手話の普及や手話が使いやすい環境整備を目的にした市川三郷町手話言語条例案が2015年9月18日、山梨県西八代(やつしろ)郡市川三郷町(みさとちょう)議会において全会一致で可決された。施行は、10月1日。同様の条例の最初の制定は鳥取県で、市川三郷町は全国で19番目の自治体となり、山梨県内では初めて。
町では2015年10月に、聴覚障害者や教育関係者など25人からなる手話施策推進会議を設置し、町立小中校での手話学習や、公的機関への手話通訳士の配置、手話通訳士の育成などの具体的な普及策を練ることにしている。
条例では、手話について、「聴覚障害者が大切に育んできた言語で、音声言語と異なる言語」と規定。「障害者の権利に関する条約や障害者基本法において、手話が音声言語と同等の言語として位置付けられたことにより、手話を必要とする人に対し、社会生活のあらゆる場面で手話による意思疎通を保障する環境を整備することが求められています」とした上で、「手話は言語であるという認識に基づき、手話の理解に努め、手話を使って安心して暮らすことができ、全ての人々が、お互いを尊重し、わかり合い、心豊かに共生することができる市川三郷町を目指し」、手話でコミュニケーションを図りやすい環境の構築や、聴覚障害者の自立した日常生活や社会参加の保障、働きやすい環境の整備に向けて、町や事業者、町民が取り組むとしている。
すでに町では、2014年度から積極的に手話の普及活動を行ってきた町聴覚障害者協会の協力を得て、富士川町と合同で住民向けの手話講座を始めており、2015年度は約が参加している。また、同協会からは2014年6月、国に対して手話言語法の制定を求める請願が町議会に提出され、2015年5月には今回の条例制定の要望が町に寄せられていた。
市川三郷町=2005年10月に旧三珠町・市川大門町・六郷町が合併して誕生。甲府盆地の南西に位置し、南アルプスを源流とする釜無川と、秩父山系を源流と
する笛吹川が合流し富士川となる左岸に位置している。四季折々の自然が楽しめる四尾連湖や芦川渓谷、歌舞伎文化公園、ぼたん回廊や桜の名所、花火、和紙、はんこなどの地場産業、大塚人参やとうもろこしの「甘々娘」に代表される農産物、市川の百祭りなど、町には誇れる資源が数々ある。
2010年10月1日現在の人口は、6,074世帯17,111人(男8,300人、女8,811人)。
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聴協の会長 1日救急隊長に〜手話言語条例の成果 山梨県市川三郷町〜
2016年9月4日、山梨県市川三郷町で同町聴覚障害者協会の一瀬いと子会長が山梨県峡南広域行政組合消防本部北部消防署より1日救急隊長の委託を受けた。
一瀬会長は当日、1日救急隊長のタスキをかけ、救急活動に参加した。
消防署内では、障害者を1日救急隊長に任命することに対し賛否両論がありましたが、手話の出来る救急係長から「多くの住民に聴覚障害者の困っていることや、地域の支援を必要としていることを伝えたい」という強い要望があり、消防署長をはじめ多くの消防署員が賛同した。
当日、一瀬会長は消防署員への訓示を行い「今後も良質な救急サービスの提供と、関係機関との連携を深め、住民を災害から守ってほしい」と述べ、消防署員は真剣な面持ちで聞いていた。
その後の防災講話では、聴覚障害者の立場で「生活の中で不便を感じていること」「災害時や避難先で周囲の配慮を必要とすること」、または「情報が入りにくく、夜間や緊急時の判断が難しい聴覚障害者の現状があること」等を話し、多くの方から「とても勉強になった。災害時に助け合う必要がある」と感想があった。
一瀬会長は、「貴重体験ができた」とコメトした(2016年9月28日全日本ろうあ連盟『手話言語ニュースNo33』)
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市川三郷町手話言語条例 |
(前文)
言語は、人間が知識を蓄え思考し、お互いの意思疎通を図り、文化を創造する上で必要不可欠なものであり、人類の発展に大きく寄与してきました。
手話は、意思疎通のために用いる表現にとどまらず、ろう者が知識を蓄え文化を創造する上で欠かせないものとして大切に育んできた言語であり、音声言語と異なる言語です。
しかしながら、これまで手話が言語として認められてこなかったことや、手話を使用できる環境が整えられていなかったことなどから、ろう者は、必要な情報が得られない、周囲とコミュニケーションを取れないなど、多くの不便を感じながら生活し、全ての人々が共生社会を実感できる状況には至っていませんでした。
障害者の権利に関する条約や障害者基本法において、手話が音声言語と同等の言語として位置付けられたことにより、手話を必要とする人に対し、社会生活のあらゆる場面で手話による意思疎通を保障する環境を整備することが求められています。
手話は言語であるという認識に基づき、手話の理解に努め、手話を使って安心して暮らすことができ、全ての人々が、お互いを尊重し、わかり合い、心豊かに共生することができる市川三郷町を目指し、この条例を制定します。
(目的)
第1条 この条例は、手話が言語であるとの認識に基づき、手話の理解並びに普及及び地域において手話を使用しやすい環境の構築に関し、基本理念を定め、町、町民及び事業者の役割を明らかにするとともに、総合的かつ計画的に施策を推進し、もってろう者とろう者以外の者が共生することのできる地域社会を実現することを目的とする。
(基本理念)
第2条 ろう者が、自立した日常生活を営み、地域における社会参加に努め、全ての町民と相互に人格と個性を尊重しあいながら、心豊かに共生することができる地域社会の実現を目指すものとする。
2 ろう者は、手話による意思疎通を円滑に図る権利を有し、その権利は尊重されなければならない。
3 手話への理解の促進と手話の普及を図り、手話でコミュニケーションを図りやすい環境を構築するものとする。
(町の役割)
第3条 町は、基本理念にのっとり、手話の普及と、ろう者があらゆる場で手話による円滑な意思疎通ができ、自立した日常生活や地域における社会参加を保障するための施策の推進に努めるものとする。
(町民の役割)
第4条 町民は、地域社会で共に暮らす一員として、ろう者の人権を尊重し、町が実施する施策に協力するよう努めるものとする。
(事業者の役割)
第5条 事業者は、ろう者が利用しやすいサービスを提供するとともに、ろう者が働きやすい環境を整備するよう努めるものとする。
(施策の策定及び推進)
第6条 町は、障害者基本法(昭和45年法律第84号)第11条第2項に規定する障害者のための施策に関する基本的な計画において、次の各号に掲げる施策について定め、これを総合的かつ計画的に実施するものとする。
(1)
町民の手話に対する理解及び手話の普及を図るための施策
(2)
手話による円滑な意思疎通ができる環境を構築するための施策
(3)
手話通訳者の配置等によるろう者の社会参加の機会を拡大するための施策
(4)
前3号に掲げるもののほか、町長が必要と認める事項
2 町は、実施状況の点検、見直しのため、聴覚障害者及び意思疎通支援者等町長が適当と認める者が参画する市川三郷町手話施策推進会議(以下「施策推進会議」という。)を設置する。
3 前項の施策推進会議の組織及び運営に関し必要な事項は、別に定めるものとする。
4 町長は、施策の推進の実施状況を公表するとともに、不断の見直に努めるものとする。
(財政措置)
第7条 町は、手話に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
(委任)
第8条 この条例の施行に関し必要な事項は、町長が別に定める。
附 則
(施行期日)
1 この条例は、平成27年10月1日から施行する。ただし附則第2項の規定については、平成28年4月1日から施行する。
(市川三郷町特別職の職員で非常勤のものの報酬及び費用弁償に関する条例の一部改正)
2 市川三郷町特別職の職員で非常勤のものの報酬及び費用弁償に関する条例(平成17年市川三郷町条例第45号)の一部を次のように改正する。
別表第1景観審議会委員の項の次に次のように加える。
手話施策推進委員 |
会長 4,000円 委員 3,500円 |
提案理由
手話は言語であるという認識に基づき、手話の理解に努め、手話を使って安心して暮らすことができ、全ての人々が、お互いを尊重し、わかり合い、心豊かに共生することができる市川三郷町を目指すにあたり条例で定める必要があるため、本条例を制定するものです。
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平成27年10月1日
市川三郷町長
市川三郷町手話施策推進会議規則 |
(趣旨)
第1条 この規則は、市川三郷町手話言語条例(平成27年市川三郷町条例。以下「条例」という。)第6条に基づき設置する市川三郷町手話施策推進会議(以下「施策推進会議」という。)の組織及び運営に関し、必要な事項を定めるものとする。
(組織)
第2条 施策推進会議は、委員25人以内で組織する。
2 条例第6条第2項に規定する町長が適当と認める者は、次に掲げる者とする。
(1) 手話による意思疎通を行う者
(2) 手話による意思疎通を支援する者
(3) 商工関係者
(4) 企業関係者
(5) 教育関係者
(6) 医療関係者
(7) 防災・防犯関係者
(8) 公募による町民
(9) その他町長が必要と認める者
(会長及び副会長)
第3条 施策推進会議に会長及び副会長を置く。
2 会長は、委員の互選により定める。
3 会長は、施策推進会議を総理し、施策推進会議を代表する。
4 副会長は、委員の内から会長が選任する。
5 副会長は、会長を補佐し、会長に事故あるとき又は会長が欠けたときは、その職務を代理する。
(会議)
第4条 施策推進会議は、会長が招集し、その議長となる。ただし、会長及び副会長が在任しないときの施策推進会議は、町長が招集する。
2 施策推進会議の会議は、委員の過半数が出席しなければ開くことができない。
3 施策推進会議は傍聴することができる。ただし、市川三郷町情報公開条例(平成17年年市川三郷町条例第10号)第5条各号に規定する非開示情報を保護する必要がある場合には、委員の協議により非公開とすることができる。
(意見の聴取)
第5条 会長は、必要があると認めるときには、委員以外の者を施策推進会議に出席させ、その説明若しくは意見を聴き、又は資料の提出を求めることができる。
(庶務)
第6条 施策推進会議の庶務は、福祉支援課において処理する。
(その他)
第7条 この規則に定めるもののほか、施策推進会議の運営に関して必要な事項は、会長が施策推進会議に諮って定める。
附 則
この規則は、平成27年10月1日から施行する。
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市川三郷町議会2015年3月定例会(第1回)議事録
◆8番議員(宮崎博已君)
よろしくお願いいたします。
次に移ります。
手話言語の条例制定について、昨年の6月定例会において、手話言語の制定を求める意見書の提出をし、全会一致で採択され国に提出されました。
その内容は、手話を使うろう者にとって、聞こえる人たちの音声言語と同様に大切な情報獲得とコミュニケーションの手段として守られて来た。しかし、ろう学校では手話は禁止され、社会では手話を使うことで差別されてきた長い歴史があったと、ろう者の厳しい現状が訴えられていました。
さらに、改正障害者基本法では、国・地方公共団体に情報のバリアフリー化施策を義務付け、手話が音声言語と対等な言語であることを広め、聞こえない子どもが手話を身につけ、手話で学べ、自由に手話が使え、さらに、手話を言語として普及、研究することができる環境整備をと訴えています。
昨年の11月2日に、歌舞伎文化公園で行われた「手話言語」大フォーラムに参加して参りました。
全国に先駆けて、手話言語条例の制定をした鳥取県での取り組みについての講演が行われ、2部では条例制定の課題などパネルディスカッションが行われ、聴覚障害者の皆さんの熱い思いが伝わってきました。
鳥取県では、条例制定を受け、現在はみんなで手話を学ぶ、ミニ講座の開催や、全学校に冊子を作成し、配布しています。
生徒たちは、身近に手話を感じながら、自分の名前を手話で紹介し、手話は言語の1つであることを学んでいます。
障害をもった方々との垣根を低くし、交流を深めていくことはとても大切なことだと思っております。
そのような点からも、手話言語の条例を制定し、町民や教育現場でも手話を取り入れて行くべきと考えますが、町長のお考えをお伺いいたします。
○議長(三神貞雄君)
答弁を求めます。
町長、久保眞一君。
◎町長(久保眞一君)
手話言語の条例制定についてでありますが、平成26年6月議会において、手話言語法の制定を求める意見書が全会一致で採択され国に提出されたこと、また、障害者の権利に関する条例や障害者基本法において、手話は言語として位置付けられているということは認識しております。
手話言語条例の制定状況につきましては、平成27年2月現在でございますが、県レベルでは、神奈川県と鳥取県の2県であります。市町村レベルでは、北海道1市2町、三重県1市、兵庫県2市、山口県1市、佐賀県1市で、合計6市2町で、山梨県においては、皆無という状況であります。
今後、本町が条例を定める場合にあたっては、まず、町の基本理念から、手話の理解と広がりをもって地域で支え合い、手話を使って安心して暮らせることができる町を構築すること。次に、町の責務として、手話の普及、手話による意思疎通、社会参加の保障を行うこと、という2つの視点から考えていく必要があります。
さらに、手話言語法の条例の策定および推進にあたって、手話の理解と普及のため、公的機関をはじめ、商業施設や企業、自治会や地域の小学校・中学校への手話の普及や、手話通訳者の配置など、手話による意思疎通支援者等の育成および確保が必要になります。これらについて、関係部署と慎重に協議し、条例制定の準備を進めてまいりたいと思います。
以上、答弁といたします。
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市川三郷レンジャー ラインスタンプで手話PR
市川三郷町は、町のご当地キャラクター「市川三郷レンジャー」の、にんにん(青)・どんどん(赤)・ぽんぽん(黄色)を使った簡単な手話の無料通信アプリLINE(ライン)のスタンプを作り、配信している。
町は手話言語条例を制定しており、手話を身近に感じてもらおうと、レンジャーが日常的に使う言葉を手話で表現している。
町が企画・制作したものだが、かかった予算はなんと0円。担当者2人が自らデザイン、手続きなどに取り組み、半年ほどかけて配信にこぎ着けた。
スタンプを作る職員
訪問看護師、手話学ぶ 市川三郷の拠点が教室(2019年8月23日配信『山梨日日新聞』)
秋山哲也さん(手前左)から手話を学ぶ参加者=市川三郷町市川大門
山梨県内で初めて手話を言語として定義する「手話言語条例」を制定した市川三郷町市川大門の「訪問看護ステーション西八代」(望月澄子所長)は、訪問看護師らを対象にした手話教室を始めた。
聴覚障害のある利用者に訪問看護をしていることから意思疎通のため基礎を学び、聴覚障害者の在宅生活を支援する。
山梨県市川三郷町、職員に「手話できます」バッジ(2017年1月25日配信『読売新聞』)
手話ができる職員が身につけるバッジ
市川三郷町は、手話を勉強している職員が身につけるバッジを作った。
市川三郷町は2015年、手話を言語と位置づけ、普及を目指す「手話言語条例」を、県内の自治体で初めて制定した。手話ができる職員を増やそうと、同町は「手話施策推進プロジェクト」を作り、手話の勉強会を月2回開いていて、参加している約20人は簡単な手話ができる。バッジは、町役場に来た人が、手話ができる職員を見つけて相談できるように作られた。
バッジには、同町を知ってもらうためのオリジナルキャラクター「市川三郷レンジャー」をあしらった。バッジに印刷された「手話勉強中」の文字には、勉強している最中というだけではなく、手話の習熟度に関係なく「いつまでも勉強し続ける」という気持ちを込めたという。
バッジは約300個作った。同町は今後、町内の金融機関などで手話の講習会を開き、受講した人にも配ることにしている。
町福祉支援課の内藤武志係長は、「バッジが耳の不自由な人の役に立つだけではなく、目にした人が手話に関心を持つきっかけになってほしい」と話している。