札幌市手話言語条例

 

札幌市は、2018年2月20日開催の市議会に「札幌市手話言語条例」案(議案45号)を上程し、3月6日の本会議(最終日)で可決。即日施行された。

 

(理由)

手話が言語であることに対する市民の理解の促進に関し、基本理念、市の責務並びに市民及び事業者の役割を定めるため、本案を提出する。

 

札幌市の人口は1,962,987人。943,948世帯(2018年2月1日現在)。札幌市内の手話使用者は約1000人。聴覚・平衡機能障害者は6,488人(身体障害者の10.6%=1993年現在)。

 

手話言語条例は2013年10月に鳥取県が全国で初めて制定されたのを各自治体で制定が進み、北海道内では、石狩市新得町鹿追町名寄市登別市室蘭市帯広市旭川市洞爺湖町伊達市苫小牧市釧路市赤平市で施行されている。また手話以外のコミュニケーションを含めた条例は兵庫県明石市千葉県習志野市等、8の自治体で成立している(2018年2月16日現在)

 

  北海道も2月21日開会の道議会に、同様の条例案を上程した。

 

 これに先立ち、札幌市は、2017年11月28日から2017年12月28日まで、(仮称)札幌市手話言語条例(素案)に対するパブリックコメント(意見募集)を行った。12月17日(日曜日)14時00分〜16時00分には、手話によるご意見の受付も行われた。手話による意見表明は、手話通訳者が日本語に通訳し、市職員が書面に記録する方法で行われた。条例説明の手話動画(13分4秒)も市のホームページで配信された。

 

 

 

パブリックコメントの結果は、提出者数:48人(内手話によるもには16件)、意見件数:130件だった。

 

 

 

 

札幌市手話言語条例

 

手話は、音声言語とは異なる語葉語彙(ごい)や文法体系を有し、手や指、体の動き、表情などにより表現される言語である。

我が国の手話は、ろう者の間で大切に受け継がれてきたが、長年の間、手話が言語として社会的に認識されることはなく、手話を使用する者は、様々な不安を感じながら生活してきたところである。

こうした中、障害者の権利に関する条約や障害者基本法において、手話が言語として位置付けられたものの、手話が言語であることに対する理解は十分なものではない。

ここに、私たちは、手話が言語であるとの認識を普及するため、この条例を制定する。

 

(日的)

第1条 この条例は、手話が言語であることに対する市民の埋解の促進に関し、基本理念を定めるとともに、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにし、もって手話が言語であるとの認識を普及することを日的とする。

 

(基本理念)

第2条 手話が言語であることに対する市民の理解の促進は、手話が独自の言語体系を有する文化的所産であり、また、手話を使用して日常生活又は社会生活を営む者がその他の者と等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されることを基本理念として行われなければならない。

 

(市の責務)

第3条 市は、前条の基本埋念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話を使用して日常生活又は社会生活を営む者及びその支援者その他の関係者と協力して、手話が言語であることに対する市民の理解を促進するための施策を行うものとする。

 

(市民の役割)

第4条 市民は、基本理念に対する理解を深め、前条の市の施策に協力するよう努めるものとする。

 

(事業者の役割)

第6条 事業者は、第3条の市の施策に協力するよう努めるものとする。

 

附 則

この条例は、公布の日から施行する。

 

(理 由)

手話が言語であることに対する市民の理解の促進に関し、基本理念、市の責務並びに市民及び事業者の役割を定めるため、本案を提出する。

 

 

(仮称)札幌市手話言語条例(素案)

 1 条例制定の背景

言語は、人と人とが意思や感情などを伝えあう手段であり、また、論理や思考などの知的活動の基礎となるものです。手話は、音声言語とは異なる独自の文法体系を有し、手や指、体の動き、表情などにより表現される言語です。

手話は、日本語などの音声言語を手の動きに置き換えたものではありません。日本語が声で表現されるように、手話という言語が、手の動きなどで表現されているのです。

わが国の手話は、聴覚に障がいがあり、手話を使用するろう者の間で大切に受け継がれてきました。しかしながら、長年の間、手話が言語として社会的に認識されることはなく、手話を使用する人々は、様々な不安を感じながら生活してきました。

こうした中、平成18年(2006年)に国連総会において採択された「障害者の権利に関する条約」(障害者権利条約)において、「言語とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。」と規定され、手話が言語であることが国際的に明文化されました。また、国内では、平成23年(2011年)に改正された障害者基本法において、「言語(手話を含む。)」と明記されています。手話が言語であると条約や法律に明記されたことにより、手話が言語であることについて、徐々にその認知が広まりつつあります。

しかしながら、現状においては、その広がりは十分なものではありません。平成28年度に札幌市が実施したインターネットアンケート調査においては、手話そのものの認知度は86%と高い一方で、手話が日本語とは異なる独自の文法体系を持つ言語であることを知っているのは、36%にとどまっています。

私たちは、手話が言語であるとの共通認識を持ち、手話を使用して暮らしやすいまちを実現していく必要があります。

このような背景のもと、手話が言語であることに対する市民の理解の促進に関し、基本理念を定めるとともに、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにし、これらによって手話が言語であるとの認識を普及するため、この度、新たな条例を制定します。

 

★ワンポイント講座〜言語と文法〜

文法のルールは、それぞれの言語で異なります。以下の例では、日本語・英語・手話で、単語の順番が違います。また、日本語の「森さん」の性別は分かりませんが、英語と手話では女性であることが分かります。

●日本語:森さんはどこに行きたいのですか。森さんが行きたいのはどこですか。どこに森さんは行きたいのですか。

●英語:Where does Ms. Mori want to go?(どこ 〜する 〜さん(女性) 森 したい 行く ?)

 

2条例の目的

手話が言語であることに対する市民の理解の促進に関し、基本理念を定めるとともに、市の責務並びに市民及び事業者の役割を明らかにし、もって手話が言語であるとの認識を普及することを目的とします。

 

3条例の基本理念

手話が言語であることに対する市民の理解の促進は、手話が独自の言語体系を有する文化的所産であり、また、手話を使用して日常生活又は社会生活を営む者がその他の者と等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されることを基本理念として行われなければならないものとします。

 

4市の責務

市は、基本理念にのっとり、手話を使用して日常生活又は社会生活を営む者及びその支援者その他の関係者と協力して、手話が言語であることに対する市民の理解を促進するための施策を行うものとします。

 

5市民及び事業者の役割

(1) 市民の役割

市民は、基本理念に対する理解を深め、市の施策に協力するよう努めるものとします。

(2) 事業者の役割

事業者は、市の施策に協力するよう努めるものとします。

 

6条例の施行時期

条例案は、平成30年(2018年)第1回定例市議会に提出することを予定しており、同議会において可決された場合、条例の公布日に施行することを予定しています。

 

 

関連記事・資料

 

札幌市、手話言語条例検討 点字、音訳とは別立て 障害者団体と協議へ(2017年6月6日配信『北海道新聞』)

 

 札幌市は5日、手話を言語と位置づけ、聴覚障害者の権利向上などを目指す「手話言語条例」の制定を検討する方針を明らかにした。市は当初、手話だけでなく点字や音訳など、障害者の意思疎通手段を幅広く盛り込む条例を目指していたが、聴覚障害者団体から疑問の声が出たため、方針転換した。

 

 岸光右(こうゆう)副市長は5日の定例市議会で「手話(言語条例)については今後、制定を含め検討したい」と述べ、障害者団体などと協議していく姿勢を示した。「手話は独自の言語体系を有する」との位置づけや、「市は手話への理解を促進する施策を行う」などの条文について検討される見通し。制定時期は未定。

 

札幌市;障害者の意思疎通促進 2017年4月の条例施行を目指し検討委

 

 札幌市の秋元克広市長は2016年1月21日の定例記者会見で、障害者のコミュニケーション環境を改善する「手話・障害者コミュニケーション促進条例(仮称)」の制定を目指し、検討委員会を設置すると発表した。

 

 

 新条例について、秋元市長は「全ての市民が障害の有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重しながら共生する社会を実現するための取り組み」と語った。

 

情報の取得や伝達が難しい市民が社会参加しやすい環境の実現が狙いで、視覚や聴覚などに障害を抱える当事者や、手話通訳者などの支援者、識者など13人で構成する委員会では、手話を言語と明文化した上で、情報提供手段の多様化に向けた具体的な方策などが検討される。1月27日に初会合を開き、2016年秋頃までに条例案の素案を策定し、2017年2月に開会予定の定例市議会への提案を想定しているという。

 

 2010年に国連障害者権利条約第2条(定義)において、「言語」とは、「音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう」と明記され、それを受けて2011年に施行された改正障害者基本法で手話が言語であると明文化されたことなどから、全国の自治体で手話の普及や理解を促進する条例の制定が進んでいるが、札幌市が制定を目指す条例は、情報の取得やコミュニケーションに困難な障害がある市民全般を対象とするため、これまでの手話条例を発展させて、手話だけでなく、点字や要約筆記、絵文字、わかりやすい表現など多様な手段の普及を促進することを目的としている。

 

 

第14回定例市長記者会見資料(2016年1月21日)(pdf

 

●「手話・障がい者コミュニケーション検討委員会」の設置について

札幌市では、情報取得やコミュニケーションに困難を抱える方が等しく社会参加ができる環境を整備・促進することを目的として、「(仮称)札幌市手話・障がい者コミュニケーション促進条例」の制定等について検討します。

検討に当たっては、情報取得やコミュニケーションに困難な障がいがある当事者や学識経験者などで構成する「手話・障がい者コミュニケーション検討委員会」を設置し、1回目の会議を1月27日に開催します。

札幌市は今後も、全ての市民が障がいの有無にかかわらず、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するための取り組みを進めていきます。

1 「札幌市手話・障がい者コミュニケーション検討委員会」について

(1) 設置目的

手話を含む言語、点字、絵文字など、障がいの程度・特性に応じた多様なコミュニケーション手段を用いた情報提供を推進する「(仮称)札幌市手話・障がい者コミュニケーション促進条例」の制定や、同手段を利用しやすい環境を整備するための施策等について意見交換を行うために設置。

(2) 構成等

情報の取得やコミュニケーションに困難な障がいがある当事者および支援者や学識経験者など13人で構成(別紙就任予定者名簿のとおり)。

なお、当事者委員の障がい特性に応じ、手話通訳および要約筆記の配置、点字または拡大文字使用資料やヒアリングループ(磁気ループ)の設置などを行う。

(3) 開催時期

概ね2ケ月ごとに計5回程度開催予定。

(4) 検討スケジュール(予定)

1月〜9月 検討委員会による意見交換等

10月〜11月 パブリックコメントの実施

平成29年2月〜3月 条例案を平成29年第1回定例市議会に提出

平成29年4月1日 条例の施行

2 第1回手話・障がい者コミュニケーション検討委員会の開催について

(1) 日時

 1月27日(水)14:00〜17:00

(2) 場所

 視聴覚障がい者情報センター2 階「大会議室」(中央区大通西19丁目)

(3) 議題

 @ 事務局説明

 ・検討の背景等について

・札幌市の現状と課題について 

 A 各委員から

・手話言語について

 ・その他のコミュニケーションについて

 B 質疑応答、意見交換等

3 「(仮称)手話・障がい者コミュニケーション促進条例」のイメージ(札幌市素案)

別紙「『(仮称)札幌市手話障がい者コミュニケーション促進条例』の検討について」のとおり。

問い合わせ先

保健福祉局障がい保健福祉部障がい福祉課 唐嶋田(からしまだ)、松下

電話:211−2936 ファクス:218−5181 

 

手話・障がい者コミュニケーション検討委員会 就任予定者名簿(50音順)

所属等 氏名

札幌市身体障害者福祉協会 会長 浅香 博文

北海道自閉症協会 会長 上田 マリ子

札幌市中途失聴・難聴者協会 会長 扇谷 明美

札幌手話通訳問題研究会 副運営委員長 太田 利実

札幌市視覚障害者福祉協会 会長 近藤 久江

札幌聴覚障害者協会 理事長 渋谷 雄幸

札幌市精神障害者家族連合会 会長 菅原 悦子

札幌盲ろう者福祉協会 会長 富樫 眞弓

北海学園大学 法学部 講師 中條 美和

札幌市手をつなぐ育成会 会長 奈須野 益

日本ALS協会北海道支部 支部長 深瀬 和文

札幌学院大学 人文学部 准教授 松川 敏道

点訳奉仕 むつの会 代表 山本 清子 

札幌市障がい福祉課

 

「(仮称)札幌市手話・障がい者コミュニケーション促進条例」の検討について

1 「(仮称)手話・障がい者コミュニケーション促進条例」の必要性

(1) 「障害者の権利に関する条約」の批准と障がい者福祉に関する各法の整備

○ 「障害者の権利に関する条約(平成26年1月批准)」、「障害者基本法(昭和45年5月施行、平成23年8月改正)」

・ 手話が言語であると明文化

・ 全ての障がい者が情報の取得又は利用のための手段及び意思疎通(コミュニケーション)のための手段についての選択の機会が確保されるための適当な措置をとること

○ 障害者総合支援法(平成24年6月制定、平成25年4月施行)

「意思疎通について支援が必要な障害者等が障害福祉サービスを円滑に利用することができるよう必要な便宜を供与すること。」が市町村等の責務として明記

○ 障害者差別解消法(平成25年6月制定、一部の附則を除き平成28年4月施行)

「行政機関等は、障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。」

(2) 全国の各自治体で手話の普及や理解の促進を図るための条例を制定する動きが活発化3県29市町村で成立(平成28年1月1日現在)

(3) 札幌市議会でも意見書を可決し、国に要望

○ 平成25年11月「『手話言語法(仮称)』の早期制定を求める意見書」を可決

○ 平成26年3月「『情報・コミュニケーション法(仮称)』の早期制定等を求める意見書」を可決

2 「(仮称)手話・障がい者コミュニケーション促進条例」のイメージ(札幌市素案)

○ 「(仮称)手話・障がい者コミュニケーション促進条例」は「手話言語条例」を含む概念

○ ろう(あ)者だけでなく情報の取得やコミュニケーションに困難な障がいがある市民全般を対象

○ 手話を含む言語、文字の表示、点字、絵文字、平易な表現など多様なコミュニケーション手段で情報提供することを推進

◎ 条例の趣旨・目的(案)

情報取得やコミュニケーションに困難を抱える方が等しく社会参加ができる社会環境を整備・促進

@ 多様な情報・コミュニケーションによる共生社会の実現

A 手話の普及及び理解促進

B (障がいがある方の)情報取得及びコミュニケーションの支援・促進

 

 

広がる手話条例 障害への理解深めたい(2016年2月22日配信『北海道新聞』−「社説」)

 

 聴覚障害者が暮らしやすい社会をつくりたい―。そんな思いが広がっているのだろう。

 道内で手話条例を制定する自治体が増えている。手話を言語と位置づけて普及を図り、聴覚障害者の意思疎通が円滑に行われるような環境を整備するのが目的だ。

 聴覚障害への理解が進む。各地の動きを歓迎したい。

 聴覚だけでなく、さまざまな障害に対して支援を促す条例の準備も進みつつある。

 加齢などによって障害者となる人が今後、増えるとみられている。配慮がいっそう求められる。条例の拡大は安心できる社会づくりを後押しするに違いない。

 道内では石狩市で2013年12月に、全国の市町村では初めて手話条例ができた。その後、十勝管内新得、鹿追の2町と名寄市が続き、4月に施行予定の登別市を含めれば5市町になる。

 全国ではまだ33の自治体にとどまっており、その15%を占める北海道の自治体は、けん引役になっていると言っていい。

 石狩市は講習会の開催や小中学校への出前授業の実施などで、手話の普及に努めている。通訳者を配置して、聴覚障害者がスマートフォンなどを使って電話ができるよう手助けする仕組みも整えた。

 道や札幌市、帯広市なども制定に向けて準備を始めている。

 札幌市が検討している「手話・障がい者コミュニケーション促進条例(仮称)」は、聴覚や視覚、知的など障害の内容を問わず、支援することを目指している。

 手話のほか、点字や音訳、要点をまとめて筆記で伝える「要約筆記」などを、意思疎通の手段として条例に盛り込むことを視野に入れているという。

 「手話基本条例」の制定を目指している高橋はるみ知事も、同様の考えを示している。

 条例の対象を広げることは、住民が多くの障害に目を向けるきっかけになる。それをまちづくりに生かせば、住む人に優しい共生社会の実現に結びつくだろう。

 道内は急速な高齢化の影響で、障害者は年々増加している。聴覚や視覚を含む身体障害者に限れば、14年3月末で30万人超だ。10年前に比べ3万人以上も多い。

 誰もが生活への安心感を高めたいと願っている。だからこそ、障害があっても自立していける環境を早急に整える必要がある。

 そのためには、手話通訳者や介護者など、障害者を支える側への支援も欠かせない。

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