伝えたい、私のことば 手話パフォーマンス甲子園

 

 

 

                                                                              

 

 

優勝した石川県立田鶴浜高校。情感たっぷりに手話歌を披露した

 

手話を身近に感じてもらおうと、高校生が手話の表現力を歌やダンス、劇などで競う第1回手話パフォーマンス甲子園(朝日新聞厚生文化事業団、朝日新聞社など後援)が23日、県や市町村に手話の普及などを義務づける「手話言語条例」を制定した鳥取県の鳥取市の県民ふれあい会館で開かれた。

 

41チームの応募があり、予選を勝ち抜いた全国の13の都道府県から20チーム(予選通過15、特別枠5)、約200人が出場し、各チームはソーラン節を手話で表現したり、バンド演奏と組み合わせたり工夫を凝らしたダンスや演劇などを披露しながら、手話の正確さや表現力の豊かさを競った(全演目)。

 

手話の内容をステージの後ろに電光掲示板で表示し、ろう学校の生徒は手話中心で、その他の生徒は声を出したりしながら手話を披露、会場は歓声や笑いに包まれ、拍手を表現する手話の身ぶりが何度も見られるなど大いに盛り上がった。

 

審査は石野富志三郎全日本ろうあ連盟理事長や女優・貴田みどりさん(生後5か月時の大手術の後遺症で難聴に。18歳のときに聴力を全く失う)らろう者3人が「手話の正確性と分かりやすさ」「創造性と表現力」などを、中永広樹鳥取県文化振興財団理事長ら聴者3人が「総合的表現力」などを審査し、300点満点で採点した。

 

石野富志三郎氏

貴田みどりさん

 

審査の結果(採点結果)、最後(20番目)に登場。健康福祉科で介護福祉士を目指して実習や学校行事に励み、前向きに取り組んでいく気持ちを手話劇と手話歌で表現した石川県立田鶴浜高校3年生5人が優勝(290点)し、初めての「手話パフォーマンス日本一」(初代王座)になり、優勝旗と鳥取砂丘の砂を固めたメダルが贈られた。

 

同高3年の尾崎舞唯さんは「忠実な手話表現を目指した。きょう、手話はたくさんの人と交流できる素晴らしいものだとあらためて思った」と喜んだ。同高校は、入学後に手話歌を学んだことや学校行事を振り返る手話劇と手話歌をぎりぎりまで手直しして完成させたという。

 

準優勝は、昭和のはじめ、ほとんどの聾学校では手話が禁じられていたことや、その後、自由に手話が使えるようになったときの喜びを演劇と歌で披露した鳥取県立鳥取聾(ろう)学校の5人の生徒によるオリジナル演劇「AKASHI−証−」(283点)。手話歌で「手話は指で奏でる命の言葉」と歌い、手話が言語として認められる社会の幸せをメッセージに込めると、多くの観客が涙をにじませた。

 

ろう教育の在り方を問うストーリーをそれぞれが役になりきって表現した高等部2年の細田彩斗君(17)は、「手話を使えない苦しみ、怒りを、大きな手話の動きや表情で表現した。当初はどうすればいいか分からず、顔がこわばってしまった」というが、「歴史を学び、昔の人の苦しみを自分の苦しみと思えるようになった」と振り返り、「最初悔しさの表現が難しかったけど、きょうは堂々と演じられた」と満足そうだった。

 

鳥取聾学校は審査員の採点では1位だったが、時間オーバーの減点で2位に。清水颯介君(15)は「悔しさはあるけど、ここまでできたのは周りの人の力があったから。次の高い所を目指していきたい」としっかり前を向いた。

 

 

鳥取県立鳥取聾学校

 

3位は三重高・県立相可(おうか)高・県立松阪工高(松阪市は東海地区で初めて手話条例を制定)の合同チーム(280点)。リーダーの2年松葉実紗さん(17)は「他チームの演技はどれも個性的で刺激になった。手話をもっと練習し、上手になりたい」と気持ちを新たに。

 

 

三重・県立相可・県立松阪工の合同チーム

 

審査員特別賞は奈良県立ろう学校に贈られた(4位以降のチーム名は非公表)。

 

奈良県立ろう学校

 

秋篠宮紀子さまと次女の佳子さまも23日午前10時ごろ会場となっている鳥取市のホールに到着し、出迎えた主催者に手話で「おはようございます」とあいさつ。紀子さまは「大学時代に手話による演劇を鑑賞したことをきっかけに手話を学び、聴覚に障害がある人たちの暮らしや文化にも理解を深めたというエピソードを紹介されたうえで、「この大会を通して、大切なコミュニケーション手段の一つである手話に対する理解が一層深まることを願います」と手話であいさつした。

 

佳子さまは、隣に座った来賓の男性から「ダンスが好きですか?」と手話で尋ねられ、「私はダンスが好きで練習を時々しています」と佳子さまも手話を使って答えられた。

 

紀子さまと佳子さまは、22日ダイキンアレス青谷(同市青谷町)で開かれた交流会にも出席し、同甲子園に出場する高校生や平井伸治知事らと歓談した。

 

左;手話甲子園に出場する高校生に手話で話し掛ける秋篠宮紀子さま(中央右)と佳子さま(同左)=22日

右;手話であいさつをする秋篠宮妃紀子さま=23日

 

 2013年12月に市町村で初めて同様の耳の聞こえない人にも暮らしやすい環境づくり目指す条例を制定した北海道石狩市道立石狩翔陽高の生徒たちは、衣装も手話が見やすいようにと黒に替えて、手話に関する法制度がもっと広がりますようにとの願いを込めたオリジナルの替え歌「ソーラン節 手話言語法応援歌」を披露、途中からは、観客席の人たちも手話を使って一緒に演じ、拍手喝さいを浴びた。

 

「条例来たかと ろう者に聞けば ここは鳥取 皆に聞けよ 都道府県ジャ 一番乗りよ」

「日本 全国 ろう者のために 目指せ 定まれ 手話言語法」

「ヤサエー エンヤーサーノ ドッコイショ」

 

 

 

 

道立石狩翔陽高

 

パフォーマンスを見た会場の男性のろう者は、「ソーラン節をとても体いっぱい全身を使って表現していた。元気いっぱいそんな気持ちがよくわかり、動きがはきはきしていて力強さが伝わってきました」と語り、別の男性は、「ろう者と通じたいという思いがすごくよく表れていたと思います。それがはっきりした手話や動きのも現れていたので、私のほうも思いをつかむことができました」と話した。

 

県立名古屋聾(ろう)学校も振動やアイコンタクトでリズムを取りながらオリジナル曲をバンド演奏するなどの努力の成果を発揮した。

 

また、手話への理解を深めようという条例を制定した北海道新得町新得高校の2年生14人も、勇気をテーマにした「あとひとつ」という曲を、手話で歌詞を表現しながら披露した。

 

九州で初の「嬉野市心の架け橋手話言語条例」を施行した嬉野市からはU(嬉野) K(高校)B(ばい)16(嬉野高等学校介護福祉科16名)が佐賀県聴覚障害者サポートセンターの手話通訳士や聴覚障害者協会の指導の下、チャレンジした。

 

鳥取県内からは鳥聾(ろう)学校のほか、倉吉北高校、境港総合技術高校の3チームが出場。倉吉北高3年の秋草柚南(ゆうな)さん(17)が「この大会が、手話に親しみを持ってもらう一歩となるよう、精いっぱいパフォーマンスし、記憶に残る甲子園にすることを誓います」と選手宣誓した。

 

会場で観覧した女性は3年前から手話を勉強中といい、「高校生の表情豊かで気持ちのこもった手話表現に感動した。次はもっと大きな会場で、一般の人にも見てほしい」と話した。

 

難聴で、父と一緒に観覧に訪れた島根県立隠岐島前高2年生は「みんなの一生懸命な演技に感動し、笑ったり、泣いたりした。自分も手話の魅力をもっと多くの人に伝えていくために頑張っていきたい」と話した。

 

観覧した聴覚障害のある島根県海士町の高校生は笑顔で「聞こえない人と聞こえる人に壁はないと感じた」と語った。

 

会場に入れなかった人のために近くの県民会館ではパブリックビューイング(大型の映像装置を利用して観戦を行うイベント)を実施。鳥取市の主婦女性は「手話だけの演技では、耳の聞こえない人と逆の立場に身を置くような不思議な感覚を味わえた」と熱演を楽しんでいた。

 

 フィナーレでは、The National Theatre of the Deaf(アメリカ;聴覚障害者の国立劇場)によるゲストパフォーマー演技が行われた

      

なお司会は、教育者・映像作家・『NHKみんなの手話』講師の早瀬憲太郎(はやせ けんたろう)氏が務めた。

 

早瀬憲太郎氏

 

 

 

 

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