手話を言語として認識し、手話の普及を目指す議員提案の「沖縄県手話言語条例」が2016年3月28日、県議会本会議で全会一致で可決された。同条例の成立は都道府県では、2013年10月の鳥取県、2014年12月の神奈川県、2015年3月の群馬県、2016年3月14日の長野県、3月25日の埼玉県に次いで6例目。九州では初めて。九州の市町村レベルでは、佐賀県嬉野市で「嬉野市心の架け橋手話言語条例」が2014年6月20日に制定されている。全国では、45例目(条例全文)。 沖縄では条例の前文が指摘するように、米国で風しんが流行し、半年遅れに当たる1964(昭和39)年から翌年にかけて沖縄全域で風しんが流行し、339名の聴覚障害児が出生していた。 条例の施行は、4月1日。ただし、協議会の設置に関して、県行政組織規則の改正が必要なため、6月1日からの施行となる。 提出したのは、県議会の超党派の議員17人でつくる「手話言語条例検討委員会」(委員長・呉屋宏県議)。本会議で行われた条例の議案説明では、手話通訳者が議場から内容を通訳した。議場で手話通訳が行われるのは初めて。傍聴席には30人以上の聴覚障がい者や手話に関わる人が訪れ、可決されると、拍手を意味する手話で喜びを表した。 県聴覚障害者協会の野原龍信会長(53)は「私たちろう者にとって大きな前進の日」と条例可決を歓迎。比嘉豪理事(63)は「買い物でおすすめを聞こうにも、手話が通じないのでもどかしかった。きょうを境に1人でも多くの人に手話に親しんでほしい」と期待した。 糸洲朝則氏(公明県民無所属)による提案理由の説明の際には議場内で初めて手話通訳者の沖縄聴覚障害者情報センターの大嶺文子さん(48)が特例で配置され、聴覚障がいがある人々が傍聴席で採決を見守った(これまでも傍聴席で手話通訳を行うことはあったが、通訳者が議場内に入るのは初めて)。 条例は、「手話が確保されるべき意思疎通手段の一つとしての言語であることを認識し、ろう者とろう者以外の者が、相互に人格と個性を尊重」を基本理念とした。 そのうえで、県に対し(1)手話普及の施策を推進するための計画策定(2)計画策定に当たっては、当事者や有識者らでつくる「県手話施策推進協議会」を設置−などを責務とした。 努力義務として、県に市町村と連携して(1)手話を学ぶ機会の提供(2)手話通訳者の養成(3)手話の普及に関する施策の推進−を求めている。学校教育での普及への取り組みの支援も求めている。同様に、ろうの子が通う学校の設置者に対しては、子どもやその保護者が手話を学ぶ機会を提供し、教職員の手話の技術向上のための取り組み実施に努めるよう求めている。 また、聴覚障がいの当事者や学識者らでつくる県手話施策推進協議会の設置も明記している。 さらに毎月第3水曜を「手話推進の日」と定めた。「手話推進の日」を条例で定めたのは、全国で初。 なお、条例の検討過程では、手話に限らず障がいの状況に応じて要約筆記や点字、音訳などの利用促進も盛り込むよう求める意見が上がった。長女(24)に聴覚障がいがある県聴覚障害児を持つ親の会の真栄城守信会長(51)は「より多様な手段が普及するよう今後設置される手話施策推進協議会などで議論し、条例に肉付けしてほしい」と要望した。
2015年10月から「沖縄県手話言語条例」について調査・検討を行ってきた沖縄県議会(手話言語条例検討委員会)では、「沖縄県手話言語条例(素案)」を策定し、県民の皆様からの意見(パブリック・コメント)を2016年1月8日(金曜日)から2月8日(月曜日)まで募集。77件の意見が寄せられた。 当事者団体からは手話以外のコミュニケーション手段にも触れるべきだという意見が挙がっていたが、検討会は条例制定後に追加改正が可能なことから、まずは手話に限定した条例とすることとした。 県議会の手話言語条例検討委員会・呉屋宏委員長(無所属)は、「私は入り口だと思ってる。これから、この条例をどのように育てていくのかが、県民一人ひとりに問われている。本当に共生ができる社会というのが、将来日本が目指さないといけない世界だと思っている」と語った。 検討委は文教厚生委員会の委員やそのほかの賛同する議員でつくり、委員長は文厚委員長の呉屋氏が務め、2015年10月中旬に県聴覚障害者協会と意見交換し、11月9〜11日に国内先進地の鳥取、神奈川を視察後に条例素案を策定していた。 当時呉屋氏は「ミラノの視察を受けて議員が一斉に条例の必要性を感じた。義務教育での学習に加えて、企業など各事業所で手話への理解を深める内容の条例としたい」と述べ、素案策定を急ぐ考えを示していた。 沖縄県聴覚障害者協会の野原龍信会長は、「手話を言語として認識するだけでは十分ではない。聴覚障がい者が障がいを感じることなく生活できる環境をつくることが大事。普通学校で英語を教えるように、手話を教えることが必要だ。手話言語条例がそのきっかけになれば」と期待している。 また協会の比嘉豪理事は、普通学校に通い、健常者と同じ教育を受けてきたが、日本の教育は障がいへの理解を深めないと問題点を指摘。「歴史教科書に載っているのは健常者のことばかり。学校教育で教えないと理解する下地が育たない」と説明。問題は教科書だけではない。沖縄ろう学校に赴任する教師は手話を覚えるカリキュラムがない。そのため個人で手話を学ぶが、覚えた2、3年後には転勤になり、専門性が求められる教育現場に適任者が定着しないという。「手話が不完全な先生では生徒の学習も不完全になる。十分な学力が身に付かなければ社会性を養うことも難しい。聴覚障がい者の就職率が低い原因もそこにある」と語っている(2015年11月14日配信『琉球新報』)。 一方、条例を先取りする形で取り組みを始めた自治体もある。那覇市消防局は2015年2月、聴覚障害者の救急患者に対応するため、救急隊員を対象とした手話の勉強会を開催した。 『人差し指と中指を手首につけます。建物という感じの手話なんですけど、2つセットで病院です』 参加者「安心してください(手話)、どうしました?(手話)、表情豊かにいきたいと思います」「現場でですね、聞き取れないことも過去にあったので、大変勉強になりました。今後、勉強したことを現場で活かせれば良いかなと思います」 那覇市消防局・屋嘉比勝救急課長「コミュニケーションが取りづらかったというのが実際ありまして、これを機会にですね、手話の必要性を感じました。きょう一度だけではおそらく対応できないと思いますので、今後ともできる限りやっていきたいと考えております」と語った(2016年2月25日オンエアー『琉球朝日放送』)。
手話は僕たちの言葉」 沖縄ろう学校発表会、言語条例を紹介(2017年2月9日配信『琉球新報』)
「手話は僕たちの言葉」とし、県手話言語条例などについて紹介した高等部の学生ら=5日、北中城村の県立沖縄ろう学校 輝け! 今1つの『和』になる瞬間をみんなに届けよう」をテーマに、沖縄県立沖縄ろう学校の第20回学習発表会・文化祭が5日、北中城村の同校で開かれた。舞台発表、展示の部とに分かれ、日ごろの取り組みを精いっぱい発表した。会場は、子どもの晴れ舞台を見ようと、多くの観客で埋まった。 高等部は「明日へ」という演目で、手話について多くの人に知ってもらおうと、昨年県議会で可決した「県手話言語条例」などについて紹介。「手話は僕たちの言葉」「皆さんの支えがあれば苦しいことも乗り越えられる」と力強い演技で観客を魅了した。 高等部3年の松川あかねさんは「笑顔で楽しい文化祭にしようと、最後まで一生懸命に取り組んで来た。素晴らしい成果を残せたと思う」と、文化祭の出来栄えを喜んだ。 [手話推進の日]学び 使う機会広げよう(2016年4月20日配信『沖縄タイムス』−「社説」) 毎月第3水曜日は、今月施行された県手話言語条例に基づく「手話推進の日」だ。 最初の手話推進の日にあたるきょう、県はホームページで「おはよう」や「こんにちは」など簡単な手話表現の紹介を始める。込み入った話はできなくても、相手の顔を見て、あいさつを交わせば、互いの距離は縮む。 条例をきっかけに、手話への理解を深め、使用しやすい環境づくりを図りたい。 都道府県レベルでは6番目となる県の手話言語条例は、前文で「(手話は)独自の語彙(ごい)及び文法体系を有し、ろう者とろう者以外の者が、意思疎通を行うために必要な言語」とうたう。 関係者が「大きな前進」と喜ぶのは、手話を音声言語の日本語と同じ言語と定めた点だ。 日本のろう教育は長い間、相手の口の動きを読み、発声訓練を行う「口話法」が中心だった。健常者に近づくことを優先したため、手話を「手まね」と軽んじ、禁じてきた歴史がある。 聴覚障がい者の間で大切に受け継がれ、発展してきた意思疎通手段にもかかわらず、使用を禁止するのはアイデンティティーの否定にもつながる。 その流れを変えたのは、2006年、国連で採択された障害者権利条約だ。手話を言語と位置付ける条約で、国内でも11年に改正された障害者基本法に同様の内容が盛り込まれた。 県条例理解の第一歩は、少数者の文化をはぐくむ手話の重要性に気づくことである。 ■ ■ 条例の柱は、手話の普及に関する施策の推進や手話通訳者の養成で、県の責務を明記している。もう一つの柱、学校での取り組みでは、聴覚障がい児が手話を学ぶ機会の保障と、教員の手話技術の向上を求める。 具体的な施策は、県手話施策推進協議会の審議を経て、年度内に策定される手話推進計画に盛り込まれる。 現在、県に登録している手話通訳者は64人と少なく、イベントや会議に派遣する絶対数が不足している状況だ。健常者と障がい者をつなぐ手話通訳者の養成は、差し迫った課題である。 条例が可決された県議会本会議で、議場に手話通訳者が配置されたことがニュースとなった。しかし通訳がついたのは提案理由説明の場面だけ。傍聴希望を受け通訳者を積極的に配置するなど議会のバリアフリー化も急ぎ取り組まなければならない課題だ。 ■ ■ 地方自治体で先行する条例づくりとは別に、国主導で手話を普及させる法整備の必要性も叫ばれている。 「日本手話言語法」の制定を求める意見書は、この春までに、全国の1700を超える全ての地方議会で採択された。 特別支援学校で必須教科として手話に取り組むなど、教育分野の環境整備で国の果たす役割は大きい。 より住民に近い地方議会の意見書に表れた民意の重さを受け止めれば、その動きを後押しする手話言語法の制定は待ったなしである。 県議会(喜納昌春議長)の2月定例会(2016年4月2日配信『沖縄タイムス』−「大弦小弦」) 県議会(喜納昌春議長)の2月定例会最終本会議で、手話言語条例案が可決されると、聴覚障がい者や支援者らは両手を挙げヒラヒラと振った。同じ傍聴席には、手話で表した「音のない拍手」に目を見張る六つの若き瞳があった ▼当日、KBC学園未来高校3年の金城大空(ひろたか)さん(17)と城間隆之介さん(17)、1年の比嘉健吾さん(16)が県議会を初めて傍聴した。3人は、投票できる年齢が18歳に引き下げられる意義や課題を取り上げている本紙「18歳選挙権」特集面の企画に応募した ▼「政治や議会を知らない」と話していた3人が口をそろえたのは「言葉が難しい。理解できないことが多い」という感想。思わず、うなずいた。専門用語が多い話は大人も難しい。「開かれた議会」に向けた課題を浮き彫りにした ▼金城さんは翌日の朝刊で条例可決の記事を探して読んだ。聴覚障がい者らの喜びと条例の大切さの理解を深めるため、議場で見た体験とニュースを結びつけて考えた ▼3人とも夏の参院選では選挙権がない。「投票するまでには、政治のことや政治家の公約をもっと勉強したい」と意欲的だ。政治の現場を見ることでその距離感はぐっと縮まったようだ ▼本会議では、やじが飛び交う場面があり、喜納議長が何度も「静粛に」と制した。政治家の怒号が高校生の目にどう映ったか気がかりだ。 手話言語条例成立 国も法整備に取り組め(2016年3月30日配信『琉球新報』−「社説」) 手話を言語として認め、その普及を目指す「県手話言語条例」が県議会本会議で全会一致で可決、成立した。県民こぞって手話の普及に取り組み、ろう者と交流する機会を広げ、相互理解を深めたい。 聴覚に障がいのある人がストレスを感じずに意思疎通できる環境を広げる上で、条例は大きな意義がある。手話普及に向けた取り組みは健常者の障がい者に対する理解にもつながる。条例制定を高く評価したい。 県は今後、ろう者や学識経験者らで構成する県手話施策推進協議会を設置する。活発な議論を通して、手話普及に有効な施策を推進計画に盛り込むことを期待したい。 条例は県に対し、市町村と連携して手話を学ぶ機会の提供、手話通訳者の養成、学校教育における手話普及に向けた取り組みへの支援などに努力するよう求めている。 ろう児らが通学する学校の設置者には、ろう児とその保護者に手話学習の機会を提供し、教職員の手話技術向上にも必要な措置を講ずるように努めることを求めた。 いずれも共生社会の実現には不可欠な事項である。だが相応の財政措置ができなければ、条例を生かすことは難しくなる。全国で手話を普及させるためにも、国の責任と財政措置を明記した法整備が必要だ。 障害者基本法は、全ての障がい者が可能な限り手話を含む言語などを選択できるようにすると定めている。付則では、障がいに応じた支援体制の在り方を検討し、必要な措置を講ずることを国に課している。にもかかわらず国は「手話だけの法律を作る動きはない」とし、手話の普及に必要な措置を講じることに消極的である。 振り返ってみてほしい。日本のろう教育は相手の口の動きで会話を理解する「口話法」を奨励し、手話は学校では排除された。手話が教育手段として位置付けられたのは1990年代初めだが、手話は今も教科にはなっていない。 条例素案に対する意見公募には「ろう者の言語である手話が禁止され、手話を学ぶ場が奪われたことにより、ろう者の尊厳が傷つけられた」などの声が寄せられている。国は過去の誤りを反省すべきである。 国に「日本手話言語法」の制定を求める意見書は、国内1788の全地方議会で採択された。これだけの民意を無視することは許されない。 意思疎通の権利を尊重 県手話条例、議員提案(2015年12月1日配信『琉球新報』) 県議会で議員提案の「手話言語条例(仮称)」制定を目指す検討委員会(委員長・呉屋宏県議)の条例のたたき台(素案)が30日判明した。たたき台は、手話を言語と認識し、手話が使いやすい環境を整備し、聴覚障がい者の意思疎通の権利の尊重を基本理念に位置付けた。さらに県民に手話を学ぶ機会の確保や、聴覚障がい者が通う学校に手話教育の環境整備を求めることも盛り込んだ。ただ当事者団体からは具体的活動の明記を求める声も上がった。 小中学校で手話学習を 沖縄県議会に条例検討委(2015年10月2日配信『沖縄タイムス』)
沖縄県議会与野党は2015年10月1日、県内小中学校への手話学習の導入などを目的とした「手話言語条例」の検討委員会(呉屋宏委員長)を発足した。来年の2月定例会に議員提案の条例案として提出したい考え。検討委は与野党の超党派で構成しており、全会一致で可決する公算が大きい。 条例が制定されれば、都道府県では鳥取、群馬、神奈川に続き4県目となる。 また、県議会での議員提案による政策条例は、ことし7月に制定された外来生物の侵入防止を目的とした県外土砂規制条例に次いで、6例目となる。国内では鳥取県が2013年に国内で初めて手話言語条例を制定。県議会では糸洲朝則氏(公明県民無所属)が必要性を訴えていた。 ことし1月に糸洲氏を含めた文教厚生委員会がイタリアのミラノ市を訪ね、通常の授業を手話で行う「インクルーシブ(包括的な)教育」を視察し、県議会内で条例制定に向けた動きが加速した。 検討委は文教厚生委員会の委員やそのほかの賛同する議員でつくり、委員長は文厚委員長の呉屋氏が務める。10月中旬に県聴覚障害者協会と意見交換し、11月9〜11日に国内先進地の鳥取、神奈川を視察する。年内に条例素案を策定し、県民意見の聞き取り(パブリックコメント)を経て、2月定例会に提案する予定。 呉屋氏は「ミラノの視察を受けて議員が一斉に条例の必要性を感じた。義務教育での学習に加えて、企業など各事業所で手話への理解を深める内容の条例としたい」と述べ、素案策定を急ぐ考えを示した。 「手話は言語」認めて 沖縄県聴覚障害者協、条例制定に期待(2015年11月14日配信『琉球新報』) 県議会が手話言語条例(仮称)制定に向けて取り組んでいる。来年の2月定例会への条例案提出を目指し、与野党でつくる検討委員会が関係団体との意見交換や先進地視察を重ねる予定だ。10月20日には県聴覚障害者協会の野原龍信会長らが検討委の議員らに対し、聴覚障がい者を取り巻く現状を語った。 手話言語条例 制定の動きを歓迎する(2015年10月3日配信『琉球新報』−「社説」) 県議会が手話言語条例の議員提案での制定に向けて取り組んでいる。積極的な動きを歓迎したい。 条例は手話を言語として認め、使用しやすい環境整備を図ることなどが目的だ。制定に向けて県議会は与野党で構成する検討委員会を発足させた。小中学校での手話学習の導入を盛り込むことなどが検討されている。来年2月の定例会に条例案提出を目指すという。実現に向けた実りある議論を期待したい。 手話を言語として認め、障がい者や健常者に普及させることなどを盛り込んだ条例制定の動きは全国各地で進んでいる。ことし8月末時点では全国18県市町で施行されている。 都道府県では2013年10月に全国で初めて制定した鳥取や群馬、神奈川の3県で制定されている。このほかにも北海道や山梨県などが制定について検討している。 沖縄県議会では1月に文教厚生委員会がイタリアを訪問し、通常学級で手話を使う「インクルーシブ教育」を視察したことなどを契機に条例制定に向けた議論が始まった。 検討委は障がい者団体と意見交換した上で、パブリックコメント(意見公募)などを実施して条例案を提出する予定だ。条例制定の必要性については各会派ともに一致しているという。ぜひ具体的な議論を加速させてほしい。 手話について関係団体は「聴覚障がい者は頭に手話が浮かび手話で考えるため筆談での理解が困難」(全国手話通訳問題研究会の伊藤正事務局長)とその必要性を強調し、手話の普及に向けて国による法整備を訴えている。 世界ではニュージーランドなど、手話を公用語として認めている国もある。手話言語条例の制定を通して手話への理解を深め、不足している手話通訳者の養成に結び付けることなどが求められる。 全国初となった鳥取県の条例は、手話を「独自の言語体系を有する文化的所産」と明記し、手話の普及や手話が使いやすい環境整備を推進することを県や市町村の責務と定めた。 鳥取県は条例制定後、県民向け講座や小中学校での指導手引書作りに取り組み、県内での手話検定の受検者が倍増した。手話教育の充実にもつながり、鳥取での「全国高校生手話パフォーマンス甲子園」も始まった。沖縄でも同様の成果を期待したい。
目次 前文 第1章総則(第1条―第6条) 第2章障害を理由とする差別の禁止等(第7条―第17条) 第3章障害を理由とする差別等を解消するための支援(第18条―第24条) 第4章障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくりに関する基本的施策(第25条―第37条) 第5章雑則(第38条) 第6章罰則(第39条) 附則 沖縄県では、県民の心に根ざした人と人とのつながりを大切にする相互扶助の精神に基づき、共に助け合う地域社会が築かれてきた。 しかしながら、障害のある人については、障害を理由とする差別を受けたり、良好な居住環境、自由な移動、情報の利用等が十分に確保又は配慮されていないこと等の様々な要因により、自己の望む生活を十分に実現できているとは言えない。 また、障害のない人にとって問題にならないことが障害があることにより社会的障壁となったり、障害のある人に対する理解の不足、誤解、偏見等により、今なお日常生活及び社会生活の中で、困難を余儀なくされている人も少なくない実態がある。 さらに、本県においては、離島及びへき地における厳しい生活条件が、障害のある人にとって不利なものになっている。 このような状況において、私たちに今こそ求められているのは、障害のある人に対する福祉、医療、雇用、教育等の充実とともに、障害のある人に対する障害を理由とする差別等をなくしていく取組である。 ここに私たちは、国際社会や国内の動向を踏まえ、障害のある人もない人も全ての県民が等しく地域社会の一員としてあらゆる分野に参加できる共生社会の実現を目指して、この条例を制定する。 第1章総則 (目的)第1条 この条例は、障害を理由とした様々な困難を余儀なくされている人々の状況に鑑み、障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくりに関し、基本理念を定め、県の責務及び県民の役割を明らかにするとともに、障害を理由とする差別の禁止等を定め、障害を理由とする差別等を解消するための支援等を総合的かつ計画的に推進することにより、全ての県民が障害の有無によって分け隔てられることなく社会の対等な構成員として安心して暮らすことができる共生社会の実現に寄与することを目的とする。 (定義)第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 (1)障害のある人 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)、難病(治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病をいう。)その他の心身の機能障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 (2)社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 (基本理念)第3条 第1条に規定する共生社会の実現は、全ての障害のある人が障害のない人と等しく基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、県、市町村及び県民の相互の連携協力の下に、社会全体として推進していかなければならない。 (県の責務)第4条 県は、前条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、市町村と協力し、障害を理由とする差別等を解消するための支援等を総合的かつ計画的に実施するものとする。 (県民の役割)第5条 県民は、基本理念にのっとり、障害のある人に関する理解を深めるとともに、第1条に規定する共生社会の実現に寄与するよう努めるものとする。 (財政上の措置)第6条 県は、障害を理由とする差別等を解消するための支援等を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。 第2章障害を理由とする差別の禁止等 (障害を理由とする差別の禁止等)第7条 何人も、第3項及び次条から第17条までに規定する行為のほか、障害のある人に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。 2 何人も、障害のある人から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害のある人の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害のある人の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 3 何人も、障害のある人に対し、虐待をしてはならない。 (福祉サービスの提供における差別の禁止)第8条 福祉サービス(社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条第1項に規定する社会福祉事業に係る福祉サービス又はこれに類する福祉サービスをいう。以下同じ。)を提供する者は、障害のある人に福祉サービスを提供する場合において、障害のある人に対して、障害を理由として、次に掲げる行為をしてはならない。 (1)本人の生命又は身体の保護のためやむを得ないことその他の正当な理由がなく、福祉サービスの提供を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を課す行為その他不利益な取扱いをする行為 (2)福祉サービスの利用に関する適切な相談及び支援が行われることなく、本人の意に反して、入所施設における生活を強制する行為 (医療の提供における差別の禁止)第9条 医師その他の医療従事者は、障害のある人に医療を提供し、又は受けさせる場合において、障害のある人に対して、障害を理由として、次に掲げる行為をしてはならない。 (1)本人の生命又は身体の保護のためやむを得ないことその他の正当な理由がなく、医療の提供を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を課す行為その他不利益な取扱いをする行為 (2)法令に特別の定めがある場合を除き、本人が希望しない長期間の入院その他の医療を受けることを強制し、又は隔離する行為 (サービスの提供等における差別の禁止)第10条 サービスの提供又は商品の販売を行う者は、障害のある人にサービスを提供し、又は商品を販売する場合(第8条、前条及び第12条から第15条までに規定する場合を除く。)において、障害のある人に対して、障害を理由として、サービスの本質を著しく損なうこととなることその他の正当な理由がなく、サービスの提供又は商品の販売を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を課す行為その他不利益な取扱いをする行為をしてはならない。 (雇用等における差別の禁止)第11条 事業主は、障害のある人を労働者として雇用する場合において、障害のある人に対して、障害を理由として、次に掲げる行為をしてはならない。 (1)労働者の募集又は採用に当たって、本人が業務の本質的部分を適切に遂行することができないことその他の正当な理由がなく、応募若しくは採用を拒み、又は条件を課す行為その他不利益な取扱いをする行為 (2)賃金、労働時間その他の労働条件について、本人が業務の本質的部分を適切に遂行することができないことその他の正当な理由がなく、不利益な取扱いをする行為 (3)本人が業務の本質的部分を適切に遂行することができないことその他の正当な理由がなく、解雇し、又は退職を強制する行為 (教育における機会の付与)第12条 校長、教員その他の教育関係職員は、障害のある人に教育を行う場合において、障害のある人に対して、その障害の状態、その者の教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制整備の状況等に応じ、本人に必要と認められる適切な指導及び支援を受ける機会を与えなければならない。 (建築物等の利用における差別の禁止)第13条 不特定かつ多数の者の利用に供される建築物その他の施設の所有者、管理者又は占有者は、障害のある人が建築物その他の施設を利用する場合において、障害のある人に対して、障害を理由として、当該施設の構造上やむを得ないことその他の正当な理由がなく、当該施設の利用を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を課す行為その他不利益な取扱いをする行為をしてはならない。 (公共交通機関の利用における差別の禁止)第14条 公共交通事業者等(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)第2条第4号に規定する公共交通事業者等をいう。)は、障害のある人が旅客施設(同条第5号に規定する旅客施設をいう。以下この条において同じ。)又は車両等(同条第7号に規定する車両等をいう。以下この条において同じ。)を利用する場合において、障害のある人に対して、障害を理由として、その管理する旅客施設及び車両等の構造上やむを得ないことその他の正当な理由がなく、旅客施設及び車両等の利用を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を課す行為その他不利益な取扱いをする行為をしてはならない。 (不動産取引における差別の禁止)第15条不動産の取引を行う事業者は、不動産の取引を行う場合において、障害のある人又は障害のある人と同居する者に対して、障害を理由として、不動産の構造上やむを得ないことその他の正当な理由がなく、不動産の売却、賃貸、転貸又は賃借権の譲渡を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を課す行為その他不利益な取扱いをする行為をしてはならない。 (意思の表明の受領における差別の禁止)第16条 障害のある人から意思の表明を受けようとする者は、当該障害のある人に対して、障害を理由として、当該障害のある人が選択した意思の表明の方法によっては表明しようとする意思を確認することに著しい支障のあることその他の正当な理由がなく、意思の表明を受けることを拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を課す行為その他不利益な取扱いをする行為をしてはならない。 (情報の提供における差別の禁止)第17条 障害のある人から情報の提供を求められた者は、当該障害のある人に対して、障害を理由として、次に掲げる行為をしてはならない。 (1)情報を提供することにより他の者の権利利益を侵害するおそれがあることその他の正当な理由がなく、情報の提供を拒み、若しくは制限し、又はこれに条件を課す行為その他不利益な取扱いをする行為 (2)手話、点字その他障害の特性に応じた手法での情報の提供が可能である場合に、当該情報の提供を拒む行為 第3章障害を理由とする差別等を解消するための支援 (障害のある人に関する理解の促進)第18条 県は、障害のある人に関する県民の理解を深めるため、障害のある人と協力し、障害のある人が権利の主体であることを踏まえた啓発活動の推進、公共的団体の関係者への研修その他の必要な施策を講ずるものとする。 (差別事例相談員に対する支援等)第19条 県は、市町村が行う事務又は事業のうち、前章の規定に違反する行為(以下「差別等」という。)に該当すると思われる事例に関する相談業務及び相談事業を遂行するもの(以下「差別事例相談員」という。)に対して、技術的助言その他の必要な支援を行うものとする。 2県は、前項に規定するもののほか、市町村が地域の実情に応じて行う障害を理由とする差別等を解消するための施策を策定し、又は実施する場合は、市町村に対して、情報の提供、技術的助言その他の必要な協力を行うものとする。 (広域相談専門員)第20条知事は、次に掲げる業務を適正かつ確実に行わせるため、障害を理由とする差別等の解消に関し優れた識見を有するものと認められる者を広域相談専門員として任命することができる。 (1)専門的な見地から行う差別事例相談員への必要な技術的助言に関する業務 (2)差別等に関する相談事例の調査及び研究に関する業務 (3)前2号の業務に付随する業務 2知事は、前項の規定により任命をしようとする場合は、あらかじめ、沖縄県障害を理由とする差別等の解消に関する調整委員会(第24条に規定する沖縄県障害を理由とする差別等の解消に関する調整委員会をいう。第22条及び第23条において同じ。)の意見を聴かなければならない。 3広域相談専門員は、中立かつ公正な立場で、誠実にその業務を行わなければならない。 4広域相談専門員は、正当な理由がなく、この条例の規定により業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。 (助言又はあっせんの求め)第21条差別等を受けた障害のある人、その家族、保護者、後見人その他の関係者は、知事に対し、助言又はあっせんを求めることができる。ただし、当該求めをすることが当該障害のある人の意に反することが明らかであると認められる場合は、この限りでない。 (助言又はあっせん)第22条 知事は、前条の規定による求めがあった場合は、沖縄県障害を理由とする差別等の解消に関する調整委員会に対して助言又はあっせんを行うよう求めるものとする。 2沖縄県障害を理由とする差別等の解消に関する調整委員会は、前項の規定により知事から求めがあった場合は、助言若しくはあっせんの必要がないと認めるとき、又は差別等の性質上助言若しくはあっせんをすることが適当でないと認めるときを除き、助言又はあっせんを行うものとする。 3沖縄県障害を理由とする差別等の解消に関する調整委員会は、助言又はあっせんのために必要があると認める場合は、差別等に係る関係者に対し、助言又はあっせんを行うために必要な限度において、必要な資料の提出又は説明を求めることができる。 4沖縄県障害を理由とする差別等の解消に関する調整委員会は、差別等の解消に必要なあっせん案を作成し、これを当該差別等に係る関係者に提示することができる。 (勧告)第23条 沖縄県障害を理由とする差別等の解消に関する調整委員会は、前条第4項に規定するあっせん案を提示した場合において、差別等をしたと認められる者が正当な理由がなく当該あっせん案を受諾しないときは、当該差別等をしたと認められる者が必要な措置をとるよう勧告することを知事に対して求めることができる。 2知事は、前項の規定による求めがあった場合において、必要があると認められるときは、差別等をしたと認められる者に対して、必要な措置をとるよう勧告することができる。 (沖縄県障害を理由とする差別等の解消に関する調整委員会)第24条 障害を理由とする差別等の解消に関し、助言又はあっせんを行わせ、及び必要な事項を調査審議させるため、沖縄県障害を理由とする差別等の解消に関する調整委員会(以下「調整委員会」という。)を置く。 2調整委員会は、委員15人以内で組織する。 3委員は、障害を理由とする差別等の解消に関して優れた識見を有する者であって、次に掲げるもののうちから、知事が任命する。 (1)障害のある人又はその家族 (2)福祉、医療、雇用、教育等の関係団体を代表する者 (3)経営者又は経営団体を代表する者 (4)学識経験のある者 (5)前各号に掲げるもののほか、知事が必要と認める者 4委員の任期は、2年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。 5委員は、再任されることができる。 6委員は、正当な理由がなく、この条例の規定により業務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。 7前各項に定めるもののほか、調整委員会の組織及び運営に関し必要な事項は、規則で定める。 第4章障害のある人もない人も共に暮らしやすい社会づくりに関する基本的施策 (障害福祉サービスの充実)第25条 県は、市町村が実施している障害福祉サービスの種類及び量の把握に努め、広域的な見地から障害福祉サービスの充実に必要な施策を講ずるものとする。 (雇用の場の拡大)第26条 県は、事業者に対する障害のある人の雇用の啓発、障害のある人が働きやすい環境の整備及び一般就労への移行を促進し、雇用の場の拡大等に必要な施策を講ずるものとする。 (教育の充実)第27条 県は、障害のある人が障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善し、又は克服し、自立を目指すようにするため、特別支援教育の充実に必要な施策を講ずるものとする。 2県は、市町村と協力し、障害のある人が、その年齢及び能力に応じ、かつ、その特性を踏まえた十分な教育を受けられるようにするために、障害のある児童及び生徒の就学指導その他の支援に関して、障害のある児童及び生徒並びに保護者に対し十分な情報の提供を行うとともに、可能な限りその意向を尊重するよう必要な施策を講ずるものとする。 (移動等の円滑化を図るための都市等のデザイン及びバリアフリー化の促進)第28条 県は、障害のある人の移動又は施設の利用の円滑化を図るため、障害の有無、性別、年齢等にかかわらず多様な人々が利用しやすいように考えられた都市又は生活環境のデザイン並びに障害のある人が円滑に利用できるような施設の構造及び設備の整備等を促進するために必要な施策を講ずるものとする。 (駐車場の確保等)第29条県は、障害のある人の自動車による円滑な移動に資するため、自動車の乗降に支障のない広さを有する路外駐車場(駐車場法(昭和32年法律第106号)第2条第2号に規定する路外駐車場をいう。)の確保及び自動車の乗降に支障のある人の駐車を妨げる行為の防止その他の適切な駐車場の利用に関する必要な施策を講ずるものとする。 (住宅環境の整備)第30条 県は、障害のある人が地域で自立して生活するため、不動産事業者、障害福祉サービス事業者等と協力し、住宅環境の整備に関する必要な施策を講ずるものとする。 (障害の特性に応じた情報提供)第31条 県は、障害のある人に関する障害の特性に応じた情報の提供に必要な施策を講ずるものとする。 (差別等をなくすための民間の活動の促進)第32条 県は、障害のある人に関する県民の理解を深めるため、障害のある人に対する差別等をなくすための民間の活動を促進するために必要な施策を講ずるものとする。 (障害のある人同士による相談体制の充実)第33条 県は、障害のある人が自己の抱える課題を主体的に解決する力を取り戻し、又は高めるため、同様の経験を有する障害のある人同士による問題解決のための相談体制の充実に必要な施策を講ずるものとする。 (文化芸術活動等に参加できる環境の整備)第34条 県は、障害のある人の地域における生活の質を高めるため、文化芸術活動、観光、スポーツ又はレクリエーションに参加できる環境の整備に関する必要な施策を講ずるものとする。 (市町村防災計画に関する情報提供等)第35条 県は、障害のある人の防災及び災害時の避難について、市町村における防災計画に関する市町村への情報の提供、技術的な助言その他の必要な施策を講ずるものとする。 (離島等における障害のある人に対する福祉の充実)第36条 県は、障害のある人が生まれ育った地域で暮らすことができるよう、事業者、障害福祉サービス事業者、関係行政機関等と協力し、離島及びへき地における地域の実情や課題に対応する障害のある人に対する福祉に関し必要な施策を講ずるものとする。 (基本的施策の計画的推進)第37条県は、市町村と協力し、この章に規定する基本的施策の計画的推進を図るものとする。 第5章雑則 (規則への委任)第38条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、規則で定める。 第6章罰則 第39条 第20条第4項又は第24条第6項の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 附則 (施行期日)1この条例は、平成26年4月1日から施行する。ただし、第24条及び次項の規定は、公布の日から施行する。 (準備行為)2第20条第1項の規定による広域相談専門員の任命に関し必要な行為は、この条例の施行前においても、同項及び同条第2項の規定の例により行うことができる。 (検討)3知事は、この条例の施行後3年を目途として、障害のある人を取り巻く社会経済情勢の変化等を勘案し、この条例の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。 ================================= 共生社会への火(2016年9月16日配信『琉球新報』−「金口木舌」) 片手で火が付けられるライターは、人に優しい「ユニバーサルデザイン」の先駆けだそうだ。両手が必要なマッチよりも便利だ。第1次世界大戦中、腕を負傷した兵士が使えるように、ライフル銃の薬きょうで作ったのがトレンチライターだと言われる ▼ユニバーサルデザインとは、お年寄りや障がい者だけでなく誰もが使いやすい製品や環境を指す言葉。温水洗浄便座も、もともとは痔の患者や妊産婦向けの医療機器だった。シャンプーのボトルの突起や低床バス、投入口の低い自動販売機なども、日常に溶け込んでいる ▼「バリアフリー」が物理的障壁を取り除く引き算の考え方なのに対し、ユニバーサルデザインは全ての人に優しい仕様を目指す掛け算の考え方だ ▼ここ数年は、さらに進めた「インクルーシブ」もよく使われる。直訳すると「包含する」。障がいの有無にかかわらず分け隔てなく社会が包み込むことをいう ▼インクルーシブ条例とも呼ばれる「県共生社会条例」が施行されて2年半。障がい者団体が当事者として積極的に関わって成立したが、定められた調整委員会が一度も開かれていないことが分かった ▼条例はゴールではなく、共生へのスタートのはず。簡単に付くライターとは違い、多くの人の願いや努力が集まって付いた大きな火だ。理念に命を吹き込む取り組みを続け、生きた条例にしたい。 |