「神奈川県手話言語条例」が成立(2014年12月25日) |
「県手話推進計画」 / リーフレット「手話を楽しく学ぼう!」
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手話を「独自の言語体系を有する文化的所産」などとした「神奈川県手話言語条例」が2014年12月25日に全会一致で可決・成立した。施行は2015年4月1日。
傍聴席には、条例の制定を求めていた県内の聴覚障害者や手話通訳者ら支援団体の関係者約110人が駆け付け、成立の瞬間を感慨深げに見守り、「条例制定を機に福祉だけの世界ではなく、幅広い県民や事業者の間に手話への理解が広がってほしい」と願った。
条例は、手話は意思疎通に欠かせない言語であるとの認識に立ち、聴覚障害者が手話を使って生きやすい環境づくりを進めるのが目的。
前文で「いまだに手話に対する理解が浸透しているとは言えない」とし、制定目的は「手話を普及するための施策を総合的かつ計画的に推進し、全ての県民が互いを理解し合える地域社会を構築する」とした。
県には手話の普及を推進する責務があるとし、市町村と連携・協力にも努めることと明記。また県は手話の普及に関する施策を総合的に進めるための「手話推進計画」を策定し、実施しなければならないとしている。
事業者には、聴覚障害者を雇用する際には手話の使用に配慮するよう努めることとした。県民にも普及に努めるよう求めた。
2015年度中に計画を策定し、2016年度予算から具体的な事業に反映される見通し。
提案者に対する質疑で、2013年10月に条例を施行した鳥取県では、全国手話検定試験の受験者が2013年度の67人から約130人に倍増し、手話通訳者の新規登録者が5人から8人、手話奉仕員は11人から20人に増加したことが紹介された。
手話は「言語」という認識を広め、普及するため、県議会の自民党、公明党、県政会の3会派が「県手話言語条例案」(仮称)を12月22日、定例会に議員提案していた。
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同様の手話言語条例は、2013年10月8日に鳥取県で全国で初めて成立。都道府県としては、神奈川県が全国で2例目、市町村を含めると10番目となった。
神奈川県聴覚障害者連盟が2014年5月、同様の条例制定を求め、54,655人分の署名とともに県議会に陳情していた。
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これを受け、7月に条例制定に向けたプロジェクトチームを発足させた自民党は、9月に公明党と県政会に協力を呼びかけ、3会派で条例検討会議(座長・古沢時衛県議)を開催するなど、準備を進め、素案を作成、県民からの意見も募ってきた。
同検討会議は、改正障害者基本法では「言語には手話が含まれる」と明記されたものの、県内で手話に対する理解が浸透しているとはいえないとの認識で、条例制定が必要と判断。聴覚障害者に対する県施策も保健福祉部門にとどまっているとし、職場や教育現場なども視野に入れた全庁的な手話普及の取り組みを求めた。
自民党県議団の杉山信雄団長は「手話は言語そのもの。障害者を含めたみんなが、生きがいを持って生活できる社会づくりを目指したい」語っている。
神奈川県聴覚障害者連盟の河原雅浩理事長は「手話で自由にコミュニケーションが取れる社会の土台ができた」「まだ成立したという実感は湧いていませんが、とてもうれしいです。この条例はゴールではなく、新たなスタートだと肝に銘じ、県民の間に手話に対する理解が広がっていくように、われわれも精いっぱい活動していきたい」と手話を使って話し、さらに「他県にも条例が広がり、国が手話言語法を制定する流れにも結びついてほしい。最終的には日本全国どこでも県条例の条件で生活できるようになっていくことを望みます」と条例制定の波及効果にも期待した。
神奈川県は、「手話の普及推進を通じて、ろう者とろう者以外の者がお互いを尊重し合う共生社会の実現」との条例の目的を達成するため、「神奈川県手話推進計画」の素案を策定し、広く県民のから意見を伺うため、パブリックコメントにより2015年12月24日(木曜日)から2016年1月25日(月曜日)まで意見の募集を行った。
2014(平成26)年12月25日、神奈川県では、手話に対する理解を推進するために「神奈川県手話言語条例(以下、「条例」)」が成立、2015(平成27)年4月に施行しました。 条例では、「手話は言語であるという認識に基づき、県は、手話の普及等を推進する責務を有するとともに、手話の普及等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、手話の普及等に関する計画(以下、「手話推進計画」という。)を策定して実施する」と規定しています。 この手話推進計画を策定して実施することにより、手話が、独自の言語体系を有する文化的所産であって、ろう者が知的で心豊かな日常生活や社会生活を営むために大切に受け継いできたものであること、ろう者とろう者以外の者が、相互にその人格と個性を尊重し合いながら共生することのできる地域社会実現のために、意思疎通及び情報の取得又は利用の手段として必要な言語であることについて、広く県民からの理解をいただきながら普及等を推進することにより「手話を通じてお互いを尊重する共生社会の実現」を目指します。 |
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神奈川県手話言語条例が2014年12月25日の神奈川県議会において可決・成立しました。条例の制定理由及び内容は、次のとおりです。
1 条例制定の理由 我が国では、手話が言語であることを障害者基本法において明にしたものの、いまだ手話に対する理解が浸透しているとは言えない状況にあることから、手話に対する県民の理解を深め、これを広く普及していく必要がある。 そこで、ろう者とろう者以外の者が、互いの人権を尊重して意思疎通を行いながら共生することのできる地域社会を実現するため、条例において、手話の普及等に関する基本理念を定め、県の責務や県民、事業者の役割を明らかにするとともに、手話等の普及に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図ろうとするものである。
2 条例の概要 (1)目的 この条例は、手話がろう者の意思疎通及び情報の取得又は利用のための手段としての言語であるとの認識に基づき、手話の普及等(※)に関し基本理念を定め、県の責務や県民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話の普及等に関する施策の総合的かつ計画的な推進に必要な基本的事項を定め、もってろう者とろう者以外の者が共生することのできる地域社会を実現することを目的とする。
※「手話の普及等」とは、手話の普及、手話に関する教育及び学習の振興、その他の手話を使用しやすい環境を整備することをいう。
(2)基本理念 手話の普及等は、ろう者とろう者以外の者が相互に、その人格と個性を尊重し合いながら共生することのできる地域社会の実現のために、意思疎通や情報の取得又は利用の手段として必要な言語であることを県民の理解の下に、推進されなければならない。
(3)県の責務等 ア 県は、社会的障壁の除去に関する必要かつ合理的な配慮を行い、手話を使用する者の協力を得て、手話の普及等を推進するものとする。 イ 県は、手話の普及等に関する施策の推進に当たっては、市町村と連携・協力に努めるものとする。
(4)県民、事業者の役割 ア 県民は、手話に対する理解を深めるよう努めるものとする。 イ 手話を使用する者は、県が実施する手話の普及等に関する施策に協力し、手話の普及に努めるものとする。 ウ 事業者は、ろう者に対しサービスを提供するとき、又はろう者を雇用するときは、手話の使用に関して配慮するよう努めるものとする。
(5)手話推進計画 ア 県は、手話の普及等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、手話推進計画を策定し、実施しなければならない。
イ 県は、手話推進計画の策定又は変更するときは、県民の意見を聴き、反映するように、必要な措置を講ずるものとする。
(6)財政上の措置 県は、手話の普及等に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
(7)施行期日 施行期日は、2015年4月1日とする。
手話は、手や指、体の動きなどを用いる独自の語彙(ごい)及び文法体系を有し、ろう者とろう者以外の者が、互いの人権を尊重して意思疎通を行うために必要な言語である。 我が国におけるその起源は明治時代とされ、これまで、ろう者の間で大切に受け継がれ、発展を遂げてきたが、過去には、口の形を読み取り、意思を発音し、又は発声する口話法による意思疎通が推し進められ、手話の使用が制約された時代もあった。 その後、平成18年12月の国際連合総会において、障害者の権利に関する条約が採択され、平成26年1月、我が国はこれを批准した。 この条約の採択により、手話が言語であることが世界的に認められ、ろう者による歴史的、文化的所産である手話に対する理解の促進が期待されている。 そうした中、我が国では、手話が言語であることを障害者基本法において明らかにしたものの、いまだ手話に対する理解が浸透しているとは言えないことから、手話に対する県民の理解を深め、これを広く普及していく必要がある。 こうした認識の下、手話を普及するための施策を総合的かつ計画的に推進し、全ての県民が互いを理解し合える地域社会を構築するため、この条例を制定する。
(目的) 第1条 この条例は、手話がろう者の意思疎通及び情報の取得又は利用のための手段としての言語であり、手話を選択する機会が可能な限り確保されなければならないものであることに鑑み、手話の普及等に関する基本理念を定め、県の責務並びに県民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話の普及等に関する施策を推進するための基本的事項を定め、もってろう者とろう者以外の者が相互にその人格と個性を尊重し合いながら共生することのできる地域社会を実現することを目的とする。
(定義) 第2条 この条例において「ろう者」とは、手話を言語として日常生活又は社会生活を営む者をいう。 2 この条例において「手話の普及等」とは、手話の普及並びに手話に関する教育及び学習の振興その他の手話を使用しやすい環境の整備をいう。
(基本理念) 第3条 手話の普及等は、手話が、独自の言語体系を有する文化的所産であって、ろう者が知的で心豊かな日常生活又は社会生活を営むために大切に受け継いできたものであり、ろう者とろう者以外の者が相互にその人格と個性を尊重し合いながら共生することのできる地域社会の実現のための意思疎通及び情報の取得又は利用の手段として必要な言語であることについての県民の理解の下に、推進されなければならない。
(県の責務) 第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、社会的障壁の除去に関する必要かつ合理的な配慮を行うとともに、手話を使用する者の協力を得て、手話の普及等を推進する責務を有する。
(市町村との連携及び協力) 第5条 県は、手話の普及等に関する施策の推進に当たっては、市町村と連携し、及び協力するよう努めるものとする。
(県民の役割) 第6条 県民は、基本理念にのっとり、手話に対する理解を深めるよう努めるものとする。 2 手話を使用する者は、基本理念にのっとり、県が実施する手話の普及等に関する施策に協力するとともに、手話の普及に努めるものとする。
(事業者の役割) 第7条 事業者は、基本理念にのっとり、ろう者に対しサービスを提供するとき、又はろう者を雇用するときは、手話の使用に関して配慮するよう努めるものとする。
(手話推進計画) 第8条 県は、基本理念にのっとり、手話の普及等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、手話の普及等に関する計画(以下「手話推進計画」という。)を策定し、これを実施しなければならない。 2 県は、手話推進計画の策定又は変更に当たっては、県民の意見を聴き、これを反映することができるよう、必要な措置を講ずるものとする。
(財政上の措置) 第9条 県は、手話の普及等に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
附 則 1 この条例は、平成27年4月1日から施行する。 2 知事は、この条例の施行の日から起算して5年を経過するごとに、この条例の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。 |
神奈川県知事定例記者会見(2015年1月6日) |
(手話言語条例について)
記者: 年末、県議会で、手話言語条例が可決成立しましたけれども、手話を今後普及させる取組みを検討していくと思うのですが、今のところの普及に向けてのお考えというか、どういう取組みをしていきたいとお考えでしょうか。
知事: 手話言語条例については議会でも私自身にも質問をされましたけれども、そのときには熟度が足りないのかなと思っていました。やはり、より多くの方がそれに対して理解を深めるということが必要なのかなという中で、最終的には議員提案といった形で議会の皆さんがしっかりと検討を重ねられて、より多くの人たちを巻き込みながら条例を作ってこられたということは、これは非常に素晴らしいことだなというふうに思います。
ですから、これからも県としては、しっかりと受け止めながらどういった形で具体化していくのかといったこと、具体の検討はこれからだと思います。
記者: 手話を広めるといったことに対して知事は何かお考えがとかはありますでしょうか。
知事: 私も、例えば県民との対話の広場等々、県民と向き合うときには手話の方に参加していただいております。それから私自身が障害を持っていらっしゃる方のところに行ったときには、冒頭の挨拶だけですけれども、手話を自分自身で使ったりしています。そういうことがこれからだんだん増えてくるのではないかなと思っています。
手話は、手や指、体の動きなどを用いる独自の語彙及び文法体系を有し、ろう者とろう者以外の者が、互いの人権を尊重して意思疎通を行うために必要な言語である。 我が国におけるその起源は、明治時代とされ、これまで、ろう者の間で大切に受け継がれ、発展を遂げてきたが、過去には、口の形を読み取り、意思を発音し、又は発声する口話法による意思疎通が推し進められ、手話の使用が制約された時代もあった。 その後、平成18年12月の国際連合総会において、障害者の権利に関する条約が採択され、平成26年1月、我が国はこれを批准した。 この条約の採択により、ろう者による歴史的、文化的所産である手話が言語であることが世界的に認められ、手話に対する理解の促進が期待されている。 そうした中、我が国では、手話が言語であることを障害者基本法において明らかにしたものの、いまだ手話に対する理解が浸透しているとは言えないことから、手話に対する県民の理解を深め、これを広く普及していく必要がある。 こうした認識の下、手話を普及するための施策を総合的かつ計画的に推進し、全ての県民が互いを理解し合える地域社会を構築するため、この条例を制定する。
(目的) 第1条 この条例は、手話がろう者の意思疎通及び情報の取得又は利用のための手段としての言語であり、手話を選択する機会が可能な限り確保されなければならないものであることに鑑み、手話の普及に関する基本理念を定め、県の責務、県民及び事業者の役割を明らかにするとともに、手話の普及等に関する施策を推進するための基本的事項を定め、もってろう者とろう者以外の者が相互にその人格と個性を尊重し合いながら共生することのできる地域社会を実現することを目的とする。
(定義) 第2条 この条例において「ろう者」とは、手話を言語として日常生活又は社会生活を営む者をいう。 2 この条例において「手話の普及等」とは、手話の普及並びに手話に関する教育及び学習の振興その他の手話を使用しやすい環境の整備をいう。
(基本理念) 第3条 手話の普及は、手話が、独自の言語体系を有する文化的所産であって、ろう者が知的で心豊かな日常生活又は社会生活を営むために大切に受け継いできたものであり、ろう者とろう者以外の者が相互にその人格と個性を尊重し合いながら共生することのできる地域社会の実現のための意思疎通及び情報の取得又は利用の手段として必要な言語であることについての県民の理解の下に、推進されなければならない。
(県の責務) 第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、社会的障壁の除去に関する必要かつ合理的な配慮を行うとともに、手話を使用する者の協力を得て、手話の普及等を推進する責務を有する。
(市町村との連携及び協力) 第5条 県は、手話の普及等に関する施策の推進に当たっては、市町村と連携し、及び協力するよう努めるものとする。
(県民の役割) 第6条 県民は、基本理念にのっとり、手話に対する理解を深めるよう努めるものとする。 2 手話を使用する者は、基本理念にのっとり、県が実施する手話の普及等に関する施策に協力するとともに、手話の普及に努めるものとする。
(事業者の役割) 第7条 事業者は、基本理念にのっとり、ろう者に対しサービスを提供するとき、又はろう者を雇用するときは、手話の使用に関して配慮するよう努めるものとする。
(手話推進計画) 第8条 県は、基本理念にのっとり、手話の普及等に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、手話の普及等に関する計画(以下「手話推進計画」という。)を策定し、これを実施しなければならない。 2 県は、手話推進計画の策定又は変更に当たっては、県民の意見を聴き、これを反映することができるよう、必要な措置を講ずるものとする。
(財政上の措置) 第9条 県は、手話の普及等に関する施策を推進するために必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
附 則 1 この条例は、平成27年4月1日から施行する。 2 知事は、この条例の施行の日から起算して5年を経過するごとに、この条例の施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。 |
同時に、手話言語法(仮称)制定を求める意見書も採択された。
手話は、ろう者にとって、聞こえる人たちの音声言語と同様に、情報獲得とコミュニケーションの大切な手段である。 平成18年12月に国連で採択され、我が国も本年1月に批准した障害者の権利に関する条約においても、「手話は言語」であることが明記されている。また、平成23年8月に成立した改正障害者基本法では、「すべて障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保される」と定められるとともに、国及び地方公共団体に対して情報保障施策が義務付けられている。 こうした理念や制度をより実効性のあるものにするためには、手話が音声言語と対等な言語であることを広く国民が理解し、聞こえない子どもが手話を身に付け、手話で学べ、自由に手話が使える環境を整え、手話を言語として広く普及し、研究することができるよう法整備を図ることが必要である。 よって国会及び政府は、手話による豊かな文化を享受できる社会の実現のため、「手話言語法(仮称)」を早期に制定されるよう強く要望する。 以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
平成26年12月25日
衆議院議長 参議院議長 内閣総理大臣 総務大臣 }殿 文部科学大臣 厚生労働大臣 |
手話への理解深め共生社会の実現へ 神奈川県が冊子配布(2016年9月26日配信『教育新聞』)
神奈川県教委は、県内の公立小・中・高校生に向けたリーフレット「手話を楽しく学ぼう!」を作成。このほど全小学校4年生、全中学校1年生、全県立高校生徒に配布した。手話による簡単な自己紹介やあいさつなどを分かりやすく図解した内容。各学校の実践に応じた自由な活用を願い、児童生徒の障害者理解や共生社会に向けた意識を育む。
冊子は、3ページ構成。手話の基礎的なコミュニケーションを豊富なイラストを使って解説。「知っておくと便利」な手話では、指文字50音の示し方、「私の名前は〜です」という自己紹介、「危ないです。一緒に逃げましょう」の緊急メッセージに使う手話方法を挙げている。
「手話であいさつ」の項目では、▽こんにちは▽こんばんは▽よろしくお願いします――などの基本的な表現を説明。「おはよう」は、右手のこぶしを枕に見立て、頭から枕を外すように下ろす動作を示す。「話しかけてみよう」では、▽どうしましたか▽何かお手伝いしましょうか▽大丈夫ですか――といった日常生活で基本となるやりとりを図解する。一方で、手話は、動作と表情を上手に使って表現するのが大切とも指摘する。
同教委では、冊子の活用を通じて、単に「手話スキル」の習得を目指すのではなく、障害者の立場や手話言語文化の理解につながればと願っている。各学校の道徳や特別活動などで自由に利用してもらい、子どもたちに多言語共生社会の一員として広い視野を養ってほしいと期待する。
同県では、手話普及によって、さまざまな県民が相互理解を深め、支え合う社会の実現を目指す。そのため、昨年4月に「県手話言語条例」を施行。今年度から5年間で「県手話推進計画」を策定した。同計画では、県全体で、手話の▽普及▽教育や学習の振興▽使用しやすい環境整備――をうたっている。
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当事者置き去り 異議噴出 県の「手話推進」計画素案に意見2・4万件(2016年3月21日配信『神奈川新聞』) |
手話の普及に向け、神奈川県が進める施策の方向性を示す「県手話推進計画」の素案に対するパブリックコメント(意見募集)に、過去最多となる2万4千件超の意見が寄せられた。生活上の不自由を訴える聴覚障害者らから切実な意見が殺到した形だが、肝心の手話で意見を提出する機会が限られていたため、手法に異議が噴出。計画について話し合う「手話言語普及推進協議会」を追加で開催する異例の展開になっている。
■切実な訴え
手話推進計画は、県手話言語条例で策定が義務づけられている。条例は「手話は言語」との認識に立ち、2014年12月に県議会へ議員提案されて成立。昨年4月に施行された。県は昨年12月に計画の素案を取りまとめ、12月24日から1カ月間にわたりパブコメを実施していた。
3月の県議会で報告された結果によると、意見の総件数は2万4767件(6757人、21団体)。これまでの県のパブコメで過去最多だった県動物愛護管理推進計画素案の4398件を大きく上回った。
集まった意見には手話を使う機会や手話通訳の充実を求めるものが多い。「病院に手話通訳者を配置してほしい」「災害や電車の事故など緊急時の情報がすぐに入ってこない」−。切実な声が寄せられている。
■動画記録も
総件数には数えられていないが、DVDなどの記録媒体で提出された意見も75件(47人)あった。ろう者らが手話による意見を動画で記録したもの。この扱いをめぐって2月の協議会が紛糾した。
県が決めた意見の提出は、日本語による文章をメールやファクス、郵送で伝える手法が主体。手話通訳を通じてろう者と盲ろう者が意見を伝える会場の設置は計2日間に限られていた。県聴覚障害者連盟は、期間中にいつでも手話によって意見が出せるよう要望したが、受け入れ態勢の不備や時間的な制約を理由に県が踏み切れなかった経緯がある。
協議会では動画の内容の詳細は報告されず、委員の有識者やろう者から「行政上の手続きをただ踏めばよいとなれば、当事者が置き去りになる」といった批判が相次いだ。
折しも障害を理由とするサービスの拒否や制限を禁じる障害者差別解消法が4月に施行され、社会的障壁を取り除く「合理的配慮」が国や自治体に義務づけられるが、今回のケースは現実とのギャップに早くも直面した形だ。
■特性理解を
手話を言語として日常的に使うろう者の立場で委員を務める同連盟の河原雅浩さん(55)は「『手話でなくても日本語の文章で伝えられる』という認識は、多くの健聴者が持っている誤解」と強調する。
手話には独自の語彙(ごい)や文法体系があり、単に日本語を手や表情で変換したものではない。だが、ろう学校で口話法教育が推進され、手話の使用が制約された歴史的経緯もあった。河原さんは、ろう者にとっては手話が自然な表現法である実情への理解を訴える。「幼少時から聞こえない人の場合、健聴の子どもと同様に日本語を聞いて覚えることは難しい。日本語は外国語」
委員の意見を踏まえ、県は動画で提出された意見を日本語に翻訳し、パブコメの意見と同等に扱う方針だ。計画は22日の追加協議会を経て4月に始まる見通しで、計画自体を手話で公表する準備も進めている。
協議会副会長の小川喜道・神奈川工科大教授は「手話言語の特性を理解していない聴者優先の感覚に陥っていたことが要因の一つ。ろう者への理解という前提があって初めて、県民が手話を知り学ぶことにつながる」と指摘している。
■手話推進計画案の主な内容
(1)手話の普及
・手話講習やシンポジウムの開催、記念日の創設
・県民向けリーフレットや動画作成
(2)手話に関する教育、学習の振興
・児童、生徒向けの学習教材の作成
・教員向けの手話研修
(3)手話を使用しやすい環境整備
・県職員対象の手話講習などの機会拡充
・災害時などに手話で意思疎通できる環境整備
・手話通訳者の計画的な養成、派遣機会の拡充
■県手話言語条例のポイント
・ろう者とろう者以外の人が共生できる地域社会の実現を目指す
・県は手話の普及などを推進する責務を持ち、計画を策定、実施しなければならない
・県民は手話に対する理解を深めるよう努める
・事業者はろう者へのサービス提供や雇用で、手話の使用に関して配慮するよう努める
手話言語条例 共生への大きな一歩(2014年10月29日配信『神奈川新聞』−「社説」) |
県議会の自民党、公明党、県政会の3会派が、手話に対する県民の理解を深め、普及させる「県手話言語条例(仮称)」を年内に議員提案する方針を決めた。都道府県では鳥取県に続き2例目となり、手話普及に向けた計画の策定と実施を県に義務付ける内容になる予定だ。
条例化を求める聴覚障害者団体の声を真(しん)摯(し)に受け止めたことをまず評価したい。耳の聞こえない人とそうでない人たちが互いの個性を尊重し合い、共生する地域社会の実現に向けた大きな一歩となるよう実効性あるものに仕上げてほしい。
ろう者は、十分な意思疎通ができないために地域や職場で孤立することが少なくない。県聴覚障害者連盟も、議会への陳情の中で「社会全体の手話に対する理解不足が大きな要因となっている」と訴えた。
手話は手の形や位置などに加え、表情をつけて表現される。ろう者の暮らしや歴史から生まれ、受け継がれてきた「言語」である。19〜20世紀の一時期は口の形を読み取る口話法が重視され、手話が排除された苦難の歴史もあった。それでも根付いてきたのはろう者にとって最も自然で自由に会話できる言語だからだとされる。手話がろう者のアイデンティティーと結びついていることを理解することが大切なのだろう。
2006年の国連総会で採択された障害者権利条約、11年の改正障害者基本法は、手話を言語と位置付けた。だが、普及を進める法整備は進んでいない。3会派は「手話を日常的に使用できる環境をつくる責務」が県にあるとし、福祉分野にとどまらない施策を促そうとしている。
条例が施行された場合、手話通訳者の増員が想定される。県内の登録手話通訳者は今年3月末現在で395人。県は養成講座を開き、毎年数人の登録者を増やしているが、社会参加をさらに後押しするには養成枠の拡大などの対応が求められる。
鳥取県では県民から公募した「手話普及支援員」を企業や学校に派遣し手話学習会を支援したり、初心者向けの手話学習会には講師の謝金などの経費を補助したりしている。
周りの健常者が手話であいさつするだけでも、筆談などのコミュニケーションが生まれるきっかけが増えるはずだ。また、手話を学ぶこと自体が、聴覚障害以外の他の障害も含め、共生の心を育む契機にもしていけるのではないか。
市議会で手話サークル発足 聴覚障害者への理解図り(2015年11月5日配信『神奈川タウンニュース』) |
神奈川県相模原市議会議員有志による「手話サークル」がこのたび発足した。10月27日には、市議会会議室で第1回の勉強会が行われた。
昨年12月に県議会で手話の普及を推進する「手話言語条例」(今年4月施行)が制定されたことなどを背景に、市政に携わる市議が率先して聴覚障害に対する理解を深めようというもの。福祉や子育てなど女性に身近な問題を、党・会派の境を越えて取り組んでいこうと、大沢洋子氏、寺田弘子氏、後田博美氏、長谷川くみ子氏、桜井はるな氏、竹腰早苗氏の女性議員6人が発起人となり立ち上げた。
会長を務める大沢氏は「少しでも手話ができれば、聴覚障害者への理解やコミュニケーションのきっかけになると思う」と期待を込める。
市議20人で勉強会
27日の勉強会には約20人の市議が参加。市手話指導講師団代表でろう者の木村古津恵(こずえ)さんと、同団事務局の福崎充子(ふくざきあつこ)さんを講師に招き、自分の名前や自己紹介の方法など、1時間ほど初歩的な手話の講義を受けた。福崎さんは、「手話や聴覚障害者に興味を持っていただき、大変うれしく、ありがたいと思った。勉強会にも大勢集まり、熱心に手を動かしてくれた。これをきっかけに、興味を深めてもらえれば」と話していた。
勉強会は今後、不定期で月1回程度行っていく予定。「復習を繰り返して少しずつ覚えていきたい。細く長く続けることができれば」と大沢氏は話している。
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