は、要綱第5条を直接の根拠とし、その運用として、「@手話通訳者の市域外派遣を『市長が特に必要と認める』ための要件として通訳内容の客観的重要性が必要である。A専門学校のオープンキャンパスに伴う保護者説明会は、通訳内容の客観的重要性が乏しい。Bよって、専門学校のオープンキャンパスに伴う保護者説明会は『市長が奉仕員の市外派遣を特に必要と認める』ことに当たらず、手話通訳者派遣の対象とならない」としたのである。

 この却下決定は、@この決定について不服があるときは、この通知書を受けた翌日から起算して60日以内に、書面で高松市長に対し異議申立てをすることができる、Aこの処分の取消しを求める訴えは、前記異議申立てに対する決定の送達を受けた日の翌日から起算して6ヶ月以内に市町村を被告として提起できる、B処分の取消しの訴えは、前記の審査請求に対する裁決を経た後でなければ提起することができず、例外的に決定を経ないでも処分の取消しの訴えを提起できる旨が記載されていた。

 

3 池川さんの負担による通訳依頼

池川さんは、手話通訳者の派遣申請が却下されたことから、香川県聴覚障害者福祉センターを通じて、東京手話通訳等派遣センターに対し、7月24日午前11時から12時までの間、専門学校で開かれる保護者説明会への手話通訳者の派遣を依頼した。

池川さんは、保護者説明会に参加し、手話通訳者が派遣され、東京手話通訳派遣等センターから請求のあった4720円を振り込み支払った(振込手数料は420円)。

 

4.異議申立て

8月26日池川さんは、大西秀人高松市長に対し、件却下処分を取消し、手話通訳派遣に要した経費の損害賠償を求める異議申立てを行った。

9月9日高松市長は、池川さんに対し、異議申立書に処分庁の教示の有無及びその内容を記載すべきとの補正を命じ、池川さんは補正命令に応じて、9月13日、高松市長に対し、処分庁の教示の有無及びその内容を記載した申立書を提出した。

10月5日高松市長は、池川さんの異議申立てを却下する決定をした。

決定の理由は、池川さんが6月17日付けで行った通訳日時は7月24日午前11時から正午までであり、8月26日付け異議申立てが提起された時点において既にその通訳日が経過しており、池川さんが処分の取消しを求める利益を有しないことは明らかであるから、としていた。

5.提訴

 

 2012年2月28日池川さんは、高松地方裁判所民事部に、

@ 高松市長が池川さんに対して行った、池川さんの高松市長に対する2011年6月17日付手話通訳派遣申請に対する同年7月12日付却下処分はこれを取り消す。

A 被告は池川さんに対し、金10万5140円及びこれに対する2011年7月13日から支払い済みまで年5分の割合の金員を支払え。

B 訴訟費用は被告の負担とする。

 との判決及び第2項につき仮執行宣言を求める。

訴えを提起した。

 訴状の結論は、以下のように記載されている。

 

「本件却下処分は池川さんの基本的人権・権利を侵害する違憲・違法な却下処分として取り消されるべきであり、派遣費用の実費が返還されるべきはもちろんのこと、池川さんの個人の尊厳が毀損されたことの人格権侵害として被告高松市に慰謝料の賠償を命じる判決が下されるべきは明らかである。

判決を受け止めた被告高松市が本件要綱を抜本的に改正し、二度と同様の人権侵害を繰り返さないことを求めるとともに、本事件を契機として国・地方自治体が、ろう者の情報・コミュニケーション保障の権利の確立を確実に推進していくことを求め、権利条約の日本の批准と障害者の権利保障を目指して障害者制度改革を推進する全国の障害者の願いを受けて本提訴に至ったものである」。

 

6.その後、長女は専門学校に合格し、奨学金を受けることも可能となったため、2012年4月から同校に進学した。

 

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U.2012年3月下旬、専門学校から同年4月10日に入学式及び保護者説明会が開かれる旨の案内が届いた。池川さんはそれらに出席するため、長女を通じて、同校に手話通訳の準備ができるか尋ねたところ、準備はできないとの回答があったため、3月26日、高松市身体障害者協会を通じて高松市に対し、午前10時から開かれる入学式、保護者説明会に手話通訳者の派遣を求めした。

これに対して、大西秀人高松市長は、「高松市地域生活支援事業(手話奉仕員派遣事業・要約筆記奉仕員派遣事業)実施要綱」第5条により、@本市の区域内でなく、かつ、通訳内容が、市長が特に必要であると認める程度の客観的な重要性に乏しいこと、A派遣対象について、専門学校入学式および保護者説明会は、義務教育とそれに準ずる高校等に関する以外のものであり、運用基準である「高松市手話奉仕員派遣事業および要約筆記奉仕員派遣事業の派遣対象の取扱いについて」のうち「教育に関すること」で定めた派遣対象事項に該当しないとして、却下処分を行った。

 

4月6日池川さんは、大西秀人高松市長に対し、却下処分の取消しを求める異議申立てを行った。

 

4月9日高松市長は、池川さんの異議申立てを却下する決定をした。

決定の理由は、手話奉仕員の派遣場所が、要綱第5条に定める「本市の区域内」ではなく、かつ、通訳内容が、市長が特に必要であると認める程度の客観的な重要性に乏しい。また、派遣対象は、専門学校入学式および保護者説明会であるとこと、義務教育とそれに準ずる高校等に関するもの以外のものであり、本件運用基準に定める「社会生活上必要不可欠な用務」に該当しないため、手話奉仕員を派遣すべきものと認められない」とのことであった。

 

池川さんは、香川県聴覚障害者福祉センターを通じて、東京手話通訳等派遣センターに対し、同月10日、午前10時から開かれる入学式及び保護者説明会への手話通訳者の派遣を依頼した。

池川さんは、入学式及び保護者説明会に出席し、5月28日、手話通訳者派遣の費用として、1万1990円を振込により支払った(振込手数料は420円)

 

2012年9月28日池川さんは、高松地方裁判所民事部に行政事件訴訟法第19条第1項「関連請求に係る訴えをこれに併合して提起することができる」との規定に基づき、却下処分が憲法に違反することなどを理由とする「訴えの追加的変更」を申し立てた。

 

訴状の一部抜粋

 

1 憲法第13条違反

(1) 国民は「すべての基本権の享有を妨げられ」ず、「生命、自由及び幸福追求権に対する国民の権利」は、公共の福祉に反しない限り、「立法その他国政の上で、最大の尊重を必要」とする(憲法第13条)。これを、我々は個人の尊厳あるいは幸福追求権と呼んでいる。

(2) 池川さんは、長女の入学式及び保護者説明会に参列するために必要な手話通訳者の派遣を、高松市に拒否された。池川さんはろう者であるが、入学式は当然のことながら、音声言語を主として用いて執り行われる。したがって、手話通訳者がいない状態では、池川さんは入学式及び保護者説明会において何が行われているのか全く理解することができないし、自分が疑問に思ったことを学校に尋ねたり、式の感想を隣人に伝えることなどによって、子供の成長を同じ保護者と共に祝うことも不可能となる。つまり、手話通訳者の存在なしでは、池川さんは外界とのコミュニケーションの手段を奪われ、世界から隔絶された状態に陥るのであり、高松市は、手話通訳者の派遣を拒否することによって、池川さんが長女の入学式に参加し、学校や保護者と意思疎通を行うこと、すなわち池川さんの、他者とコミュニケーションをとる権利を侵害したのである。

(3)ア 規定ぶりからわかるように、憲法第13条は包括的な幸福追求権を定めたものである。しかし、その内容は無限定ではなく、あらゆる権利が同条により保障されるものではない。具体的には、当該権利が、自律的個人が人格的に生存するために不可欠であること、その行為は多数の国民が行おうと思えば行うことができること、それを行っても他人の基本権を侵害するおそれがないことなどの要件を満たして初めて、当該権利が同条に基づき保障されると考える。以下、本件において侵害された池川さんの権利が、同条により保障されることについて述べる。

イ まず、コミュニケーションの重要性について検討するならば、社会福祉法人全国盲ろう者協会の理事、東京大学教授で自らが盲ろう者である福島智氏は、コミュニケーションの重要性を以下のように述べている。

「それは、私の周りからこの現実世界が消えてなくなってしまったような衝撃でした。言い換えれば、それはまるで、この地上からちょうど地球の「夜の側」の宇宙空間に放り出されたような感覚でした。私は絶対的な虚無と孤独感を味わったのです。」「私に最も大きな苦痛を与えたものは、見えない、聞こえないということそのものではなく、他者とのコミュニケーションが消えてしまったということでした。私は驚きました。他者とのコミュニケーションがこれほど大切なものであるということをそれまで考えたことがなかったからです。私は深い孤独と苦悩の中で考えました。「人

は見えなくて、聞こえなくても生きていけるだろう。しかし、コミュニケーションが奪われて、果たして生きていけるのだろうか」と。」

ウ 福島氏も述べるとおり、我々が外界の情報を受け取り、そして自分のメッセージを外界に発すること、すなわち他者とコミュニケーションをとることは、我々が尊厳ある人間として生きるために最も重要な権利と言っても過言ではない。しかし、ろう者である池川さんは、手話通訳者の支援を受けなければ、手話が使えない人間(我々の社会のほとんどの人間は、手話を使うことはできない)とコミュニケーションをとることができないのである。そうであるならば、我が国の教育課程に手話が言語学習として取り入れられていない以上、池川さんは国家によって脱コミュニケーション状態に置かれたまま放置されていると言わざるを得ない。

まして、本件で問題となっているのは、教育課程の中でも非常に公共性の高い、入学式及びそれに引き続く保護者説明会という公式行事である。

当該式典は学校関係者及び在学生の保護者であれば誰にでも開かれており、かつ、その場において発せられる各種メッセージは参加者全員にとって非常に重要なものであり、学校関係者及び在学生の保護者で共有することが望まれていることは言うまでもない。したがって、入学式及びそれに引き続く保護者説明会に参加し、学校や保護者とコミュニケーションをとる権利及び当該権利の行使は、多数の国民が行おうと思えば行うことができ、かつそれを行っても他人の基本権を侵害するおそれがないことは明らかである。

エ 以上より、池川さんが長女の入学式及びそれに引き続く保護者説明会に参加し、学校や保護者と意思疎通を行うこと、すなわち池川さんの、他者とコミュニケーションをとる権利は、自律的個人が人格的に生存するために不可欠であること、その行為は多数の国民が行おうと思えば行うことができること、それを行っても他人の基本権を侵害するおそれがないことの要件を満たし、憲法第13条によって保障されることは明らかである。

(4) よって、高松市が池川さんの他者とコミュニケーションをとる権利を侵害したこと、すなわち池川さんの手話通訳者派遣申請を却下したことは、憲法第13条に違反する。

 

 

日本弁護士連合会は、「民事訴訟手続における障がいのある当事者に対する合理的配慮についての意見書」を取りまとめ、2013年3月21日付けで内閣総理大臣、最高裁判所長官、法務大臣、衆議院議長及び参議院議長宛てに提出した。

意見書の趣旨は、民事訴訟手続(行政事件訴訟手続を含む)における障がいのある当事者の訴訟活動を十全なものとするため、国会には民事訴訟法に「裁判所の合理的配慮義務」を定める規定を設けること、合理的配慮にかかる費用は国の負担とすること。最高裁判所には規則に裁判所が行う具体的な合理的配慮の規定を設けること、裁判官は障がいの特性に応じた合理的配慮を行うこと。国、地方公共団体には障がいのある訴訟当事者に対する、点訳サービス、手話通訳者派遣サービス等の情報保障の公的サービスを充実させること等。

 

 2013年12月3日(木)高松市役所健康福祉部長室にて、香川県ろうあ協会近藤会長以下8名の県・高松協会役員や会員が出席して近藤会長より香西信行健康福祉部長に署名用紙を添えて要望書を提出、要望4項目について、近藤会長より説明。健康福祉部長は、「他市町の例も参考に運用実態を検証し年明けの1月以降にろうあ協会と協議の場を持ちたい」と回答した。

 

署名総数=11、612名(高松市民6、277名・高松市民外5、335名)

要望の趣旨

私ども社団法人香川県ろうあ協会では、香川県内に在住する聴覚障害者の生活と権利を守るとともに、聴覚障害者に対する社会一般の認識を高めるための諸事業を行い、福祉の発展と充実を図ることを目的に活動を行っております。

2006年4月、障害者自立支援法が施行されてから三年が経過し、私達聴覚障害者を取り巻く環境は施行前と比べて大きく後退しました。聴覚に障害がある私達が、社会の中で自立した生活や社会参加をするためには、「コミュニケーション」という大きな壁があります。

2006年12月、国連総会で「障害者権利条約」を採択しました。この条約は世界各国の障害者団体のNGOも参加し主張が反映された条約になっています。この「障害者権利条約」が目指しているのは、すべての障害者が、そしてすべての人が住みやすい社会です。私達の町で、障害のある人もない人も、共に暮らすこと。職場や学校で、障害のある人もない人も、共に働き、学ぶこと。

それがあたりまえな社会です。そんな誰もが、あたりまえに生活し、行動し、参加できる社会です。

しかし、耳の聞こえない私達は、誰かと話す時にも手話通訳や要約筆記が必要なのです。それは、あらゆる生活場面で必要となります。現在、高松市が定めている「高松市地域生活支援事業(手話奉仕員派遣事業・要約筆記奉仕員派遣事業)実施要綱では、その利用に様々な制限が設けられており、私達の自立した生活や社会参加を著しく阻害しているのです。

「コミュニケーション」は、人が人らしく生きるために必要不可欠なものであり、日本国憲法で保障されている基本的人権の保障でもあります。

社団法人香川県ろうあ協会は、聴覚障害者の自立した生活と社会参加の増進を願い、真に障害のない人と同様な社会生活が送れるよう不便な思いをする聴覚障害者をなくするために、「高松市地域生活支援事業(手話奉仕員派遣事業・要約筆記奉仕員派遣事業)実施要綱の改正と適正な事業を実施されますことを切に願い、ここに11、612名の署名を添えて要望いたします。

 

(要望事項)

1.派遣の範囲を高松市内に限定せず日本国内として下さい。

実施要綱第5条では、「奉仕員の範囲は、本市の区域内とする。ただし、市長が特に必要であると認める場合は、この限りでない。」

現在、高松市外の派遣に関しては運用で対応されておりますが、運用ではなく実施要綱に明記して下さい。聴覚障害者の行動も高松市内のみならず、県内外に出かける機会は多くあり、その際にいつ手話通訳が必要となるかわかりません。高松市民が安心して暮らせるように早急に対応されますようお願いいたします。

 

2.聴覚障害者団体の学習会等行事にも手話通訳者を派遣して下さい。

実施要綱第2条第1項第2号では、「市または聴覚障害者等の福祉を目的とする団体が主催する行事で、市長が適当と認めるものへの参加」

聴覚障害者団体が主催する行事等では、手話通訳者がいなければ情報保障がなく十分な学習会等も開催できず情報不足になりがちな聴覚障害者の生活に重大な影響を及ぼすことにもなりかねません。第2条の派遣対象者に聴覚障害者団体を明記するなど派遣対象を見直して下さい。

 

3.実施要綱記載の「外出」の文言及び派遣対象の取扱い等を撤廃して

あらゆる場面に派遣対応できるようにしてください。

コミュニケーションが必要となる場面は、外出に限りません。日常生活のあらゆる場面でコミュニケーションは必要となります。最近では、悪質業者の訪問販売など、手口が巧妙でコミュニケーションが不自由な聴覚障害者が被害に遭う可能性は極めて高く、自宅にいながらも業者との契約や取扱説明など手話通訳はなくてはならないものです。

実施要綱中の「外出」の文言は全て撤廃して下さい。

また、派遣対象の取扱いでは、手話通訳派遣の対象内容が著しく制限されており利用できません。利用できるものを限定するのではなく真に自立と社会参加が促進できるように派遣対象の取扱いを撤廃して下さい。

 

4.土日夜間等の緊急派遣対応を早急に実施して下さい。

派遣対象の取扱いでは、「夜間・休日における緊急の派遣申請については、平日昼間と異なる番号へFAX送信することにより受け付ける。」となっているにも関わらず、なんら対応をしていないのは容認できません。対応出来る事業所への委託変更等も含めて早急に対応して下さい。

 

 

訴訟の最中の2014年4月1日から以下のように高松市の手話通訳派遣要綱が改正された。池川さんの長女の専門学校の卒業式は3月20日だったため、通訳派遣を一度は却下されたが、その後の協議により、改正要綱施行を前倒して実施することとなり、池川さんは、念願がかなって卒業式に公費で通訳派遣ができた。

 

2014年4月21日第4回口頭弁論において、裁判長から、「高松市の派遣要綱も改正されたので、和解をしてはどうでしょうか?」との和解勧告があり、池川さん側・被告側ともに和解協議に入ることに合意し、和解交渉が進められていたが、10月22日(2012年2月提訴以来2年8か月)、高松地裁(福田修久裁判長)和解が成立した。

 

和解に内容は、市が手話通訳や要約筆記者の派遣の必要性と、市外派遣をより広く認め、2014年4月に改正した実施要綱を誠実に運用していくことが前提として、慰謝料の請求を放棄するというもの。派遣を認めなかった市の行政処分の取り消し請求も取り下げる。

 

市は、旧要綱で派遣先を市内に限っており、当初は争う姿勢を示していたが、(障害者と障害のない人の意思疎通を支援する)障害者総合支援法に基づく手話通訳派遣について、実施状況が自治体によって異なることを重く見た厚生労働省が2013年3月27日、対象の制限を事実上廃止するモデル要綱(意思疎通支援事業実施要綱)を全国の自治体に通知。これを受けて市が要綱を改正したため、地裁が和解を促していた。

 

地域生活支援事業における意思疎通支援を行う者の派遣等について

(障企自発0327第1号 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室長)

 

(派遣の区域及び時間)

11条 意思疎通支援者の派遣の対象となる区域は、○○県(都道府県)内とする。

2 前項の規定にかかわらず、市(区市町村)長は、意思疎通支援者を派遣することが必要であると認めるときは、意思疎通支援者を○○県(都道府県)外に派遣することができるものとする。ただし、市(区市町村)長は、当該派遣先が遠隔地等の理由により意思疎通支援者を派遣することができないときは、他市の登録手話通訳者又は要約筆記者を派遣することができるものとする。

3 意思疎通支援者の派遣の対象となる時間は、原則、午前○○時から午後○○時までとする。ただし、緊急又はやむを得ない事由のある場合はこの限りではない。

 

和解成立を受け、大西秀人市長は「今後は要綱に基づき、聴覚などに障害のある方の自立支援と社会参加の促進を図りたい」との談話を発表した。

池川さんは、「市の要綱改正が実現し、今回の和解は大きな喜び」と手話で表現した。

代理人の安西敦弁護士は「高松市は今後、聴覚障害者支援で全国の手本になっていってほしい」と語った。 

 

今回の訴訟では、地裁が法廷でのやり取りを文字化してスクリーンに映す要約筆記を実施。手話通訳専用の傍聴席も用意した。原告弁護団によると、こうした配慮は全国初という。 

池川さんは「『審理内容がわからない』と裁判に尻込みしていた聴覚障害者に勇気を与えられたと思う。全国の裁判所が後に続いてほしい」とも話した。

 

和解条項

 

原告と被告は、高松市地域生活支援事業(手話奉仕員派遣事業・要約筆記奉仕員派遣事業)実施要綱が廃止され、新たに高松市意思疎通支援事業実施要綱が平成26年4月1日から施行されたことに伴い、被告が原告に対し、聴覚障害者に対して意思疎通支援者(手話通訳者及び要約筆記者)の派遣の必要性と市外派遣がより広く認められるように、新たな要綱をその趣旨に従って誠実に運用することを約束したことを踏まえて、下記のとおり和解する。

 1 原告は、被告に対する本件請求中、行政処分の取消しを求める部分の訴えを取下げ、被告は、この取下げに同意する。

 2 原告は、その余の請求を放棄する。

 3 訴訟費用は各自の負担とする。

 

高松市手話通訳・市外派遣拒否違憲訴訟和解成立についての声明

 

2014(平成26)年10月22日

原告弁護団

 

 本日、高松地方裁判所において、原告池川洋子さんと被告高松市とは、障害者自立支援法に基づく手話通訳派遣却下処分取消等請求事件について、同裁判所からの勧告を受けて、また、全国からの多くの支援の中で、和解の成立により解決しました。

和解の内容は、被告高松市が、本年4月1日から新たに「高松市意思疎通支援事業実施要綱」を施行して、市外への派遣を認める共に派遣の範囲も広がることになり、その誠実な運用を約束したことにより、本件訴訟を提起した主たる目的が達成されたことを踏まえ、本日、本訴訟を取り下げるというものです。

本訴訟は、2011(平成23)年6月、原告が子どもの専門学校への進学に伴い、高松市外で行われるオ−プンキャンパスの際の保護説明会に出席するため、当時の「高松市地域生活支援事業(手話通訳派遣事業・要約筆記派遣事業)実施要綱」に基づき、手話奉仕員の派遣申請を行ったところ、@市の区域内でなく、かつ、通訳内容が市長が特に必要と認める程度の客観的な重要性が乏しく、Aオープンキャンパスでの保護者説明会は「教育に関すること」に該当しない、との理由で拒否されたことが、障害者基本法・障害者自立支援法・日本国憲法に違反するとして提起しました。

 2012(平成24)年2月28日に訴訟を提起した後は、被告との間で上記の実施要綱の違憲性等をめぐる議論を進めるだけでなく、裁判所との間で、障害がある原告や傍聴の方々に対する裁判における情報保障・手続保障をについて協議を重ね、法廷内での手話通訳の立ち位置、要約筆記・磁気ル−プ・盲ろう通訳の配置などの具体化を進めました。

 障害者基本法が、国及び地方公共団体に対して障害者の情報利用におけるバリアフリー化の施策を講ずる責務を定め、本年1月20日には、国が「障害者の権利に関する条約」を批准した今日、弁護団は、本日の和解解決の趣旨が高松市以外の全国の地方自治体に広がるだけでなく、全ての障害者にとって情報利用におけるバリアフリー化を実現する行政措置、立法措置へと実を結ぶことを訴えます。

 

なお、訴訟に対するカンパ額は2014年8月25日現在、7、609、015円(1350件))に上った(目標1、000万円)

 

2014年4月1日より高松市の手話通訳派遣が大きく変わります。

 

4月1日以降の派遣受付を聴障センターで3月17日(月)から受付けます。派遣申請は、FAX(087−868−9201)もしくは窓口で受付けます。

@派遣要綱が変わります。

  ・基本的には、どんな内容でも派遣できます。

  ・市外、県外も派遣できます。

  ・聴覚障害者団体も利用できます。

  ・土曜、日曜日、夜間の対応も可能になります。

   (自宅内、ペットの病気、土地の売買など今まで派遣してもらえなかったことも派遣できるようになりました。)

   (深夜の緊急対応はできない場合もありますがご了承下さい。)

 

 A派遣窓口が変わります。

香川県意思疎通支援事業が始まります。

  (主に広域派遣や団体派遣)

 @市町で対応できない派遣に対応します。

A派遣窓口は、聴障センターになります。

 B意思疎通支援者証を香川県知事名で交付します。

  (聴障協会が交付していた手話通訳者証から変わります。)

 C現任研修が毎月開催されます。

 D登録更新手続に関する事項も変わります。

(詳細は、改めて現任研修時にご説明いたします。)

 

訴訟の経緯

 

日時

内容

2012年2月28日

長女が進学を希望する専門学校が開催する保護者説明会への手話通訳派遣申請却下処分につき、提訴(訴状

3月30日

弁護団、高松地裁に対し、「聴覚障害ある当事者、傍聴人の情報保障及び裁判所の適正手続保障に関する意見書」提出

5月11日

聴覚障害者6団体で構成される聴覚障害者制度改革推進中央本部、最高裁判所に対し、要望書提出

6月 6日

第1回事前協議

7月23日

第2回事前協議(弁護団、7月20日付け意見書提出)

9月28日

追加提訴。長女の専門学校の入学式等への手話通訳派遣申請却下処分の取消及び手話通訳費用1万2、410円、慰謝料20万円の合計 21 万 2、410 2、410円を請求(訴状

10月10日

第3回事前協議(弁護団、9月28日け意見書提出)

2013年1月9日

第1回進行協議期日(弁護団、2012年12月28日付け意見書提出 )

3月27日

厚労省、手話派遣対象の制限を事実上廃止するモデル要綱(意思疎通支援事業実施要綱)を全国の自治体に通知

4月22日

第1回口頭弁論

原告側、訴状と訴えの追加的変更についての書面を陳述。被告側、これに対する反論書面(答弁書、準備書面(1))を提出

弁護団原告本人が、意見陳述

原告は、「裁判官私の手話を見て下さい」と起立したまま今回の経緯や今までの子育ての苦労、母親として子供に対する思いを訴える

一方傍聴席の情報保障について、

@傍聴席には磁気ループのスペースが確保

A要約筆記用にパソコンとプロジェクターが置かれ、要約筆記の内容が壁に映し出された

B傍聴席の一番前には手話通訳者が立ち、法廷に背を向ける形で傍聴席向けに手話通訳を行った。盲ろう者の通訳のため一部の椅子が取り外された

9月30日

第2回口頭弁論

提出書面確認の後、代理人若林弁護士(聴覚障害者)がパワーポイントを使用して意見陳述

原告、特に伝えたいことを意見陳述とし、「手話通訳派遣を拒否されることは、ろう者が人として生きる事を否定されることも同然である」と、原告側の請求はすべて認められるべき理由を述べる。

被告の高松市側からは、書面のみの提出で意見陳述はない

12月9日

第3回口頭弁論

専門学校のオープンキャンパスでの保護者説明会で手話通訳が必要だったことの理解のために、四国医療福祉専門学校の全面協力のもと、2013年7月13日に作成した保護者説明会を再現した(保護者説明会当日の事を再現したものと、手話通訳がいなかった場合の様子も撮影)DVDのによる通訳があった時となかった時にどのようになるかを再現したものを流し、誰にも通訳が必要と思える証しを立証

筑波大学法科大学院の青柳幸一教授の意見書をもとに、コミュニケーション支援保障請求権は憲法上の重要な権利であり、@親の教育の自由A表現の自由・知る権利B障害者の自立支援C個人の尊重・自己決定権D合理的配慮のそれぞれの憲法に基づき保障されるものであること。@については、子供の学習権は、義務教育を超えて保障される。高校進学ばかりでなく、大学進学も、そして専門学校進学でもある。Aについては、障害者については、より手厚い補償が必要、手話が言語、コミュニケーション手段であるろう者にとって手話通訳を利用できるのは基本的な権利である。Bについては、障害のある人にとっては自立支援も重要な生存権保障である。Cについては、自律的な生き方を目指すための自己決定には手話通訳派遣の配慮が必要である。Dについては、機会の平等の実現のためには合理的配慮が必要、合理的配慮が行われないことは差別であり、公的機関は金銭的負担を問題にすべきでないと主張

2014年4月1日

高松市、手話通訳派遣要綱を改正

4月21日

第4回口頭弁論。裁判長から、「高松市の派遣要綱も改正されたので、和解をしてはどうでしょうか?」との和解勧告があり、池川さん側・被告側ともに和解協議に入ることに合意(和解交渉が進められている)

10月22日

和解成立

 

なお、2013年5月9日の参議院法務委員会で、日本共産党の井上哲士議員の民事訴訟法改正また司法での情報保障等に関する質問に対し、谷垣禎一法務大臣は要約筆記は訴訟費用には当たらない、これは国が負担すると政府答弁している。

 

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。

 障害のある人の裁判に参加する権利についてお聞きをいたします。

 現行の民事訴訟の手続に、障害のある人が訴訟当事者になった場合を想定した規定がほとんど存在しておりません。そのために、障害のある人が十分な訴訟活動を行うことが非常に困難になっております。民事訴訟の手続というのは健常者にとっても非常にハードルが高いわけでありますが、書類を自由に読み書きできない視覚障害者や、難解な書類の内容を理解しにくい知的障害者の方など、民事訴訟を利用することは極めて困難になっております。

 一方、二〇一一年に施行された障害者基本法は、第二十九条で司法手続における配慮等を定めております。国又は地方公共団体は、障害者が、裁判所における民事事件、家事事件若しくは行政事件に関する手続の当事者その他の関係人になった場合において、障害者がその権利を円滑にできるようにするため、個々の障害者の特性に応じた意思疎通の手段を確保するよう配慮するとともに、関係職員に対する研修その他必要な施策を講じなければならないと、こう定めております。

 まず法務大臣と最高裁にお聞きいたしますが、この基本法の制定を受けて、どのような配慮、施策が行われてきて、かつ、現状についてはどのように認識をされているでしょうか。

○最高裁判所長官代理者(永野厚郎君) お答えいたします。

 最高裁判所としましては、障害者基本法の改正を受けて、裁判所職員に対して法改正の趣旨及び内容を周知するとともに、各種研修において法改正について触れるなどして、裁判所職員の意識の向上を図っているところでございます。

 各裁判所においては、個々の障害者の特性に応じた意思疎通の手段を確保するよう配慮するという法改正の趣旨を踏まえて、事案に応じた適切な配慮が行われつつあるものというふうに認識しております。

○国務大臣(谷垣禎一君) 今、最高裁の方でやっておられることは御答弁がございました。そういう形で障害者基本法を周知徹底させるということをやっていただいているわけですが、それに加えまして現行の民事訴訟法におきましては、当事者あるいは証人等々、口頭弁論に関与する者が、耳が聞こえない方とかあるいは口が利けない、そういうことで口頭弁論において陳述していくのに支障が、差し障りがある場合、これは裁判所のお仕事なんですが、裁判所は通訳人を立ち会わせて口頭弁論を行わなければならないというふうになっております。

 それから、当事者が難聴であるとか言語障害、あるいはもう御高齢である、それから知能が十分ではない、こういうような十分な訴訟行為をなし得ないような場合に、これも裁判所の許可を得て、補佐人と一緒に出頭することができるというふうになっておりまして、こういうものを適宜適切に、個々の障害者の訴訟行為ができるように適切に配慮していくということを更に努めていただいていると考えております。

○井上哲士君 最高裁からは行われつつあると、こういう答弁でありましたから、まだまだ不十分だということだと思うんですね。

 今、民事訴訟法の第百四十八条第一項で裁判長の訴訟指揮の範囲で様々な配慮が行われておりますが、やはり個々の裁判体の判断による訴訟指揮の範囲になっているわけで、その裁量によって当該当事者が十分な訴訟活動を行うことができないという事態もいろいろ聞いております。裁判所規則でもう少し明確に裁判所が行うべき具体的な合理的配慮の規定を設けるべきだと思うんですが、その点いかがでしょうか。

○最高裁判所長官代理者(永野厚郎君) お答えいたします。

 合理的な配慮につきましては、やはり個別事案ごとに異なり得るものでありますから、規則によって画一的に訴訟指揮を拘束するということは必ずしも相当ではないのではないかと。また、それらを網羅的に規則に書き込むこともなかなか困難ではないかというふうに考えております。

○井上哲士君 それはやり方、規定ぶりだと思うんですよね。現実でいうとやはりまだまだ十分な配慮がされていないわけですから、きちっとできるようにする上で、私は是非この合理的配慮の規定についてできる限り具体的なものを設けることが必要だと思うんですが。

 その上で具体的にいろいろ聞きますが、先ほど研修のことがございました。事前に資料をいただきますと、新任の判事補研修や新任の部総括、支部長の研修会で、それぞれ法務省の人権擁護局長や学者やマスコミ関係者が人権問題とか国際人権規約等についての講演をされております。国際的な潮流についてもっともっと研修を深めていただくことは必要だと思います。

 書記官の養成課程では、民事特別講座として法務省の人権擁護局による障害者への配慮の講義などが行われるとともに、グループ別の総合演習として病院やホテル、社会福祉法人などの施設の訪問を通じてテーマを深める取組をやっているとお聞きしましたが、ただ、この過去五年間で社会福祉法人を見学先にしたのは二十四年度だけだったとお聞きしておるわけで、やはり障害者への配慮を学ぶという点ではまだまだ極めて不十分だと思うんです。

 そこで、障害を持つ当事者を講師にしたり、それから当事者団体との意見交換を行うとか、こういうことによって具体的、合理的配慮の中身とか実施方法についてもっともっと研修を深めることが必要だと思うんですが、そういう当事者との意見交換など、いかがお考えでしょうか。

○最高裁判所長官代理者(永野厚郎君) お答えいたします。

 ただいま委員の方から御紹介ございましたように、研修につきましては、裁判官の研修を担当しております司法研修所、裁判官以外の裁判所職員の研修を担当しております裁判所職員総合研修所あるいは各裁判所において、障害者に関する研修も含めてどのような研修をどのようなテーマで実施するのがよいのかといった点について試行錯誤しながら今研修を計画、実施しているところでございますので、委員からの御指摘も踏まえて引き続き検討してまいりたいというふうに考えております。

○井上哲士君 これは本当に当事者じゃないと分からないことがたくさんあるんですね。是非これは実現をしていただきたいと思います。

 視覚障害者や知的障害者への配慮なんですが、訴状の送達を受けても、それが訴状であることを認識できないまま送達の効力が発生をして欠席裁判が行われて、さらに、送達された文書が判決文であることを知らないまま控訴期間が経過をし確定してしまうと、こういう事態も起こっておりますし、二〇〇二年に通達を出されて、裁判所が必要と認める場合は点字文書を交付、送付するという便宜供与を図ることとされておりますけれども、その後どのぐらいこの便宜供与が行われているのか、いかがでしょうか。

○最高裁判所長官代理者(永野厚郎君) お答えいたします。

 御質問のあった点訳判決等の件数についてでございますけれども、最高裁の方としまして判決書の点訳書面を交付した事例について一律に報告を受けているものではございませんので、ただいま御紹介のあった報道で紹介されている以外に、こちらの方で把握しているというところはございません。

○井上哲士君 二〇一二年の九月に名古屋地裁で点字の判決文がありましたが、これが全国二例目という報道だったわけで、本当にごく一部に、特に判決にはとどまっておるわけで、これも是非もっと広げていただきたいと思います。

 さらに、聴覚障害者への配慮ですけれども、先ほどいろんな通訳の配置はできるということでありますが、この費用負担ですね。まず、手話通訳や要約筆記の扱い及びその費用負担、これはどうなっているでしょうか。

○最高裁判所長官代理者(永野厚郎君) お答えいたします。

 一般的に手話通訳は、民事訴訟法百五十四条一項本文の通訳人に該当するというふうに解釈をされておりまして、通訳人の通訳料は民事訴訟費用等に関する法律によって当事者が負担すべき費用とされております。そして、この民事訴訟費用等に関する法律は強行法規というふうに解釈されておりますので、裁判所でその支払を任意に免除することはできないと、そういうことでございますので、当事者が一旦その費用を予納された上で、その上で、最終的には、費用の負担は原則として敗訴した当事者が負担するという扱いになっております。

○井上哲士君 これ、手話通訳というのはかなり負担でありまして、一日で三、四万掛かる場合もあるとお聞きをいたしました。ですから、民事訴訟に踏み切る、場合によっては自分が負担しなくちゃいけないということになりますと、非常に高いハードルになっておりまして、実質的にやっぱり裁判を受ける権利が阻害をされていると思うんですね。

 全日本ろうあ協会のアンケート調査では、回答した九百七十一市町村のうち、手話通訳の派遣事業の実施率は約八三%です。そのうち、九三・八%は利用料を徴収をしておりません。これは、コミュニケーションに受益ということを求めるのは無理があるという判断だと思うんですが、一方、この派遣の範囲にいろいろ差がありまして、医療や官公庁の手続は約八割五分が対象ですが、裁判や警察関係は六六・三%しか対象になっていないので、三分の一は対象外なんですね、地方自治体の支援についても。それから、県外派遣を認めないというのも四二・七%ありまして、住んでいる地域によって、またその裁判を受ける場所によって、通訳の派遣料の負担に大きな差が出ておりまして、これは裁判を受けるところに格差が生じております。

 これ、民事訴訟法で訴訟費用の負担になるということでありますけれども、こういうやっぱり格差というものを是正をするということを考えますと、この民事訴訟法の改正ということも含めて配慮をすることが必要かと思うんですが、この点、大臣いかがでしょうか。

○国務大臣(谷垣禎一君) 今、最高裁から御答弁がありましたように、手話通訳は当事者負担で、敗訴者が負担するのが原則だと。ただ、今委員のお問いかけは、事前に納付したりいろいろ負担もあるんじゃないかということだと思いますね。

 それでもう一つ、要約筆記というのがございまして、やっぱり普通の筆記なんかではよく、うまくいかない場合には、口頭弁論における口頭のやり取りを要約筆記者がパソコン等で分かるようにしていくと、これは訴訟費用には当たらないと、これは国が負担するということになって、そういう扱いになっていると思います。

 そこでさらに、今の御趣旨は国が国費で負担する制度をもっと拡充すべきではないかという、そういう御趣旨だと思うんですが、障害者が訴訟上もその権利を行使できるようにそれぞれに応じてどうしていくかということは、相当これから考えていかなきゃならない面が一つはございます。

 しかし、他方、民事訴訟は私人間の紛争を解決するものだというのもございまして、だから手続に要する費用は普通は当事者負担となって敗訴者が負担するということになっているわけですが、手続を利用する人と利用しない人の公平をどう図っていくかという観点ももう一つあるように思います。

 そこらをどうしていくかというのは非常に難しい検討が必要ではないかというふうに感じます。

○井上哲士君 例えばアメリカでは、障害のあるアメリカ人に関する法というもので、障害のある当事者が、州の裁判所や地方裁判所を含むあらゆる州政府及び地方政府の機関の提供するプログラムや活動への参加を否定するということを禁止しておりまして、その一環として、州裁判所や地方裁判所がその費用によって配慮を行うべき旨を規定をしております。その上で、一九七八年の法廷通訳法というのがありまして、連邦裁判所が、一定の要件の下で、聴覚障害のある訴訟当事者や証人等のための手話通訳等の費用を公費で負担しなければならないという規定をしているんですね。

 先ほど、利用した人としない人の不公平感みたいなお話がありましたけど、これは裁判にそもそも参加する、その手続に入る前のハードルになっているわけですよ。ですから、私はやっぱりいろんな障害を持っている方が裁判手続というものを選ばれる自体が障害になっているということは、基本法の精神からいっても、また障害者の権利に関する条約の精神からいっても、これはやっぱり賄っていくということは国際的にも大きな流れだと思うんですね。

 難しい検討と言われましたけれども、前向きの検討を是非お願いしたいと思いますが、改めていかがでしょうか。

○国務大臣(谷垣禎一君) その辺、いろいろまた状況をよく見て考えていきたいと思います。

○井上哲士君 これはアメリカだけではなくて、韓国でも、二〇〇七年の三月に制定された障害者差別禁止法でも、民事訴訟手続における訴訟当事者及び証人のための手話通訳等の費用は公費で負担すべきということの規定になっておりまして、国際的に大きな流れになっております。

 是非、これは障害者の裁判参加を保障するという点で前向きの検討を是非強く求めまして、質問を終わりたいと思います。

 

 

 

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