福島県:郡山市で手話言語条例成立 |
中核市に指定されている福島県の中部に位置する郡山(こおりやま)市議会は、2015年2月20日、全会一致で郡山市手話言語条例を可決した。
郡山市は、江戸時代においては、奥州街道の宿場町があったが、手話言語条例にあるように、明治時代に開削された猪苗代湖より取水し、郡山市とその周辺地域の安積原野に農業用水・工業用水・飲用水を供給し、水力発電にも使用されている、安積疏水(あさかそすい=栃木県・那須疏水、滋賀県・琵琶湖疏水〈京都市〉と並ぶ日本三大疏水の1つ)や新しい日本の象徴として行われた国家事業の安積開拓によって発展してきた。
郡山市は「第5次総合計画」の大綱の一つに掲げた「安心して生きいきと暮らせる健康福祉のまち」を基本として、2009年3月に「郡山市障がい者福祉プラン」を策定したが、策定から3か年が経過したことから、障福祉サービス、相談支援、地域生活支援事業等の充実を図るため、「障がいのある人もない人も、お互いに人権、人格、個性を尊重し、ともに生きる社会の実現」を基本理念とし、障がい者の地域生活支援を推進するため地域の相談支援体制の拠点として総合的な相談業務を行う基幹相談支援センターの設置や、障がい者虐待の未然防止や早期発見、迅速な対応のための障がい者虐待防止センターの設置など、相談支援体制の充実を図るための様々な施策実行するための「第2期郡山市障がい者福祉プラン」を2012年3月に策定した。
プランの一つに、「聴覚障がい者の日常生活のコミュ二ケーシヨンを支援するため、登録手話通訳者養成の充実を図ります」とある。
安心して生きいきと暮らせる健康都市の実現のために「市全体が手話の理解に努め、ろう者が手話を使用しやすい環境づくりを推進するため、市の責務、市民の役割等を明らかにするとともに、市が実施する施策の基本となる事項を定める郡山市手話言語条例が制定され、2015年4月1日から施行されることとなった。
条例は、私たちは手話が言語であるとの認識に基づき、市全体が手話の理解に努め、ろう者が手話を使用しやすい環境づくりを推進することにより、全ての市民が共に生きる地域社会を築いていくことの決意をしめしたうえで、手話により意思疎通を図る権利を尊重するや手話を必要とする人が手話を使用しやすい環境を整備するために必要な施策も推進するものとしている。
また、市は、学校や医療機関における手話の普及、手話を使用しやすい環境を整備するために事業者が行う取組に対して、必要な支援を講ずるよう努めるものとしている。
さらに、災害時の対応や情報通信技術の活用についての市の努力義務も規定されている。
なお、郡山市の障がい者手帳所持者数は、身体、知的、精神の3障がい合計で延べ1万5,217人(2011年4月1
現在)で、この5年間では2,545人増加し、今後も、この増加傾向が続くと予想している。
郡山市は2016年8月25日の品川萬里(まさと)市長の定例記者会見から、手話通訳を始めた。首長会見の手話通訳は福島県内初で、全国に47ある中核市の中でも初めての施策である。
品川市長は冒頭、「通訳しやすいよう分かりやすく説明したい」と述べ、9月定例市議会の提出議案の概要などの説明や質疑など、約1時間の会見を、市専任手話通訳士の女性2人が交代で市長の脇に立ち、同時通訳した。
通訳の模様は、市ウェブサイト上で動画配信する。今後の定例や月例会見でも、手話通訳を導入する。通訳士の一人は「行政用語を意識し、いかに直訳するかに集中した。動画を見たろう者の声を聞いて通訳を工夫したい」と話していた。
市は、聴覚に障害のある人たちから、インターネットや動画を使った情報発信を求める声が強く、手話による情報発信の充実などに取り組んでいる。
障がい福祉課は、市長会見を手話通訳することで「文章では難しく理解しにくいことも、手話通訳することで聴覚に障害のある人に、きめ細かな情報が提供できるようになる」としている。
福島県:郡山市手話言語条例(pdf) |
人間は、言語によって自分の思いや考えを伝え、社会生活を営んできました。手詰はろう者が手指の動きや表情などを使って、概念や思を視覚的に表現する言語です。
私たちの住む郡山市は、住民と全国からの移住者が力を合わせ成し遂げた安積疎水の開削や安積開拓からわかるように、歴史的に人と人とが交流しながら成長を遂げてきたまちであり、今後さらなる発展を目指すには、市、市民及び事業者全てがお互いを理解し、尊重しながら信頼の絆で結ばれる社会を実現していくことが大切です。
これらを踏まえ、私たちは手話が言語であるとの認識に基づき、市全体が手話の理解に努め、ろう者が手話を使用しやすい環境づくりを推進することにより、全ての市民が共に生きる地域社会を築いていくことを決意し、この条例を制定します。
(目的)
第1条 この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話の理解及び普及に関して基本理念を定め、市の責務及び市民の役割を明らかにするとともに、市が実施する施策の基本的事項を定めることにより、全ての市民が共に生きる地域社会を実現することを目的とする。
(基本理念)
第2条 手話の理解及び普及は、手話を必要とする人が手話により意思疎通を図る権利を有しており、その権利を尊重することを基本としとして、行われなければならない。
(市の責務)
第3条 市は前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話の理解及び普及を図り、手話を必要とする人が手話を使用しやすい環境を整備するために必要な施策も推進するものとする。
(市民の役割)
第4条 市民は、基本理念に対する理解を深め、市が推進する施策に協力するよう努めるものとする。
(施策の推進)
第5条 市は、次の各号に掲げる施策を総合的、かつ計画的に実施するものとする。
(1) 手話の理解及び普及に関すること。
(2) 手話による情報発信及び情報取得に関すること。
(3) 手話による意思疎通支援に関すること。
(4) 手話通訳者の設置及び処理の改善は関すること。
2 市は、施策と市が別に定める障がい者の福祉に関する計画との整合性を図るものとする。
(手話を学ぶ機会の確保)
第6条 市は、ろう者、手話通訳者、手話奉仕員及び手話を使用することができる者と協力して市民が手話を学ぶ機会の確保を図るものとする。
(手話を用いた情報発信)
第7条 市は、手話を必要とする人が市政に関する情報を正確かつ速やかに得ることできるよう、手話を用いた情報発信に努めるものとする。
(手話通訳者等の確保及び要請等)
第8条 市は、手話通訳者及び手話奉仕員の養成及び手話技術の向上を図るものとする。
(学校における手話の普及)
第9条 学校の設置者は、手話の理解及び普及を図るために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2 市は、学校において児童、生徒及び教職員に対する手話を学ぶ機会を提供するよう努めるものとする。
(医療機関における手話の普及)
第10条 医療機関の開設者は、手話を必要とする人が手話を使用しやすい環境を整備するために、必要な措置を請ずるよう努めるものとする。
2 市は、医療機関において手話を使用しやすい環境を整備するために手話通訳者を派遣する制度の周知等必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(事業者への支援)
第11条 市は、手話を必要とする人が手話を使用しやすい環境を整備するために事業者が行う取組に対して、必要な支援を講ずるよう努めるものとする。
(災害時の対応)
第12条 市は、災害時において、手話を必要とする人に対し、情報の取得及び意思疎通の支援に必要な措置を講ずるものとする。
(情報通信技術の活用)
第13条 市は、この条例に定める諸施策に関して、情報通信の技術を活用するよう努めるものとする。
(財政上の措置)
第14条 市は、この条例に定める手話に関する施策を推進するため、必要な限度において財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
(その他意思疎通支援の推進)
第15条 市は、聴覚障害の特性に応じ、手話のほか要約筆記の活用等、意思疎通の支援に必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(委任)
第16条 この条例の施行に関し、必要な事項は市長が別に定める。
附 則
この条例は、平成27年4月1日から施行する。
(提案理由)
市全体が手話の理解に努め、ろう者が手話を使用しやすい環境づくりを推進するため、市の責務、市民の役割等を明らかにするとともに、市が実施する施策の基本となる事項を定める。