習志野市手話、点字等の利用をすすめて、障がいのある人もない人も絆を深め、互いに心をかよわせるまちづくり条例

 

 千葉県志野市議会12月定例会は12月21日の本会議で、共生社会実現のため、手話をはじめ障害に応じた情報取得・コミュニケーションを保障する条例案を全会一致で可決した。

 

 正式名称は「市手話、点字等の利用を進めて、障がいのある人もない人も絆(きずな)を深め、互いに心を通わせるまちづくり条例」。

 

 共生社会の実現のため、市には必要な施策を行う責務を課した。市と市民、市民団体・事業者の三者に、障害者から助けを求められたら、負担になりすぎない範囲で行動を起こすよう求めた(ただ市民と市民団体・事業者には、市より拘束力が弱い努力義務とした)

 

市障がい福祉課は「普段から近所に住む人の障害の種類、程度を理解しておけば必要時のコミュニケーションが円滑になる」と話した。

 

 手話普及策として市に、市民への学習機会の提供、聴覚障害者の使用機会の確保、講座やイベントを手話で通訳する環境整備などを求めた。市は2014年度から計3回、窓口対応の職員に手話などの研修を行っているほか、手話通訳士3人を職員に採用し、今後も増やす予定。視覚障害者向けに点字プリンターも導入し、現在、登録手話通訳者7人と要約筆記者1人を確保。聴覚障害者が診療や学校の保護者会などに同行を望む場合、無料で派遣している。

 

 情報保障では、生活のあらゆる場面で障害のない人と同等レベルを提供する。視覚障害者には点字や音声など、知的障害者らには絵カードや文字盤など障害に応じた手段で円滑なコミュニケーションを保障する。

 

 条例成立を受け、市はパンフレットを作製、2016年4月以降配布し周知する。通常版に加え、平易な言葉版も作る。障がい福祉課は「漢字にかなをふったり、行間を広げて見やすくしたり、分かりやすいパンフレット作りに努める」と話す

 

手話と情報コミュニケーション(手話と情報保障をセットに)保障する条例のタイプを制定した市は全国でこれまで、兵庫県明石市の、手話言語を確立するとともに要約筆記・点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段を促進する条例だけで、習志野市が全国で2番目となる。

 

 障害者や市民ら20人でつくる条例策定協議会が条例試案をまとめ、10月21日に宮本泰介市長に報告しており、その際に会長を務めた全日本ろうあ連盟の久松三二(みつじ)事務局長(60)は「社会全体のコミュニケーションを見つめ直すきっかけになればと期待している」と語っていた。

 

条例策定協議会から提出された条例案は、「前文」と9条からなる条文とで構成されている。

 「前文」では、障がい者に対する情報保障とコミュニケーション保障、及び手話を自由に使える環境整備の必要性が謳われており、すべての市民が支えあいながら生きる共生社会の実現を図ろうとする本市の決意宣言ともいえるものになっている。

 第1条から第3条は、条例の目的、基本理念など。

 第4条は連携及び協働を旨として施策を進めること、第5条から第7条には市、市民、市民活動団体及び事業者の責務が挙げられている。

 そして、第8条、第9条には、情報保障とコミュニケーション保障、及び手話の普及にかかる施策の方向性が示されている。

 

なお、手話を言語と認め、手話の普及を進める条例は全国で31の県市町が定めている(2015年12月22日現在)。

 

 

習志野市(ならしのし)=千葉県北西部に位置し、東京湾に面する市。下総(しもうさ)台地の端であり、人口は167,196人(15年7月8日現在)。ラムサール条約登録地谷津干潟があり、干潟を必要とする渡り鳥の重要な中継飛来地となっている。

 

 

概要

 

条例

 

背景

 

条例の必要性

 

 

概要

 

目的(第1条)

個々の障がい者に合った手段で情報保障及びコミュニケーションの保障並びに手話の普及及び理解の促進を図ることにより、障がいのある人もない人も、全ての市民が、互いに人格と個性を尊重し、支え合いながら生きる共生社会を実現する。

 

基本理念(第3条)

1、障がい者の基本的人権の尊重又は擁護に当たり、障がい者の情報保障及びコミュニケーションの重要性を認めること。

2、手話が言語であるという認識を広め、ろう者が手話を利用する機会を保障すること。

3、障がいのある者もない者も互いに人格と個性を尊重し、協働すること。

 

市の責務(第5条)

必要な施策を総合的かつ計画的に実施する。

合理的配慮を行うものとする。

 

市民の責務(第6条)

障がい者の情報保障及びコミュニケーションの保障における障壁を理解する。

手話が言語であることを理解する。

合理的配慮を行うよう努める。

 

市民活動団体及び事業者の責務(第7条)

他者が行う第1条の目的を達成するために必要な活動に協力するように努める。

市が実施する施策に協力するよう努める。

合理的配慮を行うよう努める。

 

障がい者個々に合った情報保障やコミュニケーション保障を進めるための施策(第8条)

1、障がい者が利用又は選択する手話、点字等の伝達手段の普及及びコミュニケーションの円滑化を図ること

2、障がい者のコミュニケーションを支援する人材等の養成をすること。

3、障がい者が、教育、療育、職業選択、文化芸術活動、スポーツ活動その他社会生活のあらゆる場面で、障がいのない市民と等しく情報保障され、コミュニケーションを図ることができる環境を整備すること。

4、災害時における緊急情報を、障がい者の特性に応じて伝達すること。

5、情報通信や放送による情報の取得や利用を促進すること。

 

手話の普及及び理解の促進を図る施策(第9条)

1、市民に手話を学ぶ機会を提供すること。

2、ろう者が手話を学び、使用する機会を確保する。

3、ろう者が手話により講座等を受講できる環境の整備を行うこと。

 

 

習志野市手話、点字等の利用をすすめて、障がいのある人もない人も絆を深め、互いに心をかよわせるまちづくり条例(案)

 

前文

私たちが目指すのは、障がいのある人もない人も、誰もが当たり前に心や気持ちを通わせ、理解し合える住みやすい社会である。人と人とが心や気持ちを通わせるには、共通の言語を基盤とした充分な情報の取得やコミュニケーションをするための手段が必要であるが、障がい等により、音声や文字をそのままでは受け取りにくい人たちもいる。

障がい者は、生活の様々な場面において、必要な情報へのアクセス及びコミュニケーションの困難さを経験している。情報とコミュニケーションは生活の基礎として重要であるため、手話、点字、代読、絵カード、文字盤、ひつ談等障がい者が容易に利用できる情報と意思の伝達手段や人との関わりを通じた伝達手段を使用することが不可欠であり、情報保障とコミュニケーションの保障のための施策が必要である。

また、手話は言語であり、ろう者にとっては物事を考え、互いの感情を伝え合い、知識を蓄え、文化を創造するものである。ろう者は、手話を大切に育んできたが、全国的に手話を使用する環境が整えられてこなかったことから、多くの不便や不安を抱えながら生活してきた。ろう者が安心した生活を送るためには、手話をいつでも自由に使用できる環境の整備が必要である。

このような認識に基づき、障がい者の手話、点字等の伝達手段による情報保障とコミュニケーションの保障をするとともに、言語として手話を自由に使用できる環境の整備を図ることにより、全ての市民が、互いに人格と個性を尊重し、支え合いながら生きる共生社会を実現するため、この条例を制定する。

 

第1条(目的)

この条例は、手話、点字等の伝達手段による情報保障及びコミュニケーションの保障並びに手話の普及及び理解の促進を図ることにより、障がいのある人もない人も、全ての市民が、互いに人格と個性を尊重し、支え合いながら生きる共生社会を実現することを目的とする。

 

第2条(定義)

この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1) 障がい 障害者基本法(昭和45年法律第84号)第2条第1号の障害及び同条第2号に規定する社会的障壁(以下「社会的障壁」という。)により継続的に日常生活又は社会生活において相当な制限を受ける状態をいう。

(2) 障がい者 障害者基本法第2条第1号の障害者をいう。

(3) 手話、点字等の伝達手段 手話、点字、代読、絵カード、文字盤、ひつ談その他の障がい者が容易に利用できる情報及び意思の伝達手段をいう。

(4) ろう者 耳が聞こえない者のうち、手話により日常生活を送る者をいう。

(5) 市民活動団体 特定非営利活動法人その他の市民等で構成される営利を目的としない団体で、主に市内において活動を行うものをいう。

(6) 事業者 市内に事業所又は事務所を有し事業を行う法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。)又は個人をいう。

(7) 情報保障 情報の取得及び利用の機会を保障し、自己実現の価値を認めることをいう。

(8) コミュニケーション 相互に意思を伝え合い、理解し合い、意味を分かち合い、信頼関係及びつながりを築くことをいう。

(9) 合理的配慮 社会的障壁の除去の実施が必要とされている場合で、実施に伴う負担が過重でないときに行われる適切な調整及び変更をいう。

 

第3条(基本理念)

 第1条に規定する共生社会の実現は、次に掲げる事項を基本理念として推進するものとする。

1 障がい者の基本的人権の尊重又は擁護に当たり、手話、点字等の伝達手段による情報保障及びコミュニケーションの重要性を認めること。

2 手話が言語であるという認識を広め、ろう者が手話を利用する機会を保障すること。

3 障がいのある人もない人も、互いに人格と個性を尊重し、協働すること。

 

第4条(連携及び協働)

 市、市民、市民活動団体及び事業者は、次条から第7条までに規定する責務を踏まえ、相互に連携及び協働を図り、障がい者の手話、点字等の伝達手段による情報保障及びコミュニケーションの保障並びに手話の普及及び理解の促進のための社会環境の整備に関する施策又は活動を実施するよう努めるものとする。

2 市は、障がい者の手話、点字等の伝達手段による情報保障及びコミュニケーションの保障並びに手話の普及及び理解の促進を図るため、国、他の地方公共団体等との連携及び協働に努めるものとする。

 

第5条(市の責務)

 市は、市が策定する長期計画その他各種計画との整合性を図りながら、第1条の目的を達成するために必要な施策を総合的かつ計画的に実施するものとする。

2 市は、障がい者の手話、点字等の伝達手段による情報保障及びコミュニケーションの保障並びに手話の普及及び理解に関する合理的配慮を行うものとする。

 

第6条(市民の責務)

 市民は、障がい者の手話、点字等の伝達手段による情報保障及びコミュニケーションの重要性並びに手話が言語であることを理解し、障がい者の情報の取得及び利用並びにコミュニケーションにおける合理的配慮を行うよう努めるものとする。

 

第7条(市民活動団体及び事業者の責務)

 市民活動団体及び事業者は、障がい者の手話、点字等の伝達手段による情報保障及びコミュニケーションの保障並びに手話の普及及び理解の促進に関する合理的配慮を行うよう努めるものとする。

2 市民活動団体及び事業者は、たしゃが行う第1条の目的を達成するために必要な活動及び市が実施する施策に協力するよう努めるものとする。

 

第8条(障がい者の情報保障及びコミュニケーションの保障に関する施策)

 市は、第5条第1項の規定に基づき、障がい者の手話、点字等の伝達手段による情報保障及びコミュニケーションの保障を図るため、次に掲げる施策を実施するものとする。

(1) 障がい者が利用又は選択する手話、点字等の伝達手段によるコミュニケーションの円滑化を図ること。

(2) 障がい者のコミュニケーションを支援する人材等の養成をすること。

(3) 障がい者に対し教育、療育、職業選択、文化芸術活動、スポーツ活動その他社会生活のあらゆる場面で、障害のない者と等しく情報保障がなされ、障がい者がコミュニケーションを図ることができる環境を整備すること。

(4) 災害時における緊急情報を、障がい者の障害種別及び特性に応じ迅速かつ的確に伝達すること。

(5) 障がい者の情報通信並びに放送による情報の取得及び利用を促進すること。

(6) 前各号に掲げるもののほか、障がい者の手話、点字等の伝達手段による情報保障及びコミュニケーションの保障を図るために必要な施策

 

第9条(手話の普及及び理解の促進に関する施策)

 市は、第5条第1項の規定に基づき、手話の普及及び理解の促進を図るため、ろう者、手話通訳に携わる者及び関係者と協力して次に掲げる施策を実施するものとする。

(1) 市民に手話を学ぶ機会を提供することにより、手話を普及し、手話に対する理解を促進すること。

(2) ろう者が手話を学び、使用する機会の確保に努めること。

(3) ろう者が市の実施する講座等を手話により受講できる環境の整備を行うこと。

(4) 前3号に掲げるもののほか、手話の普及及び理解の促進を図るために必要な施策

 

附則

この条例は、平成28年4月1日から施行する。

 

 

条例の背景

 

条例制定の背景として条約や法で、次のような内容がうたわれています。

「障害者の権利に関する条約」(2006〈平成18〉年国連採択、2014〈平成26〉年2月発効)

条約では、「言語」とは音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう、と規定されている。また、障がい者が表現及び意見の自由が確保できるよう、情報及び考えを求め、受け及び伝えることができるようにするための措置を取るべきことが規定されている。

 

「障害者基本法」(2011〈平成23〉年8月改正)

基本法では、手話の言語性が明文化されるとともに、障がい者の情報取得の機会拡大が規定された。

 

「障害者総合支援法」(2013〈平成25〉年4月改正)

総合支援法では、手話通訳や要約筆記、触手話や指点字、代読や代筆、ボードによる意思の伝達などを新たに意思疎通支援という名称を用いて幅広く解釈できるようにした。

 

「障害者差別解消法」(2015〈平成28〉年4月施行)

差別解消法において、 第7条第2項行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、(中略)社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならないとある。

 

 

条例の必要性

「障害者の権利に関する条約」を受け改正された「障害者基本法」においては、全ての障がい者の、情報取得・利用及びコミュニケーションの手段を選択する機会が確保されることが規定されています。

また、「障害者基本法」により手話の言語性が明記されたことにより、全国的に言語としての手話の普及及び理解の促進を図る条例を制定する動きが出てきております。

一方で、東日本大震災の際、本市においても障がいのある方が、情報の取得・利用やコミュニケーションを図ることが困難であることから、避難時に的確な行動がとれないといった課題が明らかとなりました。また、台風などの災害時においても、駅などで交通機関の乱れの状況が把握できず、不安を抱えた経験を訴える方もいます。

こうした状況のなかで、情報の取得・利用やコミュニケーションが保障される環境整備を推進するとともに、手話の普及や理解の促進のための条例を制定し、障がいの有無に関わります。

 

条例の目的

障がい者等が多様な情報取得・利用及びコミュニケーションの手段を選択することができ情報の取得・利用や円滑なコミュニケーションが図れる等、地域生活において最低限必要となる情報及びコミュニケーションの保障を図り、手話の普及及び理解の促進を図り、もって誰もが互いに人格と個性を尊重し、支えながら生きる「共生社会」を築くことを目的とします。

 

条例の趣旨

障がいの有無に関わらず全ての市民が相互に尊重しながら地域で共生する社会を進めていくために、次の2つを趣旨としています。

1、身体障がい、知的障がい、精神障がい、発達障がい等、すべての障がい者が地域で不自由なく情報の取得・利用やコミュニケーションが図れるよう、それぞれの障がいを理解すると同時に、個々の障がいに合った情報、コミュニケーションの保障の推進に努める。

2、手話がろう者の日常的な言語であり、音声言語(日本語など)と対等な言語であることの理解促進に努め、手話が普及する環境の整備を図り、地域社会で手話を自由に使用できるように努める。

 

各計画との整合性

本市の以下の計画ともに支え合いながら安心して暮らせる地域社会を目指しています。

1、「習志野市地域福祉計画」(計画期間平成26年度から31年度)

社会的に弱い立場にある人の人権を守り、地域の一員として包み、支えあい、あらゆる人の存在価値を認める「ソーシャル・インクルージョン(社会的包容)」の取組みを地域住民とともに進め、誰もが安心して暮らせる「バリア」のない地域社会の構築を目指す。

2、「習志野市障がい者基本計画」(計画期間平成24年度から29年度)

互いの支えあいながら生きる「共生社会」を実現するために「誰もが互いに人格と個性を尊重し、支え合い、地域でありのままに暮らすことのできる社会」を基本目標として掲げている。

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